第13話 運命に抗え!

「……これが!」


 グリムドラゴンの一撃を受け止めたショウは、思いっきり跳ねのける。


「この力なら――てめぇでも楽しめそうだ、なぁっ!」


 そう――今の状態はまさに一心同体。

 ショウの身体にアルダートの力が入り込み、彼と感覚を共有し合っている状態なのだ。


 故に、コア・デュライヴから得た力をアルダート自身も感じることができる。


 攻撃を弾かれ、ブレスを吐き出そうとするドラゴン。


「――遅ぇんだよ!」


 ――それを、即座に躱す。

 スピードも、先程とは段違いである。


「まだまだぁ! こんなもんじゃ、ねえよなあ!?」


 攻撃を弾く。


 また弾く。


 常人なら一撃死しかねない攻撃を、全てカウンターを食らわしていく。


 ――今!


 ショウは体勢を崩したグリムドラゴンを見て、エネルギー剣のレバーを握ると……剣のエネルギーが

青く染まっていく。


「――っらぁ!」

「――!」


 その威力は――まさに圧倒的。

 先ほどとは比べ物にはならないレベルの剣撃が、グリムドラゴンにダメージを与えていく。


 やがてグリムドラゴンの動きが鈍りはじめてきた。


 ――いける!


「決めるぞ!」

「っしゃぁ! ……で、なにで決めるんだ?」

「――こいつで、だ!」


 使い方は直感でわかる。

 可動域を3秒間押し続けると……エネルギーが右足に籠められていく。


「お、おぉっ?」

『アルティメットチャージ!』

「よっしゃぁ! なんだかよくわからねえけど……やってやるぜ!」


 ショウたちは天高く飛び上がると、グリムドラゴンに向かって全体重を乗せたキックを打ち放つ。


「「っだぁぁぁぁぁ!!」」

「――っ!!!」


 二人の鋭い一撃を真正面から受けたグリムドラゴンは、木々をなぎ倒しながら大きく吹き飛んでいき……やがて動かなくなった。


 ショウは剣で腹部をかっさばくと、禍々しい紫色をしたコアを引き抜く。


 コアはモンスターの心臓。身体から引き抜かれた時――もう二度と起き上がることはない。


「はぁっ……はぁっ……!」


 戦いが終わり……ショウは変身を解除すると、その場で膝から崩れ落ちた。


「や……やった……! やったんだ、俺は……!」


 息を切らしながらも、生を実感する。

 目の前には……天敵、グリムドラゴンの死体。


「勝ったんだ……こいつに……運命に……!」


 グリムドラゴンによって必ず死ぬという確定された運命を――彼は今、自らの手で打ち破ったのだ。



***



「――ショウ!」


 よろめきながらも街へ戻ると……数名が慌てて彼の元へ駆け寄ってきた。


「お、おぉ、スカイか……」

「お前、大丈夫か!? 正体不明のドラゴンっていうのはどうした!?」

「あ、もう大丈夫……死んだよ……」

「死んだって……お前が倒したのか!?」

「あーいや……が倒してくれたんだ……その、めちゃくちゃ強い人が……」

「なーんだ。私の圧倒的火力で消し炭にしてやろうと思ったのに」

「いや、リーリア……あなたが本気出したら、山火事どころじゃ済みませんよ……」


 つまらそうにため息つくリーリアに、シアがそっと突っ込みを入れる。


「君、運がよかったね。実は私たち、君の妹に助けを求められたんだよ」


 と、心底心配そうに声をかけてきたのは王宮騎士団団長のメルサ。

 三人と一緒のところを見ると、どうやら仲間に加わったらしい。


「妹に……」

「うんうん。特徴からして、おそらくグリムドラゴン。確かSランクモンスターの中でも相当強いやつだよ」

「そう、なんですか……」


 普段のショウならば、『あ、全部知ってます』と軽く受け流すところなのだが……今はそれよりも、死ななかった実感を味わっているのだ。


「でもまあ……本当によかったー……俺たちが旅立つ前だってのに、幼馴染みの死ぬ姿なんて見たくないし」

「スカイ……」

「あっ、そうだ。俺達、明日出発するんだ」

「そうか……寂しくなるな」


 自然と口に出た言葉だった。

 正規ルートではショウは死んでいるので、この会話自体はゲーム内で存在しないもの。


 勇者の才能やハーレムの運命を妬んでいた彼だったが……いざいなくなるとわかると、どことなく寂しさを感じたのだ。


 そんなショウの肩をポンと叩くスカイ。


「ま、そう言うなって。またいつか会えるさ」

「……そう、だな」

「そうだ。今から宴会を――」

「あーちょっとスカイくん、ステイ」


 と、メルサが呆れ顔をしながらスカイの腕を引っ張る。


「ショウくんとの宴会は今度ね――彼には、がいるでしょ?」

「……!」

「ほら、君も。『ただいま』って言ってあげなさい」

「……あ、あぁ。ありがとう」


 メルサに促され――ショウは自然と早足で自宅へと向かっていった。

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