第10話 封印されし裏ボスが既に目覚めてる件

「え……」


 思わず言葉を失った。


 特定のアイテムを与えないと覚醒しないはずのスライム、アルダートがなぜもう覚醒しているのか――ショウには意味がわからなかったのだ。


「てめぇ……どうやってここに入ってきた?」


 のこのことやってきたショウに全身青透明の人型スライム。アルダートが怪訝そうに赤い瞳で睨んでくる。


「ここは俺の領域テリトリーだ。なにしに来た?」


 なんて問われるが、当の本人は頭が追いついてない。


 ――えっ、なんで? なんでもう覚醒してんの? 闇のドラゴンが復活した影響? 最序盤で出会うはずのないイベントを起こしたから? ……いや、そんなんじゃ覚醒しないはずだぞ、こいつは。


「いやその……君の力を借りようと――」

「断る」

「……ですよねー」


 即座に断られ、いっそすがすがしさを覚える。


「……ふん。お前見たところ、レベル5の雑魚だな? お前みたいな踏みつけるだけで死ぬような奴には興味ねえが――」


 チラリと無限魂のマフラーに目が向けられた。


「そいつには興味がある。俺に寄越せ」

「……嫌だ、って言ったら?」


 ショウにはわかっていた。

 今この場でマフラーを渡してしまえば、ただでさえ最強のアルダートが更に覚醒してしまうことに。


 そうなってしまえば、いよいよ手も足も出なくなる。だからこそ、彼は拒絶したのだ。


 すると……アルダートはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。


「力ずくで奪ってやるよ」


 ――まずい!


 ショウは念のために持ってきたコア・デュライヴを下腹部に当てる。


 すると……バックルからベルトが自動射出され、腰に巻き付いた。

 両端にある可動部を手で押し込むと、

自在の鎧が装着されていく。


「……へぇ」


 無限魂のマフラーを巻きつけ、黒い複眼つきのフルフェイスをしたショウを見て、アルダートは感嘆な声を上げた。


「お前を倒すなんざ簡単なことだと思っていたが……面白ぇもん持ってんな。そうだよなぁ、やっぱり敵は――強くなくっちゃ、歯ごたえがねえよなぁ!?」


 ――来る!


 アルダートは一気にショウまで肉薄すると、拳を叩きこんできた。


「ぐっ……!」


 拳をなんとか受け止め、バックステップ。


「まだまだぁ!」

「――!」


 アルダートの猛攻は続く。


 結局のところ、自在の鎧と無限魂のマフラーを装備しているとしても、ショウの方がパワーを上回るわけではない。


 やはり裏ボス。ただの肉弾戦では彼を倒すことなど不可能!


「キャ、【キャプチャー】!」


 もう一回試してみるが……あっさりと魔法陣を砕かれてしまう。


「そんなんで俺が従うかよ!」


 ――ダメか!


 やはりアルダートをキャプチャーするには、彼自身を弱らせるしかないしかないようだ。


「こいつはどうかな? 【シャドウハンド】!」


 ――スキル!


 彼の後ろにどす黒い影が集まり、腕へ形成されショウを掴み上げる。


「こ、の……!」


 なんとか脱出しようともがくが……力が強すぎて、ほどくことができない!


「おらぁっ!」

「ぅぐっ!」


 その間にアルダートに詰め寄られ、拳を叩きこまれた。


「なんだ、大したことねえな? 【シャドウカッター】!」


 アルダートの攻撃は続く。

 今度は影を鋭利なブーメラン状に変化させてきた。


「くっ!」


 咄嗟に籠手でガードし、アルダートにショートブレードで斬りかかる。


 ……が。


「なっ……!」


 アルダートは刃を素手で掴むと、剣をそのまま折った。


「……おいおい。なんだそのぬるい攻撃は?もっと俺を楽しませろよ!」

「……!」


 ――効いてない!


 そもそも序盤で死ぬショウ程度が強化したところで……アルダートを倒せるはずがない。


 戦闘開始から30分経過。

 圧倒的な力にショウがねじ伏せられるのも……もはや時間の問題だった。


「――これで終わりだ」


 相手が虫の息だと悟ったアルダートは、全体重を乗せた拳を叩き込む。


 ……が。


「……へぇ、避けるか」


 躱す。

 アルバートの猛攻を全て躱していく。


 彼とてアルダートと何度も交えた人間。攻撃パターンは見切っている。


 ――そしてもう一つ。


「……見つ、けた」

「あ?」

「見つけたぞ、……!」


 ショウはただボコされていたわけではない。必死に勝つ方法を模索していたのだ。


「お前……まだ覚醒し切っていない、半覚醒状態だな?」

「…………」


 そう……裏ボスにしては弱すぎるのだ。


 本気の彼ならば、ショウなんて一瞬で倒せてしまうはず。

 だが、それができないということは……完全にレベル99へ覚醒してないということだ。


「……それがどうした」


 初めてアルダートの顔が曇った。


「お前は何もできない。このまま俺に嬲られて殺されるだけだ」

「はたしてそうかな? 本当は焦ってるんじゃないか? 長期戦になればなるほど、自分にも負担がくる……とか」

「――てめぇ!」


 激昂したアルダートがショウに殴りかかる……が。


「こ、こいつ……!」


 受け流される。


 目にも止まらぬ拳も、蹴りも。

 ボロボロになりながら、アルダートの攻撃を見切っている。

 彼は戦いながら成長しているのだ。


「お前がさっきからスキルを使ってないのは、ただ一つ。半覚醒が故にもうMPが尽きているからだ」

「……!」


 ショウの指摘は図星だったようで。アルバートは悔しげに下唇を噛んだ。


「……なあ、アルダート。俺と契約しないか?」

「あ? 契約ぅ?」

「俺ならお前を完全に覚醒する方法を知っている。だから――お前も、俺に協力してほしい」


 そう……アルダートが復活しても、なんの問題もない。

 彼の目的は最初から一つなのだから。


「俺に力を貸してくれ……一緒に闇のドラゴン、グリムドラゴンを倒してほしい」

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