第6話 こんなご都合展開、求めてないんだが!?
死亡フラグ成立まであと4日。
「ショウ……なんか俺、勇者になっちゃったみたいなんだけど……」
昨日王宮へ連れられたスカイは、朝にギルドでそんなことを周囲に聞こえないような小声で告げてきた。
「は? ……えっ、マジ? 嘘だったら殴るぞ?」
「いや、俺も嘘だと思ってる……」
「お、おぉ……マジか……マジなのか、これ……」
実は知っているが。
「勇者ってアレだろ? 魔王倒す使命が、みたいなやつ」
「あー……そんな感じ」
「えっ、えっ、王様に何もらったよ。金? 金は? いくらだ?」
「一番確認するところはそこかよ……いや、勇者の加護っていうのもらった」
「……それ、ユニークスキルだよな? しかも、超強いやつ」
「あぁ、まぁ……」
「身体能力も一気に底上げされるやつ、だっけ?」
「まぁ、うん……」
無論知っているが。
「でも、なんでスカイが勇者なんだ?」
「なんかユニークスキルを持たない人は勇者の可能性があるらしい」
「え? 本当? じゃあ、俺にも勇者の可能性あるってこと?」
「……あぁー、そうかもな」
「じゃあ俺、第2の勇者じゃん……うわ、お前が旅立ったら、王様んとこ行ってくるわ。そしたら勇者になって、お前のこと追いかけてるかも」
「はははっ、そうかもな」
そして、これが死亡フラグだということも――もちろん知っている。
「で、どうするんだ?」
「なんか最初は仲間を探せって言われたから、仲間探してみる」
「おー応援してるよ。勇者なら強い冒険者がついてくれるだろうから、安泰だな」
「それだといいな。屈強な戦士とか一人でもいてくれれば、助かるし」
「いや、そこは女じゃないんかいっ」
「うーん、女の子かぁ……あんまり興味ないなぁ……」
――けっ、どうせお前についてくる仲間は女ばっかだけどな。
表向きは健気に応援しながらも、心情は悪態をつく。
「ちなみに、ショウは今日どこ行くんだ?」
スカイに問われ、ショウは「あー」と答える。
「ドローリア沼地、かな」
***
「……よし、到着」
本日ショウがやってきたのはドローリア沼地。ここには沼に生息するモンスターがいるが、中でも足を踏み入れてはいけないの底無し沼に用事があった。
一歩でも足を踏み入れたら終わり。どんな屈強な戦士でも、沼に引きずり込まれてしまうのだ。
実は、この底なし沼にはとある仕組みがある。
「えーっと……どっちだっけ。こっちの方だったような……」
目的の沼にたどり着き、彼がポーチから取り出したのは……釣り竿。
「よいしょ――っと」
竿を思いっきり振り、沼の中に投げ込む。
実はこの沼、底なし沼なんかではない。沼の底に眠っているアイテム、『魂のマフラー』が誰も上がってこれない原因なのだ。
このアイテム、生命体に反応し相手のエネルギーを吸い取っていく。ゲーム上では装着者のHPを奪っていくという呪いのアイテムだ。
一見すればただのゴミアイテムだが……クラフトすることによって、超強力なアイテムへ大変貌する。
勇者ならある程度のレベルまで達すれば、奥深くの沼を一瞬でジャンプして駆け上がることが可能なのだが……それは【勇者の加護】があってこそ。並みの冒険者には不可能。
となれば、ショウにとっては無理難題。彼のパワーでは、沼を駆け上がることなんて出来ないだろう。
だからこそ、この釣り竿。
「お、来た来た」
ピクリと反応があり、ショウは一気に巻き上げていく。
このアイテム、序盤の勇者のレベルでは手に入らないモノであるのだが……とあるプレイヤーが釣り竿で入手する方法を見つけた。以来、『せかふく』では有名な裏技である。
エサの代わりに取り付けているのは昨日鉱山で採掘したエネルギー鉱石。本来ならば装備を強化するために使うアイテムだが……エネルギーを感じるのであればマフラーはなんでも反応する習性がある。つまり鉱石を垂らしておけば、自ら巻き付いてくるのだ。
意気揚々と糸を巻き上げていくと。
だんだんと浮かび上がってきたものに、ショウの動きがピタリと止まった。
「……えっ」
絡まっているのは蛇のように巻き付いたマフラー……のはずだ。
だが、浮かび上がってきたのはどう見てもマフラーの大きさではない。それより明らかに大きい。
沼から現れたのは……銀の鎧。
「……えっ」
目の前に起こったことが信じられず、彼はまだ固まっていた。
ただの鎧を引いたから? ……いや、そうではない。
序盤で手に入っちゃいけないレベルの超激レアアイテムを手に入れてしまったからだ。
「え――ええええええええええっ!!?」
鎧の名は【自在の鎧】。
一見ただの鎧だが……装着すると、持ち主の体のラインに合わせて鎧が変形する。言うならば、パワードスーツのようなものだ。
「あ、あれ……『自在の鎧』って、この方法で釣れるんだっけ……!? い、いやいや、攻略wikiには載ってなかったぞ……!?」
恐らく試したプレイヤーも何人かいただろう。だが、攻略サイトになかったということは……成功例がないことを意味する。
この鎧のヤバいところは、鎧自体が自己進化するところだ。装着者のプレイスタイルに合わせて最適解を打ち出し、形を変形させていく。
その為、全部で100種類以上の形が存在する。『自在の鎧さえあれば、後はどうにかなる』なんて言われているぐらいの最強装備だ。
「こ、こんなん嘘だ……! いや、備えあれば憂いなしとも言うし、嬉しくないわけじゃない……けど! こんなの、上手く行き過ぎてる! ご都合展開すぎる! まるでなろうみたいな展開……ハッ!? 俺、ひょっとして、知らず知らずなろう主人公みたいな展開してる!? い、嫌だ! 俺はあんなテンプレ主人公になりたくない! 突然チート能力に目覚めて、力に溺れるような奴らなんかになりたくない! なろう主人公は嫌だ、なろう主人公は嫌だ、なろう主人公は嫌だ……!!」
もしも今ここに別の冒険者が居合わせていたら、一人で発狂するショウを見てドン引きしていただろう。遠くから見れば面白そうだが。
「も、もう、いい……ご都合展開でも、手に入っちゃったものは仕方ない……目的の『魂のマフラー』探さなきゃ……こっちじゃないってことは……こっちだったか……」
一人で勝手に疲れたショウは再び竿を振り、無事に灰色のマフラー、『魂のマフラー』を手に入れた。
目的のモノは手に入ったが……彼の目的はもう一つある。
ショウは右手に指抜きグローブを嵌める。これはテイマー職専用の、モンスターを使役するための魔法が編み込まれたグローブだ。
「えーと……おっ、いたいた」
辺りを見回し、目につけたのは沼地のモンスター、ガイアフライ。
沼の中に生息する魚で、たまに背びれを水面から出して泳ぐその姿は、まるで大地を泳いでいるかのようなところからこの名前になったそうだ。
通常のモンスターは、冒険者を警戒して近寄らないが……この。ガイアフライは違う。
バッグから細かく刻んだパンを取り出すと、近くに落としてみる。その瞬間、ガイアフライは一斉にショウの元へ寄ってきた。
――っていうかこれ、製作陣鯉をモデルにして作ったんだろうなぁ……。
神社でよく見る光景に苦笑いしながら、餌を与えていく。
何十匹も群がって餌に夢中になってる中……近くにいる一匹に手をかざした。
「【キャプチャー】」
ショウが唱えると……一匹の体にに魔法陣が通過し、体の輪郭が緑色にほんの少し輝く。
――成功、か?
「この沼を一周泳いでみて」
試しに命令してみると、一匹は群れから離れ、ショウの指示通り、沼を一周してみせる。どうやら成功のようだ。
テイマー職の中でも基本の初級魔法、【
「……よしっ、覚えられた」
本日の第二目標クリア。
ショウというキャラクターは、万年Fランク冒険者という設定もあることから戦闘における才能がほとんどない。
ユニークスキルも持ってないし、このテイマー職でさえ【キャプチャー】しか覚えられない弱キャラなのだ。
だが……それだけでも充分。
――次はいよいよあれだな。
着実に一歩一歩進んでいる。このまま計画通りに進んでほしいばかりだと、ショウは残りの日を数えながら願うのだった。
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