第24話:後始末
異世界召喚から60日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点
アーサー王子とモーガン王女をファイフ王国に亡命させると決めた。
親子で血で血を洗う殺し合いをするがいい。
殺し合いにまでは発展しなくても、常に緊張しなければいけなくなる。
その気になれば、国境を護る魔境騎士団を全滅させて突破する事もできる。
だが、それではゼルス王国側の戦力が減り過ぎてしまう。
俺が1番ぶちのめしたいのはファイフ王国の方だ。
だから、国境を突破したりはしない。
人間が入り込むのをためらうほど深い魔境を突破する。
俺のゴーレムならそれくらいの事はできる。
ただ、あまり早くやると元貧民が追いかけられてしまう。
少なくとも5日はゼルス王国内で追いかけっこしなかればいけない。
魔境騎士団から援軍が来て、戦う事になるのも困る。
苦戦するからではなく、魔境騎士団にケガをさせられないからだ。
微妙な距離感を保ちながら、魔境から出たり入ったりして、国王と近衛騎士団をほんろうするしかない。
俺は国王と近衛騎士団をほんろうしている間に元貧民を魔境内に連れて行った。
老人と子供が自分の脚で歩けば20日かかる距離でも、ゴーレムに背負ってもらえば1日でたどり着ける。
「これから魔境の中に入る。
上空は鳥ゴーレムが護るから心配いらない。
前後左右は、犬ゴーレムと騎士ゴーレムが護るから心配いらない。
みんなは犬ゴーレムに乗ってもいいし、人ゴーレムに背負ってもらってもいい」
「ここまでくればもう大丈夫だ。
王国の精鋭騎士団であろうと、魔境の中を行軍するには10日はかかる。
いや、魔獣の襲撃を考えれば、たどり着く前に全滅する。
危険なのは魔獣や獰猛な獣だが、それは結界を築くから心配いらない」
魔境の中でか弱い人間が暮らす方法は2つある。
1つはハーフエルフのように結界を築いて誰も中に入れない方法。
もう1つは盗賊団から助けた女子供のように堅固な城を築く方法。
だが、城を築く方法にはどうしようもない欠点がある。
それは上空からの襲撃に対する防御力がない事だ。
女子供の廃城は魔境の外にあり、落ち葉ゴーレムに上空を護らせた。
だが、魔境の中となると、落ち葉ゴーレムでは最悪の場合には護りきれない。
ハーピーや魔鳥程度なら大丈夫だが、ドラゴン級が来ると護りきれない。
だから、元貧民町は結界で守る事にした。
俺はとても心配性なので、5重の結界を張る事にした。
最内にある第5結界は、老人や子供でも勝てる相手しか中に入れない。
具体的に言うと、ウサギやネズミのような小動物しか入って来られない。
第4結界は、少しだけ強い動物が入って来られるようにした。
イタチやテン、スズメなどの小鳥なら入って来られるようにした。
こんな小動物でも、喉を食い破る事もできれば目を潰す事もできる。
第3結界は、もう少し強い動物が入って来られるようにした。
本気で噛まれた場所、運が悪いと老人や子供が死んでしまう動物。
キツネやタヌキ、カラスやトンビが入って来られるようにした。
第2結界内は、子供達が成長して、強くなるための訓練場とした。
獰猛な魔境の動物、老人や子供を確実に殺せる奴ら。
狼や山犬、鹿や猪なら入って来られるようにした。
第1結界は最後の結界で、中は魔境で生き抜けるようなる前の最終訓練場。
それなりに強い魔獣以外は自力で斃せるようになるための場所。
角兎や牙鼠、熊や妖鴉が入って来られる場所だ。
アディ以外は老人や子供がほとんどなので、第5結界内だけの生活になる。
だが、必要な物資はゴーレム達が狩って運んでくれる。
だから第5結界内は畑と果樹園と牧草地しかない。
家は伐採した材木でログハウスを建ててある。
衣服や寝具は毛皮で作ったものが中心だ。
食器や家具も基本木製になる。
子供達が文字を学ぶ道具は、木箱の砂を入れて書くようにした砂版。
ある程度文字が書けるようになったら木簡と墨だ。
算数の練習は九九から始まって5つ玉のそろばんに移る。
「アディ、みんなの事は頼んだぞ」
「お任せください、聖者様。
ただ、どうしても困った事が起きた時にはどうすればいいのか……」
「心配しなくてもいい。
俺が戻らなければいけないほどの事が起きたら、ゴーレムが知らせてくれる。
俺が戻らないという事は、自然な事で受け入れるしかない事だ」
「分かりました。
いつまでも我々だけが聖者様を独り占めにはできないですね。
聖者様の正義を実行するために行かれてください」
俺が護り安心させなければいけないのは元貧民だけではない。
ゼルス王国と俺が敵対した事で、廃城の女子供がとても不安になっていた。
彼女達を安心させるために、国王と近衛騎士団がピエロを演じてくれた。
俺にほんろうされ、アーサー王子とモーガン王女をファイフ王国に亡命させられた国王と近衛騎士団は、俺と交渉するために廃城に来ようとした。
そうなるように俺が仕向けた。
王子と王女を亡命させた後で、ゴーレム達を廃城に入れたのだ。
その頃には廃城の総構えも完成していた。
どの方角から来られて、国王と近衛騎士団を撃退できる。
いや、撃退できるというのは言葉が悪すぎる。
撃退以前の問題で、誰も総構えの中には入れない。
女子供は本城本丸から出ない前提なので、橋もなければ門もないのだ。
ゴーレム達が総構えの中に入れたのは、俺が魔力で橋を創り出したから。
魔力で一時的に城壁に穴をあけたからだ。
それをこの世界の魔術師にできるかといえば、穴をあける事は絶対にできない。
「カーツ様、私は責任を取って国王の座を降ります。
カーツ様に国王の座をお譲りします。
どうか出て来てください、謝らせてください」
愚かで卑怯な王が、責任を放棄する事を謝罪にすり替えている。
とてもではないが、会う気になれない。
それに、王に忠誠を誓う近衛騎士の中には不満そうな表情をしている者もいる。
俺が望んでいた通り、近衛騎士が暴走してくれた。
王が寝ている間に、外壕に綱を渡して渡ろうとしたのだ。
他にも国王に内緒で化橋を作る準備をしていた。
近衛騎士を殺しても良いのだが、彼らに俺に対する殺意はないようだ。
表情を見れば分かるが、王に対する忠誠心と、俺に対する尊敬が感じられる。
近衛騎士の目的は、俺に詫びて王の後援者になってもらう事だろう。
俺にそんな気は全くない、迷惑なだけだ。
今後彼らが2度と橋を架けようとは思わないようにする。
本城本丸にいる女子供が、俺がいなくても、王国軍が攻めて来ても大丈夫だと思うようにするのが目的だ。
この騎士達が綱を投げるたびに切ってしまう。
本当の敵が相手なら、人がある程度渡ってから切る。
渡っている途中の敵と、渡り終えた敵を皆殺しにするために。
近衛騎士を殺してしまうと、本当の敵が有利になるので、渡る前に切ったのだ。
仮橋も作っている途中で火をつけて焼く。
何があっても外壕すら渡れないのだと女子供に実感させる。
「カーツ様、私は責任を取って国王の座を降ります。
カーツ様の国王の座をお譲りします。
どうか出て来てください、謝らせてください」
毎日毎日、何度何度も同じ事を言われても腹が立つだけだ。
だが、王が下手に出て謝ってくれれば、聞いている女子供が安心してくれる。
俺の方が王よりも偉くて強いのだと思ってくれる。
女子供が安心して枕を高くして眠れるようになるのなら、俺の悪評など、どれほど流れてもかまわない。
王を王とも思わない無礼者だと言われてもかまわない。
そもそも、この国の王に何の興味もない。
あれば最初に名前を聞いているし、名前を調べるくらいしていた。
俺がこの国で気にしなければいけないことはすべて終えた。
そのために20日もの時間がかかったが、かわいそうな者達を安心させるためなら、どれほど時間と手間がかかっても気にしない。
あと俺がやるべき事は、オリビアの将来を考える事だ。
今のオリビアは、ゴーレムを両親だと思って甘え切っている。
俺がいなくても、2体のゴーレムさえいてくれればいい状態だ。
これはさすがに見過ごせない。
育児を失敗したと愚王を懲罰したばかりだ。
オリビアが世間と交流できるように連れまわさなければいけない。
俺の過激な正義は情操教育に悪い気がするのだが、その辺は言葉を尽くして説明するとして、どの国に行ってファイフ王国に備えるべきか?
1番状況の悪い、ベリュー連合王国に行くしかないだろうな……
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