第15話 魔王城へ行こうぜ!

「おい、俺を魔王がいるところに連れていけ」

「…………」


 翌朝。

 アルダートに叩き起こされたかと思いきや、いきなりストーリー終盤の話をされた。


「……おはよう」

「あ? 今、挨拶なんてどうでもいいんだよ」

「いやいやいや。挨拶は大事だよ、愛着は湧くし、哀楽だって伝わるし。最悪、コミュニケーション不足で争いに発展するかも」

「ふん、全部俺には関係ないことだ」

「そうかなあ……?」


 せっかく共闘しあう者同士。仲良くしておいて損はないと思うのだが……。


「で、魔王はどこだ? 連れていけ」

「あー……まあまあまあ、ちょっと落ち着こうぜ」


 ショウは起き上がると、頬をポリポリと掻く。


「俺も連れていきたいのは山々なんだが……ごめん、まだ連れていけない」

「……どういうことだ?」

「条件が揃ってないんだ」


 そう……魔王の元に辿り着くにはいくつかの条件が必要なのだ。全ての条件が満たせてなければ、会うことさえできない。


「その条件っていうのは、なんだ?」

「うーん……まあ色々あるんだけど、まずはこの国に隠されている『秘宝』っていうのを探さなきゃいけない」

「よし、じゃあ集めるぞ。今から全部」

「ちょちょちょっ、待て待て待て!」


 早速出ていこうとするアルダートを慌てて引き留める。


「一日じゃ、全部集めるのなんて無理だって!」


 そんな簡単に秘宝が集まるられようものなら、とっくのとうに魔王討伐は終わっている……はずだ。


「ちっ……思ったより使えねぇな、てめぇ」


 すぐにでも魔王のところに行けると考えていたアルダートが軽く舌打ちをする。


「あー……じゃあ、さ」


 彼が一刻も早く動きたい気持ちはわかった。

 現状どうしようもできないが……何も動けないわけではない。


 なので、一つ提案してみる。


「今日は魔王城、見に行くか」

「……は?」



***



「おはよー」

「ん、おはよう」

「アルちゃんもおはよー」

「その『アルちゃん』って呼び方やめろ。虫唾が走る」

「ええー? アルちゃんはアルちゃんだよー? 可愛いし」

「こ、のっ……! 覚えてろよ、小娘……!」

「……アルダート」

「わかってるっての」


 ルーナには手を出さない契約。それがある限り、アルダートができるのはせいぜい悪態をつくことくらいだ。


「今日はどこに行くの?」

「ミオネ海岸まで」

「ずいぶん遠いとこ行くんだねー。海岸のモンスターなら近場のナナマル海岸でいいんじゃないの?」

「いや、今日はミオネ海岸の方じゃないといけないんだ」

「ふーん? ……でも、ちょっと危なくない?」


 何気なくルーナの一言だが……まあ、確かに昨日あんなことがあった後だ。少し心配してくるのもわかる。


「大丈夫だよ、アルダート連れてくし」

「いや、ますます心配なんだけど」

「どういう意味だ、おいてめぇ」


 まあ、ルーナが勘違いするのも仕方がない。


 一見、ただの喋るだけのスライム。誰もが知っているFランクモンスターに、とんでもない力が籠められているだなんて、誰も想像できないだろう。


「朝ご飯、食べていくでしょ?」

「あぁ、食べてくよ。ありがとな」

「アルちゃんは嫌いな食べ物とかある?」

「あ? 俺に好き嫌いなんかねぇよ」

「うわぁ……偉い! 偉いよ、アルちゃん! お兄ちゃんも見習ってほしいなあ……ゴルモーヤの実とかさ」

「……あんな苦いの、食べ物じゃねぇよ」

「だから美味しくなるように味付けしてるじゃない」

「苦いもんは苦いんだ」

「まったく……お兄ちゃんはいつまで経ってもお子様だなぁ」


 ニヤつくルーナに、ショウは気まずそうに顔を背けた。


「じゃあ、ちょっと待っててね」


 そう言いながら、キッチンへ向かっていく。


 楽しそうに料理する妹の背中を見ながら……ふと気になったことが一つ。


「……意外だな」

「あ? なにが?」

「いや……お前のことだから『朝飯なんてどうでもいい、さっさと行くぞ』なんて言うと思ってたから」


 本当に意外だった。

 魔王を倒すことしか考えない彼がルーナの朝ご飯を素直に受け入れるとは思わなかったのだ。



 するとアルダートはふんと鼻を鳴らす。


「貰えるものは遠慮なく全部貰っていくスタイルだ。だから食べさせてくれるっていうんなら、遠慮なくいただいてく。だから、食えるモノにはいちいちケチをつけねぇ」

「……へぇ」


 それはまた――意外。

 ゲーム上でのアルダートは、あの洞窟で倒すことしかない存在。彼のこだわりなど攻略情報にない。


 ――もうちょっと……こいつのこと、知りたいな。


 ゲームでは知ることのできない発見。

 未知のストーリーに、ショウは少し心を躍らせていた。

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