第5話 残り5日でやれること
「さて――やりますか」
馬車に揺られること、約4時間。ウラル鉱山に辿り着いたショウは大きく伸びをして、ポーチからツルハシを手に持った。
「えーと、場所は確か……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、鉱山を登って行く。
「……あぁ、確かここ。うん、ここだな」
鉱山の下腹部にある洞窟の中。その中の特定の壁の前に立つと、ツルハシを振るっていく。
一振り、また一振り。壁の亀裂に向けて、ひたすら作業。
やがて、黄緑色に光る石が足元に転がってきた。
「出てきたか、これこれ」
発掘したのはエネルギー鉱石。その名の通り、鉱石内にエネルギーが籠められており、装備の強化には必須のアイテムだ。
しかし彼の真の狙いは、このエネルギー鉱石ではない。この先にあるものがどうしても欲しいのだ。
「……痛ってぇ」
二の腕がジンジンと痛む。元々非力な上にギルスからも痛めつけられているだ。ダメージは相当蓄積されている。
――でもまあ、元の身体よりは全然動けるけど。
「……よし!」
だが、それでも彼はツルハシを振るった。
生き残るために。死亡フラグを回避するために。
さらに振ること2時間。
「――来た!」
亀裂にどんどんとヒビが入り、やがて壁がガラガラと崩れてぽっかりと人一人分の穴が空く。
穴の先は階段が続いていた。普通は警戒しそうなものだが、ショウは迷いなく降りる。この先にあるものが何か……彼は既に知っているのだから。
降りること数分。やがて一つの部屋にたどり着いた。
これぞショウの求めていたもの……伝説の錬金術師の隠し部屋。
ウラル鉱山にある秘密の隠し部屋。かつて『伝説の錬金術師』と呼ばれていたアルマルガスが使用していた。魔王軍に対抗するための兵器を、秘密裏に製作していたらしいのだ。
そして、ショウが求めているアイテムは……。
「お、あったあった」
部屋に入ると、ド真ん中のテーブルにこぶし大の赤い水晶が飾ってある。見るからにわかるレアアイテムだ。
一見すればただの水晶。だが、これにはとんでもない能力がある。
その名も『無限の魔水晶』。水晶の中に無限のエネルギーが籠められていて、所持者の潜在能力を限界まで引き出す……という設定。ゲーム内での効果は獲得経験値がレベルカンストするまで倍以上になる、謂わばレベル上げ用アイテムだ。
だが、『せかふく』では勇者とプレイアブルキャラ以外のレベルは上がらない。それぞれステータスが固定されており、変動することはないのだ。
ゲーム上ではただの設定だが……この世界からすれば、それが『限界』ということを表しているのではないだろうか、と彼は推測した。
つまり……この魔水晶を持っていても、ショウのレベルは上がらないだろう。いわゆる宝の持ち腐れというやつだ。
――しかし、使えないのはあくまでショウ本人に対して。なんの役にも立たないわけじゃない。
使えるものは最大限に使う。死亡フラグを回避するには、あの強敵を倒さなければいけないのだから。
「……ん?」
と。
水晶を取った机の上に……別のアイテムも置かれていることに気がつく。
「なんだこれ……?」
それはショウさえも知らないアイテム。
横幅は両手に収まりきれないくらいの長さだが、縦幅は短いので片手で持つことができるくらい。
形は線対称の菱形を基準とし、真ん中に半球の水晶のようなモノが嵌め込まれている。
全体的にクリアパーツで施されており、思っているよりずっと軽い。
両サイドには小さなひし形の窪みがあり、明らかに何かを嵌め込む用。そして端から中心へ可動する部分もある。
このアイテムを簡単に説明するのなら。
「なんか……変身ベルトみたいだな、これ」
何処かで見たことがあるような造形に、思わず苦笑してしまう。
見たこともないアイテムの下にはメモ帳が残されていた。
『名はコア・ディライヴ。モンスターのコアを差し込むことにより、モンスターの能力を一部使用可能となる』
「え、なにこのぶっ壊れアイテム」
思わずメモにツッコミを入れてしまう。
もしこの説明が本当なら、モンスターの力をプレイヤーが引き出すことができるのだ。
これがゲーム時に登場しようものなら『チート能力にチート武器を持たせるな』と批判してただろうが……ショウである今なら、むしろ好都合だ。
――でも……こんなアイテム、ゲームにあったっけ?
ふと一つの疑問が出てくるが……。
「……ま、いっか」
深く考えないようにした。
彼の残りの寿命はあと5日。つべこべ言っている場合じゃない。
「よし、後は……」
奥にある本数冊をバッグに詰め込むと
ショウは部屋を出ていった。
***
「今日は遅かったねお兄ちゃん」
「あー……まあ、な」
鉄鉱石たった5個だけの採掘に帰りが夜遅くなったショウを見て、ルーナが不思議そうに首をかしげた。
本当は別の目的で訪れていたのだが……ただのモブキャラが、世界の秘密に迫るような情報を既に知っているのはどう考えてもおかしいので、何も言わないことにしていた。
――ここで話して、昼間のように予期せぬイベントが起こられても困るしな。
「あ、それとさ」
「ん?」
「その……昼はありがとね」
「……別に。あんなことされたら、誰だって怒るだろ」
……なんて、クールぶっているが。
――うははは、ルーナちゃん可愛いいいい! その笑顔のためなら、なんでもやっちゃうよぉーん!
はにかむルーナの顔を見て、内心悶えていた。
――やっぱ勝ち組だよな、ショウくんは。こんな可愛い妹がいるんだからさぁ。やっぱり君は序盤で死んじゃいけないキャラだ。
「あ、そうだ。アリアとはどうだった?」
そういえばアリアにはルーナと一緒にいてほしいと頼んでいたことを思い出し、ふと訊いてみると、ルーナの肩がピクリと小さく反応する。
「どうって……楽しかったよ。アリアさん、いい人だし」
「そっか。そりゃよかった」
「……あの、お兄ちゃん」
「ん?」
「アリアさんのことは怒らないでね……? あの時、あそこに駆けつけたのは……私自身の意思、だから」
「……いや、どっちにも怒る気ないよ。むしろ、俺がルーナに謝らなくちゃいけないんじゃないかな」
「いや、そういうのいらないから。私が謝らなくていいなら……お兄ちゃんも、謝らなくていい」
「おう」
これでルーナとも貸し借りなし。二人になるべく気負わせたくないショウはほっと胸を撫で下ろした。
「あぁ……お腹すいたな」
「ふふふー……そう言うと思って、ちゃんと作ってます! 今日はお兄ちゃんの大好きな山菜料理! 焼きマーマレの実だよー!」
「おぉー、さすが我が妹!」
とりあえず今日の目標は達成。
本当はもうちょっと動きたかったのだが……予想外のアクシデントで時間がなくなってしまったので、今日はルーナの料理を堪能することにした。
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