第4話 ん?今、なんでもって

「……申し訳ございませんでした」


 改めてギルドへ訪れると、アリアが深々と頭を下げてきた。


「ん? 何が?」

「いえ、その……ルーナさんを連れてきたのは、私なんです」

「……ほう?」

「成り行きとはいえ、嫌がっている人を強制的に決闘させるだなんてやり方は、マナー違反なので……どうにかして止めようと……」

「………………あぁ、なるほどな」


 ようやくルーナが来た意味がわかった。

 アリアの姿が見当たらないと思ったら……ルーナを家から連れ出したのだ。


「でも……結果、大切な妹さんに辛い思いをさせてしまっただけでした。私のとった行動は間違っていました。申し訳ございません」

「…………」


 頭を下げたまま、繰り返し謝るアリア。


「……まぁ、確かにルーナを連れてくるべきじゃなかったな。これは俺の問題だから、妹を巻き込むべきじゃなかった。だから――」

「……!」


 スッと手を伸ばすと、彼女の身体がビクリと震える。

 だが……動かない。どんなことをされようが、それ相応の罰を受けるべきだと覚悟しているからだ。


「――だから、もう顔を上げてくれ。アリアの気持ちはわかったから」

「……え?」


 ポンポンと優しく頭を撫でただけで終わらせると、アリアはきょとんとした表情で顔を上げた。


「…………」

「……え、なに? もしかして、名前呼び嫌だった? あぁいや、前からアリア呼びだったよね!? そうだよ! きっと……多分……」

「……いえ、そうではなく」


 何せ序盤しか出てないキャラなので設定が思い出せず、だんだんと声が萎んでいくショウだが……アリアが訊きたいのはそこじゃなかった。


「い、いいんですか……?」

「何が?」

「な、何がって……だって私、間違った判断をしてしまったんですよ……?」

「それが?」

「それがって……」

「……あ、もしかしてさ、俺のこと、一度失敗した程度で怒るような奴だと思っちゃったりしてる?」

「……え?」

「いやだなぁ、そんなわけないじゃん。やってしまった失敗、されどたったの一回、次は取り返そうぜ信頼……ってね」

「は、はぁ……」

「やっちゃったもんは仕方ない、過去は振り返っても変わらない。じゃあ、次に生かすべきだと思わない? よくいる一度失敗しただけで激怒するようなクソ上司じゃないんだ、俺」

「で、でも……」

「それに、ルーナを連れてきたのは俺のためなんでしょ?」

「うっ……そう、ですが……」

「なら、俺が頭を下げるべきなんだ……ごめん、迷惑かけて」

「そ、そんな! やめてください!」


 まさかショウに頭を下げられるとは思わず、アリアが慌てた声をあげる。


「いや、これは本当にごめん。あれは俺だけの問題だったのに」

「で、ですから!」

「……あと、気持ちは嬉しかった。ありがとう」

「……っ!」


 頭を上げ、精一杯の笑顔を見せる。


 感謝する時は相手の目を見るべき――と小学校の先生に教わってきたショウの知識は正しかったらしく、アリアは頬を赤らめて言葉を詰まらせていた。


「はい、これで貸し借りなし。お互い謝ったし、ルーナは無事だったし。ちゃんちゃんってことで」

「いえ、納得できません! 何かお詫びをさせてください!」

「えぇー……いらないって」

「ダメです!」

「……どうしても?」

「どうしても、です!」

「そんなこと言われても……あっ」


 どうしても納得しないアリアに少し困ったが……ふと閃いたことが。


「あーあるわ、一つだけ」

「っ! な、なんですか? なんでもしますよ、私!」

「ん? なんでも? 今、なんでもって言ったよね? エッチなお願いでも?」

「えっ……? なっ、エッ、エッ、エッ……!?」

「……冗談。簡単に『なんでも』とか言っちゃいけないよ?」

「あっ……す、すみません……」

「こうやって言葉狩りするヤツなんて、うじゃうじゃいるんだから」


 ――特にネット界隈にな。


「いやまあ、すごく簡単なお願い。今日一日、ルーナの面倒を見てほしい」

「……それ、だけですか?」

「うん、それだけ」


 恐る恐る聞き返すアリアにショウは頷く。


「それは全然構いませんが……私なんかより、ショウさんの方がいいのでは?」

「それができないから、アリアにお願いしてるんだよ」

「……と、言いますと?」

「今から俺、クエストを受けるからさ」

「……本気で言ってます?」


 予期せぬ決闘も終わり、一段落もした。ならば、残り限られた時間で目的を達成するべき。


「体、ボロボロですよね? 今日は休んだ方がいいんじゃ?」


 アリアの優しい気遣いだが……ショウは残念そうに首を横に振った。


「いや、そんな時間はない」

「時間がない……?」

「詳しくは話せないんだけど、どうしてもなんだ」

「…………」

「お願い。ルーナのこと、頼む」

「……ズルいですよ、そんな言い方」


 お詫びをしたいと言い出したのはアリアの方だ。断れるわけがない。


「ショウさんが今日受けられるクエスト。このくらいしかありませんが」

「ありがとう」


 と、差し出された羊皮紙を確認する。

 薬草採取、コボルト討伐、その他諸々……Fランクならではの簡単なクエストばかりであるが、ショウはその中の一枚を手に取った。


「これ、受けるよ」


 ミラル鉱山での採掘。達成条件は鉄鉱石5個の納品。これもそこまで難しくないクエストだ。


 だが……彼がこのクエストを選んだのにはワケがある。


 ミラル鉱山に


「……お気をつけて」

「うん、ありがとう。ルーナのことも頼むよ」

「ま、任せてくださいっ!」


 クエストを受理し、ショウは急ぎ足で街を出ていく。


 彼に残された時間は少ないのだから。

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