第9話 裏ボスに会いに行こう
『初心者用のDランクモンスターまでしかいない』と言われるプライ森林には、Sランクモンスターである緑神龍よりやべーやつが存在する。
それが喋るスライムだ。
一見ただのスライムだが……その実、レベル99のとんでもない化け物。SSランクの裏ボスなのだ。
本来なら、ラスボスである魔王(幼女)を仲間にすることにより、挑む事が出来る敵。
しかし、喋るスライム自体の噂は、序盤で既に街の話題となっている。
主人公が終盤まで出会えない理由は、ここで出会ってしまったら話が終わってしまうという運命の強制力が働いているから。
だが、モブキャラならどうだろう。本来死ぬはずの幼馴染であるショウなら、スライムに出会うことができる……はずだ。
そう……ショウの今までの行動は、喋るスライムをキャプチャーするため。
裏ボスの力を一時的に借りることにより、死亡フラグを回避する算段なのだ。
ショウが死ぬまであと2日。
「よっ。調子はどうだ?」
今日もギルドへやってきたスカイに声をかける。
「うーん……ぼちぼち。魔王討伐って言っても、まだよくわかんないんだよな。今できることといえば、仲間増やすことぐらいだし」
「へー、そっかー」
――何がぼちぼちだよ。お前それ、新しいヒロインできてんじゃねーか。例のごとくハーレムしやがって。
しかも、その新しいヒロインというのは……。
「何をしてるです、スカイ」
ぴょこんと顔を出したのは、妹のルーナよりさらに一回り小さい橙色の髪をした少女。
「やあ。君もスカイの仲間かな?」
――まあ、名前知ってんだけどね。
という本音を隠しニコニコと声をかけると、少女はふんと鼻を鳴らした。
「子供扱いしないでくれますか? シアはれっきとした冒険者です」
――出たなメスガキ。
ヒロインの中でも屈指のロリ枠。子供でありながら大人を小馬鹿にするような態度として、かなりの人気を誇っているヒロイン。
だが、職業は盾を主な武器とするウォーリアーというキャップを持っている。
「おいおい……スカイ、流石にこの年齢の少女に手を出すのはまずいだろ」
「人聞きの悪いこと言うな。別に俺から手を出したわけじゃない」
「この私が協力してやるって言ってんのに、なんですかその言い方は! もっと感謝しやがれです!」
――うぜぇな、このクソガキ。
まあこの大人を舐めきった態度こそが、人気の要因でもあるのだが。
「まあ、仲間集めが順調で何より。もうちょっとしたらこの街を出るの?」
「ああ、もう少しこっちで準備してからかな。そしたら旅に出るよ」
「そうか……あ、そうだ。さっきアリアから聞いた話なんだけどさ。最近プライ森林のモンスターが活発化しているらしいんだ。お前なら心配ないと思うが……気をつけろよ」
「誰にもの言ってるんですか。この私とスカイがいれば、全員雑魚ですよ」
「ハハ……まあ、気をつけるよ」
――その被害に遭うのは俺なんだけどな。
運命の日はどんどんと近づいてきている。
この絶望的状況を打破するため、ショウは今日も一人でプライ森林へ向かうことにした。
***
『薬草の採取』――という簡単なクエストを受けるという口実でプライ森林にいるが、本来の目的は喋るスライムとの遭遇である。
レベル99の強敵。ショウのステータスなら一瞬で殺されようものだが……問題ない。
というのも。魔王が居なければ覚醒することはない、ただのレベル1のスライムだからだ。キャプチャーする分には問題ないだろう。
森林をズンズンと進み最深部へ。
本来、ここには緑神龍がいるはずなのだが……先日スカイが倒してしまったので、今は姿形も見当たらない。
……が。この最深部にはもう一つ、奥へ続く道が存在する。
最深部の壁にある魔法陣に手をかける。
ただ、これだけでは開かない。この扉を開けるにはレベル100の力が必要なのだ。
もちろんショウにそんな力はない。だからこそ……この無限魂のマフラーの力の出番である。
マフラーを手に巻き付け、魔法陣へ押し付けると、幾何学的模様が輝きだし、反応する。
「……『我、真実を求めるものなり。魔の者に対抗する最終兵器アルダートへ続く道よ、開け』」
――いつ聞いても、この口実ちょっとハズいよな。
すると魔法陣は眩い光を放ち、壁にぽっかりと穴を開いた。
――この裏技、覚えておいてよかった。
この先にいるのは、錬金術師アルマルガスが作り出した人工モンスター、喋るスライムこと『アルダート』である。
人工的に作られた通路の先にいるのは……一匹の青透明のスライム。
――よし!
予想通り。ショウはスライムへ手をかざした。
今、覚醒前のアルダートはレベル1。キャプチャーをすることなど、容易い。
そして迎え撃つは闇のドラゴン、グリムドラゴン。
勇者となったスカイが緑神龍を倒してしまったことにより、この森のパワーバランスが崩れてしまい、その隙をつくようにして棲みつき出したドラゴン。ショウを殺すモンスターである。
――アリアからの情報が正しければ、ヤツはもうこの森に来ている! 今日、こいつ……アルダートをキャプチャーをできるなら、今日中にヤツを倒せるはず!
深呼吸し、動かないスライムに向けて叫んだ。
「【キャプチャー】!」
……のだが。
「……え?」
スライムの輪郭は緑色に光ったのだが……形成された魔法陣はスライムに触れた瞬間、ガラスのように割れてしまった。
あり得ない。そんなはずはない。
だって――覚醒前のアルダートはレベル1なのだから。キャプチャーが失敗するわけがない。
「……あ? てめぇ……今、俺のことを
力を失っているはずのアルダートはドスの利いた声でそう言うと、人型となっていく。
そう――彼は既に覚醒していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます