第16話 この街の人たち、順応性高すぎない?

「すみません……現状、ショウさんが受けられるミオネ海岸のクエストはないんです……」

「おおぅ……マジか」


 ミオネ海岸へ向かうためにギルドへ寄ったショウたちだが、アリアは申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「でも、ショウさんはもっと休んでほしいといいますか……昨日もあんなこと、あったし」

「いやいや、昨日は軽傷で済んでるし、まだまだ動けるよ」


 昨日は会わなかったものの、何があったのかは彼女も知ってるようであり、ルーナと同様心配そうに見つめてくる。


「あっ、そういえばスカイたちは?」

「確か……今朝には出発したかと思いますよ」

「マジか、別れの挨拶したかったのにな……」


 ここからはゲーム内にない、ショウのストーリー。

 となれば本来の主人公スカイとの関わりは消えるはずなので、最後に挨拶くらいは交わしたかったと肩を落とす。


「まぁ、ヤツのことはいいか。でも、そっかぁ……ないのかぁ……」

「力不足ですみません……」

「あー、いやいや。俺がFランク冒険者っていうのが悪い。アリアが謝ることじゃないよ」

「Fランク? お前がか?」

「え?」

「ちょっ」


 突然聞こえてきたショウではない声に、アリアが目を丸くさせる。


「今……そのスライムの方から声しませんでした?」

「えっ、こ、声? な、なんのことかな? 気のせいじゃないかな?」


 全力ですっとぼけるショウだが……苦しい言い訳だというのは、本人が一番自覚していた。


「でも、今のは――」

「――おいおいおい、いつまで待たせんだよ?」


 と。

 アリアとの会話中、背後から聞き慣れた声が。


「万年Fランクの雑魚はできねえつってんだろ。なら、とっとと諦めろよこのバカ」


 振り返ると、薄紫のロンゲ男ギルスが小馬鹿にしたような目で文句を言ってきていた。


 ――おぉ、助かった!


 嫌味しか言ってこないこいつはいつも邪魔でしかないのだが……今回ばかりは、ショウにとって助け舟のように見えた。

 これで話が逸れる。


「大体よぉ、ユニークスキルも持たねえFランクのショウはここにくる権利もねえんじゃねぇか? とっとと冒険者やめちまえよ!」

「……ギルスさん。本人が冒険者をやりたいという意思があるのならば、あなたがそんなこと言える権限なんてありませんが」


 ――あれ? アリア、怒ってる?


 わざと周囲に聞こえるように馬鹿にしてくるギルスに対して、ムッとした表情で言い返したのはアリアの方だった。


「どうだか? 見てみろよ、こいつ、テイムモンスターでスライムなんか連れてやがるぜ? 雑魚中の雑魚って言われてるFランクモンスターのスライムを――ほげぇっ!?」


 ニコニコと受け流していたショウだったが……アルダートはそうもいかなかった。

 体を腕に変化させ、顔面にストレートパンチをお見舞いする。

 あまりの威力に、ギルスは机を巻き込みながら後ろへ吹っ飛んでいった。


「バカ、手出すなって!」

「あぁっ!? 誰がバカだと!?」

「お前のことだよ、このバカ!」

「や、やっぱり……そのスライム、喋るんですね!?」

「あっ……」


 ――しまった。


 ついアルダートにツッコミを入れてしまったが……これはもう誤魔化しきれない状況になってしまった。


 喋るスライムを街に連れてくるなんてイベント、ゲームでは起こり得ない。どんな反応をされるのだか……。


「おい、喋るスライムだってよ」

「え、マジ?」

「そんな個体いるの?」

「てか、モンスター喋るの? 俺、そんなの見たことないぞ?」


 ――まずい。


「……まぁ、でも。喋るもんは喋るしな」

「騒ぐほどでもないか」

「なんなら俺たちだって喋るし」

「とうとう喋るモンスターの登場かー……時代の流れを感じるねぇ」

「え、あれ? そ、そんなもん?」


 あっさりと受け入れた周囲に、ショウが思わず目を丸くした。

 てっきり、もっと奇異な目で見られると思っていたのだが……。


「珍しいスライム、連れてますね。お名前はあるんですか?」

「ええと、アルダートだけど……その、アリアも大丈夫なん?」

「? 大丈夫、とは?」

「だってスライムが喋ってんだぜ?」

「え、はい。喋ってますね」

「変だなーとか、思わない?」

「いや、確かにさっきはビックリしましたけど……それ以外は特に」


 ――これは予想外。


 アルダートという異質な存在。人間たる故、もっと大事おおごとになるかと想定していたのだが……案外、この世界の人たちはそういったことには優しいらしい。


 ……というのは、さておき。


「お前なぁ、なんで殴ったんだよ」

「これでも加減してやったんだ。死んでねぇだけありがたいと思え」

「そういう問題じゃないから!」

「はあ? じゃあ、あいつに言いたい放題でいいのかてめぇ」

言わせておけばいいんだって! どうせあいつは口だけ、態度でかい奴は弱いだけ、強い奴は貶さないの当たり前、そんなことにも気付かないあいつは半人前!」

「……ぷふっ」


 ある意味アルダートより酷いことをしているショウの言い回しに、またもやアリアは吹き出していた。


「て、てめぇ……言わせておけばよぉ……!」


 吹き飛んだギルスが顔を真っ赤にさせるが、ショウは気にしていない。


「それに俺、あいつに一度勝ってるし」

「あ、あんなの無効だ! 剣も使わねぇような卑怯な手で、勝ったって誇れんのかよ!?」

「勝ちは勝ち。ルールなんて言われてないし……というか、嫌がる俺を無理矢理決闘させた奴が言える義理じゃないよな?」

「こ、この……!」


 ギルスは次の言葉を続けようとするものの、何も言えず拳をプルプル震わせるばかり。


「――ということだ、アルダート。真に強い奴は、そう簡単に手を出さない」

「なるほど、一理あるな」


 ギルスのボコボコっぷりを見て、アルダートも納得する。


「よしよし、いい子だ。それじゃあ、今度からはあいつの言葉なんて無視するんだぞ」

「そうだな」

「へっ……ダセぇやつがダセぇやつとつるんでダセぇコンビだな」

「「んだとコラ!」」

「げふっ!?」


 早速手を出した。


 アルダートのみならず、ショウまでもが、転がるギルスに向かって思いっきり蹴りを放っていた。


「おい、手出さないんじゃなかったのか?」

「ダサいって言われるのは例外だ。男ならダサいっていうのを認めちゃいけない」

「……へっ、気が合いそうだな俺たち」


 ショウのこだわりが理解できるのか、アルダートはニヤリと笑った。


 ――さて、気を取り直して。


「ところでクエストが受けられないから困るのはなんでだ? 勝手に行けばいいじゃねぇか」

「馬車を出してくれないんだよ。さすがにここから歩くと一日じゃ着かないからさ。クエストを受ける場合は行き帰りがすごく楽になる」

「よくわからねぇけど、要するに早くて楽ってことか」

「そゆこと」


 とは言え、ないものはない。

 せめてショウがFランク冒険者でなかったら――


「あ、そうか」


 ふと閃いたショウがポンと手を打つと、アリアの方を振り返る。


「アリア」

「あ、はい。なんでしょう?」

「俺、Eランク冒険者の昇格試験受けるわ」

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