第25話:閑話・勇者の動向3
異世界召喚から60日目:
「えええい、どうなっているのだ?!」
「いまだレベル2のままでございます」
「あれだけ手間暇かけさせて、まだレベル3にもならないのか?!」
「勇者の成長には膨大な経験値が必要だと思われます」
「それは本当の事か?!
あ奴が出来損ないなだけではないのか!」
「……比較できる相手がいないので、何とも申し上げようがございません」
「さっさとレベルを上げさせろ!
さもないと、お前も前任者のように一族皆殺しだぞ!」
「そうは申されましても、できない事は何をしようとできません。
レベルを上げても、ゴブリンを何匹殺させても、いまだに1人でゴブリンすら狩れない出来損ないでございます。
レベル3になってもゴブリンを狩れない可能性が高いです」
「くっ、あのバカ共が女勇者を見殺しにしたせいで!」
「陛下、皆殺しにした連中の事はお忘れください。
それよりは今後どのようにすべきかをお考えください」
「今後だと、何か策があると申すのか?」
「はい、それもとっておきの策がございます」
「申してみよ、良き案を考え出すようなら大臣に取立ててやる」
「実は、勇者に与えるゴブリンを捕らえるために、ゴブリンの巣を襲ったのです」
「それがどうした?」
「兵力が少なくて助け出す事ができなかったのですが、女勇者がいました」
「なんだと、女勇者が生きていたのか?!」
「はい、それも、ゴブリンの子を産む道具にされていました」
「……勇者ともあろう者が、ゴブリンの子供を生む道具にされていたのか。
そんな勇者に期待していたとは、情けなくて涙が出るわ!」
「国王陛下、我々は女勇者の使い方に失敗していたのです」
「はぁあ、何を言っているのだ?!」
「ゴブリン達が命懸けで女勇者を逃がしたのですが」
「待て、自分が生き残る事と食欲と性欲しかないゴブリンが、すでに手に入れた女を逃がすために命を懸けただと?!」
「はい、その時に女勇者が連れていたのが変異種のゴブリンだったのです」
「女勇者が連れていたゴブリン、それも変異種?!」
「女勇者が連れ去られた時期を考えると、女勇者とゴブリンの子供かと」
「……どのような変異種だったのだ?」
「遠目だったので確実ではないのですが、生まれた時期を考えると異常なくらい大型で、女勇者の言葉もよく理解しているようだったとの事です」
「ホブゴブリンやシャーマンゴブリンに成長すると言いたいのか?」
「その程度ならいいのですが、勇者の能力を生まれ持ち、ゴブリンのように早い成長をするのなら、恐ろしい敵になるかもしれません」
「くっ!
ゼルス王国の内乱で少しは楽になると思ったのに!
今度はダンジョンに気をつけなければいけないのか!?」
「陛下、戦力を整えるのは難しいですが、女勇者を取り返して、陛下の子を産ませる事ができたら、とてつもない戦士が誕生するかもしれません」
「なんだと、余にゴブリンの子袋になった女を抱けともうすか!」
「しかしながら陛下、もし、とてつもない戦士が生まれるのなら、貴族士族の子供を生ませるわけにはいかないと思うのですが……」
「くっ、しばし考えさせよ。
そんな20年も時間のかかる事より、今の事を考えなければならぬのだ!」
「ならば陛下、今1度勇者召喚の儀式を行われてはいかがですか?」
「ばかもの!
それでなくても、大量の捕虜を勇者召喚に使った事で、他国から厳しく非難されているのだ!
これ以上捕虜を生贄に使う事はできぬ
戦線が不利な状況では、民を生贄にする余裕もない。
とてもではないが、もう1度勇者召喚をする事はできん!」
「陛下、焼き立たずの勇者を生贄にしませんか?
全く戦力になりませんが、腐っても勇者です。
多くの人間の代わりになるかもしれません」
「ふむ、悪くない考えだが、勇者であろうと捕虜であろうと、1人は1人でしかないと数えられた場合は、失敗してしまうぞ。
それよりは、手間も金もかかるが、時間をかけて育てる……気にはならん!」
「そうでございましょうとも、陛下の腹立たしい御心は分かります。
人数が足りないかもしれない不安は、ゴブリンで補いましょう」
「ゴブリンで補うだと?!」
「これまでずいぶんともったいない事をしてきましたが、勇者のために捕らえてきたゴブリンを、勇者召喚に使っていたらどうなっていたでしょうか?」
「……だが、モンスターが召喚の生贄に使えるかなど誰にも分からんぞ」
「分からないからこそ、試してみるのでございます。
勇者に使ってもムダになるだけでございます。
それよりは、どうせ女勇者を取り返すのにゴブリンの巣を襲うのです。
殺すのではなく、捕獲して試してみるのでございます」
「……女勇者を取り返すほどの兵力を、前線から引き抜くのは難しい」
「亡命してきた連中にやらせればよろしいではありませんか。
元近衛騎士なら、それなりには戦えるはず。
王子と王女も、少しでも立場を良くするために死に物狂いで戦う事でしょう」
「連中には、時が来たらゼルス王国侵攻の旗頭になってもらわねばならん」
「いつでございますか?
先ほど陛下が申されましたように、今が厳しいのではありませんか?
亡命者を前線で戦わせると申されるのでしたら何も申しませんが、王城内で遊ばせるというのなら反対させていただきます。
元近衛騎士達に備えるために、前線から戦士を戻さなければなりません」
「くっ、そもそも勇者召喚をした事が間違いだったのだ!
あいつらの言う事など聞かなければよかった!」
「陛下、もうすでに処刑した者達の事を考えるのはお止めください。
それよりは、これからの事をお考えください」
「……そうだな、そうするしかあるまい。
ゴブリンを捕らえて勇者召喚できるか試すのはかまわん。
女勇者を助け出した方が良いというのも良いだろう。
問題はその兵力をどこから持ってくるかだが……」
「亡命者達を王城の中に置いておくのは危険だというのはご理解いただけますか?」
「そうだな、ゼルス王国の元百騎長以下の80騎、確かに危険だ。
だが、前線に送ったら、その国に亡命するかもしれぬ」
「はい、ゼルス王国の戻るための手柄として、我が国に大きな損害を与える。
そういう方法を選ぶかもしれません。
我が国にいる間は、下手に反抗的な態度を取ったら殺されて終わりです。
ですが他国に亡命視した後なら、その国に護ってもらえます。
その国にとっても、ゼルス王国と同盟を結ぶための切り札になります」
「そのような事、言われなくても分かっておるわ!」
「申し訳ございません」
「お前の申す通り、王城から離れたダンジョンで女勇者を助け出させるのが、1番安全で悪い影響が少ないか?」
「ゼルス王国に侵攻するために休ませていた軍、ゼルス王国に備えるために張り付けていた軍、その両方を最前線に回せます」
「言われなくても分かっておる!」
「申し訳ございません」
「……最初はゴブリンだけで勇者召喚の儀式を試すのだな?!」
「はい、それが1番安全かと愚考いたします」
「失敗した時は、これまで通りのやり方に戻すだけだからかまわん。
成功したらどうするつもりだ?」
「更に勇者召喚を行うためにゴブリンを集めます。
同時に、召喚に成功した勇者がどれほどの経験値でレベルアップするか調べます」
「ふむ、どの勇者もたくさんの経験値がいるようなら、勇者召喚などやらない方がましだと分かるな」
「はい、ですが、それだけでは勇者召喚の価値は分かりません」
「何を言っておるのだ?」
「成長の遅い勇者は役に立たない。
それは間違いない事でございますが、勇者を生贄にした場合でも、同じ様に成長の遅い勇者が召喚されるのか試すのです」
「お前、実験が好きなのだな?」
「確かに実験は好きですが、全て陛下の為でございます。
勇者召喚を正しく行えるようになったら、陛下は無敵の存在となられます」
「ふむ、続けろ」
「何を使って勇者召喚しても、成長の遅い使えない勇者しか召喚出来ないのなら、勇者召喚を止めるべきですか、全ては実験の結果次第でございます。
勇者の子供がどのように育つかも実験しなければいけません。
そういう意味では、男の勇者の方が実験を数多くできます」
「わかった、わかった、わかった。
まずはゴブリンを生贄にした勇者召喚をやってみろ。
そのために必要なゴブリンは、亡命してきた連中に集めさせろ。
連中の指揮はお前に任せる」
「ありがたき幸せでございます」
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