第7話 裏通りって魅力的に感じるよね
ショウが死ぬまであと3日。
「よう、仲間集めはどんな感じよ?」
その日の朝もギルドにやってくると、たまたまいたスカイへ声をかける。
「うーん……一人、仲間になっちゃなったんだけど……」
「――スカイ! 今日はこのクエストを受けるわよ!」
と。
スカイの背後から、やたら威勢のいい声が聞こえた。
姿は……見えなくてもショウにはわかる、赤髪でややツリ目の魔法使いだということを。
「……この人は?」
「あー、紹介するよ。幼馴染のショウだ」
「スカイの知人ね。はじめまして、私はリーリア。職業は魔法使いよ」
「はじめまして、ショウだ」
――出たな勇者全肯定ウーマン。
今後、スカイにはいろんなヒロインがくっついていくのだが……中でもこのリーリアという少女には特に強い印象を覚えている。
なぜならば。
「なあ、今日は簡単なクエストにしない?」
「何弱気なこと言ってんのよ。あんたとあたしがいれば最強。どんな敵だって楽勝じゃない」
――あぁ、やっぱむかつく。
別にまだ恋人でもないくせに、距離が近い二人を見ているとイラッとくる。
そう……彼女こそこのゲームのメインヒロイン、リーリアである。
絵に描いたような勇者ヨイショの第一人者、何事も全肯定してしまう、自分と勇者以外の実力は認めない……などなど。
まるで勇者の為に生まれたようなヒロインなのだ。
――ハーレムになるからって、メインヒロインを強く押し出したいのは分かるけどさ……これはやり過ぎだろう。
「っていうか、リーリアって……あのリーリアさん?」
「え、ショウ知ってるの?」
「知ってるもなにも! あの『灼熱』のリーリアさんじゃん! 有名人だぞ!」
「へえ、そうなんだ」
「逆にあんたは、なんで私のこと知らないのよ……」
そう、彼女もギルスと同じAランク冒険者。『灼熱』の異名を持つ魔法使いで、最後まで断トツの火力を誇る超便利キャラだ。
「おいおい……こんなすごい人、どうやって仲間にしたんだよ?」
「いや、なんかプライ森林にいるヌシみたいなモンスターが出てきたからさ。一緒に戦った」
「ヌシみたいなモンスターって……もしかして緑神龍? お前、あれSランクのモンスターだぞ!?」
「らしいね。なんか思ったより歯ごたえなかったけど」
――うっざ。
なんでもないという風に答えるスカイに苛立ちが募る。
「ふふん、さすが私のパートナーね」
――お前も黙れ。
イライラはどんどん加速していくが、表では必死に笑顔を作っていた。
「まあ、順調なら何よりだ。お前なら世界を救えるよ」
「じゃ、私たちはこれで」
「あぁ、頑張れよ」
一枚のクエストを手に持ち、去っていく二人の背中を見送ったショウ。
「ショウさん」
「ん?」
と。
三人のやりとりを見ていたピンク髪の受付嬢、アリアが声をかけてくる。
「寂しいんですか? スカイさんを取られちゃって」
「……その言い方はよくないなぁ」
「あら、違いました? いつも一緒にいるじゃないですか」
「友人として……友人としてね? 遠くに行っちゃうのは確かに寂しいけど……そういうパートナーに選ぶなら、女の子だって。スカイなんかより、アリアの方が魅力的だよ」
「あら、今口説かれてます? スカイさんじゃなくて、私がパートナーでいいんですか?」
「あーほらー、そゆとこ」
中身の会話にクスクスと笑うアリア。
「そうだ。プライ森林で何か変わったことない?」
「変わったこと……ですか?」
「うん。スカイが緑神龍を倒したっていうのがちょっと気になってね……何かあれば、俺にも教えてほしい」
「今のところ、そういう報告はありませんが……わかりました、なるべく早めに伝えますね」
「うん、じゃあよろしく」
「って、あれ? 今日はクエスト受けないんです?」
「あぁー……ちょっと用事があるんだ」
そう、今日はクエストに行くつもりはない。
――さて。
本日ショウが向かうのは、王都の裏通り……ロガーディアン通りだ。
***
城壁に囲まれ、人々の平和がほぼ約束されたような安全な王都オーディにも、荒くれ者の集団が集う場所があったりする。
それがロガーディアン通りだ。
まだ昼間だというのに、太陽が一切差し込まないこの薄暗い通りは、『危ないから近寄ってはいけない』と言われている。実際、ここに住まうのは普通じゃない人たちばかり。
――いや、こっわ。
ゲームで何度も通っているが、ぶっちゃけ未だに慣れてない。
堂々と道の真ん中を歩いて行くショウを睨むような視線が肌に伝わってくる。
――さっさと目的地に向かおう。
ショウが向かったのは、その中の一角に構えている、看板もない小さな店だ。
小さすぎて住居なんじゃないかと勘違いしそうだが、これでもちゃんとした店である。
試しにドアノブを捻ってみるが……開かない。
閉まっているわけではない。実はこの店、入るにはきちんとした順序が必要なのだ。
まずはドアを二回ノック。次にドアノブを二回捻り、またドアを三回ノック。最後にドアノブを捻ったまま5秒固定。
――……4……5。
カチリと音がし、ドアが開いた。
「……見ない顔だな?」
何やら怪しげなものばかりが飾ってある店の中にいたのは、全身黒いローブを羽織った謎の男。
「やあマスター、今日もイカしてるね」
「……なんか馴れ馴れしいな。なんだお前」
――あ、そうだ。まだ初対面だった。
何度もお世話になっているので、つい気さくに話しかけてしまった。
そう、彼は表では流通しないアイテムを売っている店主。
本名は知らないので皆、マスターと呼んでいる。
「お前さ、どうやってこの入り方を知った?」
「あー……ガルア食堂にいる連中に聞いたんだ」
「チッ……あのお喋りどもめ」
嘘だが嘘ではない。
実際、この店の入る方法を知るには、ガルア食堂にいる常連客から聞き出す必要があるのだ。
その為に高い酒を用意したり、様々なミッションをこなさないといけないのだが……すでに入り方を知っている為、すっ飛ばしてしまった。
「まぁいい……で、何が欲しいんだ?言っておくが、うちの商品は値が張るぜ?」
「あぁ、金槌が欲しい。ユニークスキル【禁術】がついているやつな」
「……ほう」
ショウの要求に、マスターがピクリと反応する。
本来ユニークスキルというものは、人間にしか付与されないものだと言われてきたのだが……実は古代の武器にもユニークスキルが付与されているのだ。
「確かにあるよその金槌。しかもスキル【禁術】付き……まるであるのを知っていたかのようにピンポイントだな?」
「たまたまだよー」
――まあ、最初から知ってるが。
「ただ、これはかなりのレアもんだ。5,000万ゴールドでも譲れないが……どうする?」
試すかのようなマスターの言葉だが、ショウは「わかってるよ」と軽く返す。
「だから、それ相応のモノを持ってきたのさ」
「……物々交換ってやつか?」
「その通り」
ショウはバックからとある本を3冊取り出す。
一瞬、馬鹿にするかのように鼻を鳴らしたマスターだが……薄汚れた表紙をまじまじと見つめ、ピタリとその動きが止まる。
「お、おい、まさか……それ、アルマルガスの研究ノート、か!?」
「さすがマスター。物知りだね」
そう、あの秘密の小部屋で手に入れた本。伝説の錬金術師アルマルガスが残したと伝えられている、研究ノートである。
「わ、わかった。交換しよう。だが、そいつを貰うには、ちょっとこっちが対等じゃなさすぎる。何かオマケさせてくれ」
――そう言うと思ったよ。
「あー、それならもう決まっている。レベルアッパーが欲しい」
レベルアッパーとは、その名の通りスキルのレベルを上げてくれるアイテム。錠剤のような丸い形をしていて、1つ飲む毎に自分の所持しているスキルがランダムで上がるのだ。
「つり合う分だけでいいよ」
「……よし、わかった」
ショウの言葉にマスターは頷くと、レベルアッパーが入った瓶を5本カウンターに置く。
「これでどうだ?」
「おいおいおい、冗談はよせって。多すぎない? え、こんなにもらって大丈夫なの?」
あまりの太っ腹ぷりに思わず声を上げる。
怪しさ満載だが、きちんとした値段を出してくれる紳士のマスターなのだが……これはちょっと過剰すぎやしないだろうか。
確か彼の記憶では、金槌とレベルアッパーの瓶、1本と半分くらいだったはずなのだが……マスターが提示したのはその3倍以上の量なのだ。
「何言ってんだよ、あのアルマルガスのノートだぞ? 実物しているかどうかも分からない、そもそも実際にいたかどうかも分からないと言われている伝説の錬金術師だぞ? これくらい出さねえと釣り合わねーだろ?」
――あれ?
マスターの物言いに、ふと疑問が抱く。
確かに伝説の錬金術師アルマルガスの価値は高い。だが……確かこの時点で、アルマルガスの表向きの研究ノートは残されていたはず。
実在していることは、もはや事実のはずなのだが……?
――ま、いっか。
多く貰えるのであれば、それに越したことはない。
ショウは金槌とレベルアッパーをありがたく受け取ると、店を後にした。
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