第14話 ただいま

「――お兄ちゃん!」


 ドアを開けると、ショウの顔を見るなりルーナが飛びついてきた。


「よ、よかった、ほんとに、よかった……!」

「うん」

「お兄ちゃん、死んじゃう、んじゃないかって、もう、ダメかも、って……!」

「うん」

「勇者の、スカイさんに、助け求めたけど……! 絶対間に合わないって、わかってても……!」

「うん」

「で、でもよかった……! 生きてるん、だよね……そうだよね……!」

「……うん」

「お、お兄ちゃん、お兄ちゃん……!」

「あぁ――ただいま」


 泣きじゃくるルーナの頭を優しく撫でる。

 帰ることができる家がある――ただそれだけ。

 ごくありふれた、ただの日常なのに――ショウには何処か込み上げてくるものがあった。


 ――死亡フラグを回避したら……こんなにも幸せなことって、あるんだな。


「……あの、お兄ちゃん」

「ん?」


 しばらく抱き合うこと数分。だんだんと落ち着いてきたルーナが、とあることに気がつく。


「ちょっと気になってたんだけど……なんか、さっきからポーチ動いてない?」

「あー……ルーナには話さなきゃな。おい、もう出てきていいぞ」


 ショウの言葉にポーチから顔を出したのは……青い透明のまんまるボディ。


「ス、スライム……!?」


 予想外のモンスターに、ルーナが目を丸くした。


「えーっと、こいつは……」

「ふぅん、ここがてめぇの家か。悪くねぇな」

「っ!?!?!? しゃ、喋った!? 今、このスライム、喋ったよお兄ちゃん!!?」

「お、おいバカ! だから人前では喋るなっつっただろ!」


 ――あれだけ注意したのに!


「あ? そんなん、知ったことか。モンスターが喋って何が悪いんだ」

「だからってなぁお前! なんの説明もなしに喋るモンスターなんて見たら……!」


 妹はどう思うだろうか――不安になり、ルーナの方を見ると。


「か……か……」


 彼女は両手をギュッと握り。


「可愛いっ……!」

「……へ?」


 妙にキラキラした目でアルダートを見つめていた。


「え、可愛い可愛い超可愛いっ! 触っていいっ? ありがとう!」

「なっ、てめ!?」


 ――俺、まだ返事してないんだが。


 ショウの返答を待たずにアルダートの身体を持ち上げると、思いっきり抱きつく。


「えっ、超やわらかーい! プニプニー! いやーん、かーわーいーいーっ!」

「おい小娘、俺に近寄るなっ、そして抱きつくのをやめろっ」

「お名前はなんて言うのかな?」

「誰が言うか!」

「……アルダート」

「おい、ショウ! てめえ、後で覚えておけよ!」

「アルダート……アルちゃんね、アルちゃん! えっ、お兄ちゃんって、いつの間にかテイムできたの!?」

「いや、テイムとはちょっと違うんだけど……しばらくの間、こいつとも一緒に暮らすことになる。その……いいか?」

「いいも何も全然っ! うちにずっといていいからね、アルちゃんっ」

「やめろっ、はーなーせーっ!」


 ――思ったよりスムーズに話が進んでよかった。


 本来のアルダートなら……ここで今、ルーナに手をかけていただろう。


 だが――それはショウと約束したので、決してやらないのだ。



***



「おいお前」

「……ショウだ」

「じゃあ、ショウ」


 ――遡ること数時間前。


 無事戦闘が終わり、スライムに戻ったアルダートは地面にへたりこむショウに声をかける。


「これでよかったのか?」

「……あぁ。お前が手を貸してくれたおかげで助かったよ。ありがとう」

「…………」


 本当に感謝していた。

 アルダートがいなければ、この運命を変えることはできなかったのだから。


「……そうか」

「じゃあ――」

「――じゃあ、次は俺の番だな」

「……え?」


 別れを告げようとした時、アルダートがニヤリと笑いショウの言葉を遮る。


「おいおい、俺は命の恩人だろ? 俺の願いだって叶えてくれなきゃ不公平なんじゃねぇか?」

「……そうだな」


 確かにアルダートは命の恩人。ここで「ありがとう、さようなら」と終わらせてしまう方が不誠実だろう。



「何が欲しい? 自在の鎧か? 無限魂のマフラーか? それとも……このコア・デュライヴが欲しいか?」

「いやいや。確かに力も欲しいが……もっと面白ぇもんだ」

「ほう」

「てめぇ自身だ」

「ほう……ほう? ん??」


 言ってる意味がわからない。


「俺と契約しろ」

「契約って……テイムのことか? ごめん、俺キャプチャーしか覚えられないんだよ。弱いから」

「じゃあテイムしなくていい……というか、テイムしない方がお互い都合がいいだろ。自由に動けるし」

「あー……つまり協力関係になれ、と」

「そうだ」


 と、彼は実に悪い顔をする。


「お前……色々知ってそうだなぁ?」

「あぁ、まあ……そこら辺の奴らよりかは」

「じゃあよ――俺の親が生きているっていうのも、知ってるのか?」

「まあ、うん。片方は生きてる。だって魔王だし」

「そうか……なら――俺の親、魔王を殺すまで協力しろ」

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