第3話 これはよくある展開じゃない
ショウが死ぬまであと5日。
この5日間で、彼は死亡フラグを回避しなくてはならない。
もし……もしも、この世界がゲームと全く一緒の作りにあるのならば。
一つだけ――生き残れる方法がある。
――その為には、準備が必要だな。
「――おい、ちょっと待てや」
「ん?」
と。
ショウの肩を掴んだのは……鬼のような形相をしたギルス。
一体なんだろうか。ここにはもうイベントが発生しないので、自由に動きたいのだが……。
「てめぇ、俺に舐めた口利きやがった挙げ句、恥もかかせやがって。今すぐ決闘しろ」
「……へ?」
思わず間抜けな声が出る。
――あれ? こんな展開、ゲームじゃなかったよね?
***
「――おらぁっ!」
「ぅごばっ!?」
鋭い木刀の剣撃がショウを襲う。
突然始まったギルドの外での決闘。ギルスの圧倒的な剣術に手も足も出なかった。
――む、無理無理無理! 勝てないっこないって!
それもそのはず。ギルスは腐ってもAランク冒険者。ユニークスキルも実力もないショウが敵う相手じゃない。
「おーい、もっと手加減しろよギルスゥ!」
「一方的すぎてつまんねーよ!」
野次馬が飛び交う。
「ハハハッ、わりぃな! ただ……こうでもしなきゃよぉ、俺の怒りは収まんねぇんだよなぁ。何度も半殺しするくらいがちょうどいいんだ」
「ひ、ひぃっ……!」
――キ、キレてる! 完全にキレてるよ!
「おら、立てよっ!」
「ひ、ひぃぃい! す、すすすみませんでしたぁっ! どうか、どうかお許しを!」
地べたを這いずりながら、頭を下げた。
情けない姿だと自覚しながらも、こうするしかなかった。
「んんー……そうやって泣き叫んでいる姿を見るのも気分良いが……それだけじゃ、まだ怒りが収まんねぇよなぁ?」
「すみませんすみませんすみません!」
「許さねぇっつってんだろ! このクソが!」
「うがっ!」
無様に転がるショウの腹に、容赦ない蹴りが刺さる。
――な、なななんで? なんでこんな予想外のことが起こってんの? こんなシナリオなかったはずなんだけど!?
砂の味を噛み締めながら、ショウは必死に生き残る方法を模索する。
「大体よぉ、Aランク冒険者様に楯突くなんていい度胸だよなぁ? ユニークスキルもない、世界のゴミであるてめぇが。生まれてくること自体が、間違いだったんじゃねぇのか? なぁお前ら! こんな、社会的にも人間的にも俺たち的にも役に立たない雑魚に生きてる価値、あると思うかぁ?」
「ハハハッ! ないない! あり得ない!」
「万年Fランクのスカイとショウなんて、死んだって誰も悲しまねぇよ!」
「とっとと死んじゃえ!」
「「「しーね! しーね! しーね!」」」
「……っ!」
――これじゃ5日経つ前に今すぐ死んじゃう。い、嫌だ! 死にたくない死にたくない、また死にたくない! これ、スカイが助けてくれるのか? だとしたら……だとしたら、早く帰ってきてほしい! とっとと倒してくれこいつを。【勇者の加護】で!
と。
ショウの願いが届いたのか、野次馬をかき分けてくる影が一つ。
――来たか!
「――や、やめてください!」
「……えっ?」
期待を膨らませた目で顔を上げたが……目の前にいたのはスカイではない、水色髪。
「ル……ルーナ……?」
やってきたのは、なんと妹のルーナである。
――え、なんで?
だが、これも彼の知ってるシナリオではない。
「これ以上兄を痛めつけるのはやめてください! 私も謝りますので!」
「こいつの妹かお前」
両手を広げて説得しようとするルーナだが……そんなことでギルスが止まるはずもない。
むしろ、面白そうに嫌な笑みを浮かべていた。
ゾクリとショウの背筋が凍る。
「どうしても、止めてほしいか?」
「っ! は、はい!」
「一つ、条件があるんだが。それでもいいか?」
「ちょ、まっ……!」
「は、はい! それでもいいですので!」
「そうか。なら――てめぇが代わりになれ」
「……えっ」
「やめろ……手を出すな……!」
必死に手を伸ばすショウを無視し、ルーナのか細い腕を掴みあげると。
「きゃっ……!?」
服の紐をほどいていく。
「まあ、こうやって遊ぶんだがな!」
「ひっ……!」
これから何をされるのか、一瞬で悟ったルーナの顔が青ざめた。
「ヒューッ! いいぞいいぞ!」
「もっとやれぇ!」
半裸状態のルーナに、野次馬が一気に盛り上がる。
「ヘヘッ、いいザマだな。てめぇが来てくれたおかげで、雑魚のくせに生意気なこいつの心をより一層砕けそうだぜ」
「や、やめっ……!」
ショウは今、どんな顔をしているんだろう?
悲しみ? 絶望? 何もできない悔しさ?
いったいどんな情けない顔をしているんだろうと――ギルスは地面に転がってるショウを見る。
……が。
「いない……?」
無様に転がっているはず彼の姿が、どこにも見当たらない。
「ギルス!」
「後ろ後ろっ!」
「――!」
気が付いた時には、もう遅かった。
後ろを振り返る前に――ギルスの首が引っ張られる。
「手を出すなって……そう言っただろうが」
――そうだ。俺がショウくんを気に入った理由は……こういうところだろう。
妹に手を出され……絶望していたショウの心に、急に闘志が湧いてきていた。
「俺の妹に――何してやがんだ、てめぇ!」
「――ぅぐっ!?」
投げ捨てられたルーナの服の紐をギルスの首の後ろに通し、思いっきり引っ張り上げた。
慌てて紐から解放されようと、手を首に持っていく。
――来た!
ギルスの腕力なら、ショウの拘束など簡単に引っぺ返せてしまうだろう。
だが……両手を上に持ってきた今こそ、勝利するチャンス。
「――おらぁぁぁっ!」
「――!!?」
ショウは思いっきり足をあげると、ギルスの股間に蹴りを入れた。
「おらっ! おらっ! おらぁっ!」
「……っ! っ!!」
蹴る、ひたすら蹴る。首を絞められている為、ギルスは声にならない悲鳴を上げていた。
何度かやってるうちに、膝から崩れ落ちていく。ショウは首を絞めるのをやめると、転がるギルスへ執拗に股間だけを蹴り続けた。
「まだっ、できるっ、よなぁっ!? おらっ、立てっ、立てよっ! おらぁっ!」
「っ! ぅっ!! がっ!!!」
「おいおい――おいおいおい」
「な、なんてきたねぇ野郎だ……」
「剣を使え、剣を! この卑怯者!」
「そうだそうだ! それでも冒険者かお前!」
「――うるせぇぇえ! 冒険者である前に、俺はルーナの兄なんだよぉ!」
「「「――!」」」
「……!」
「お、おい……本当にあいつ、ショウか……?」
信じられなかった。あの気弱なショウが見たこともない顔をしながら、あのギルスに蹴りを入れ続けているのだ。
「おらぁっ! 降参するっ! っていうまでぇ! 蹴り続けるぞっ! この、野郎っ!」
「…………」
――返答なし、か。いい度胸だ。
尚も耐えようとするギルスをギロリと睨み、蹴りを続けようとし……。
「――ストップ! ストーップ!」
意外にも、ショウを止めてきたのは受付嬢のアリアだった。
「気絶! 気絶してますから、この人!」
「えっ……あっ……」
アリアに抑えられ、ようやく正気に戻る。
目の前に転がっているギルスは白目を剥き、体をピクピクと痙攣させていることに。
「――この勝負! ショウさんの勝ちということで! 決着です!」
「はぁっ……はぁっ……!」
決闘が終わり、緊張が解けたショウは力尽きたように地面へ座り込む。
ギルスがボコされるイベントを起こしたのは……勇者ではなく、ショウだった。
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