第23話:駆け引き
異世界召喚から40日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点
俺はこれ以上この国にも国王にも関わらないために、俺を殺そうとした王子と王女、近衛騎士団の幹部を王に殺させなかった。
微妙に追いつ追われつを演じて、王達を王都から誘い出した。
心理的に追い込まれていても、人を見る目がなくても、人を育てる能力がなくても、武力と軍事的才能はあるのだろう。
釣り野伏せりに引っかからないように、絶妙の距離を置いてついてくる。
内部抗争でボロボロになった王都騎士団に負担をかける事もない。
王都騎士団から兵力を抽出せず、近衛騎士団だけで追いかけて来る。
昨晩から徹夜で追いかけっこをしている。
王も徹夜で判断力を失ってくれたらいいのだが、逆に冷静になってきている。
アーサーとモーガンを殺す決断をした直後よりは冷静になって当然か。
それでも昼を過ぎる頃になると、さすがに心身に疲れがたまってくる。
ゴーレム達に王の首を狙うかのように逆撃を仕掛ける演技をさせる。
王を護っている近衛騎士の精神的緊張は想像を絶するモノがある。
逆に、王都の城門を護っている王都騎士団は、時間が経つほど油断する。
特にゴーレムやファイフ王国の真逆に位置する南門の弛緩が激しい。
この状態では、王都が危険だと逃げ出す貧民を疑う確率が極端に下がる。
「アディ、急いで城門から出てくれ。
今なら南門の警戒も普通に戻っている」
昼もかなり過ぎた頃、昼食を腹一杯食べさせた貧民に逃げるように伝えた。
アディは急いで王都を出るように指示したが、従う者は少なくなっている。
俺を心から信じられない者、欲深い者をふるいにかけたのだ。
俺はアディを通じて冒険者ギルドに圧力をかけた。
これまで横領していた支援金を賠償しないとゴーレムに襲わせると脅した。
最近大暴れしてマスター以下幹部連中をぶちのめした直後だ。
即座にあるだけの金を集めて支払わせただけでなく、足らない分は月々分割で支払う約束までさせた。
それだけでなく、これからは王国から保証もすると口約束させた。
アディに手に入れた金を公平に分配させ、今後の支払いと保証も話させた。
その結果、俺を信じきれない者と、目先の食事と利益に釣られて信じるふりをしていた連中を、王都に残させる事に成功した。
失った手足や目を治してもらいたいだけの連中が来ても困る。
だから、王国からの保証は障害の多い分だけ金額を増やすと説明させた。
手足や目を失っていても、酒は飲めるし女も抱ける。
働かずに大金をもらえると思った連中は、生涯を治さない選択をした。
最初は1000人近く助けなければいけないかと思っていたのだが、欲の有る年代の働ける人間はほぼ王都に残った。
俺を信じてついてくると言ったのは、老人と子供300人くらいだ。
「王都で何度も戦いがあって、貧民街にまで騎士団の人が文句を言いに来た。
これ以上危険な王都の居座るのは危険なので、魔境の側で狩りをして暮らします」
アディは老人と子供を引き連れて魔境近くに村を造ると言って門を通過した。
ハーパーなら何か勘付くかと思ったが、黙ったまま通してくれた。
俺に何度も心臓をえぐるような叱責をされて、言ってはらない時をわきまえたか?
「慌てなくていい、門から離れられる事ができれば、聖者様が助けてくださる」
無事に南門を抜けた貧民達だが、老人と子供ばかりなので、とても歩みが遅い。
魔境の近くに着く前に陽が暮れてしまう。
この世界では、安全な家の外で陽が暮れるというのは獣に襲われる事を意味する。
だが老人と子供の顔に不安はない。
先頭を行くゴーレム犬と最後尾を行くゴーレム犬がいるからだろう。
ゴーレム犬が、何があっても自分達を護ってくれる俺の使いに見えるのだろう。
そんな人達の想いを踏みにじるのは俺の正義に反する。
門番達に勘づかれないように、戦闘用のゴーレムは出さない。
これから魔境で狩りをする集団に居ておかしくない、猟犬型のゴーレムをだす。
「うわあああああ、わんちゃんだ!」
「ほんとうだ、新しいわんちゃんだ!」
「きゃはははは、かわいい!」
「せなかにのせてくれるの?」
「うぁわああああ、らくちんだ!」
先頭と最後尾のゴーレム犬から分裂するように見せかけて、次々と新しいゴーレム犬をだしたのは、老人と子供を怖がらせないためだ。
何もない所から急にゴーレム犬が現れたら怖いからな。
「みなよく俺を信じて王都を捨ててくれた。
そんなみんなを助けるために、人型のゴーレムを出す。
ゴーレムは疲れないから、遠慮せずに背負ってもらえ。
何ならお姫様抱っこをしてもらってもいいぞ」
俺は先頭のゴーレム犬から話しかけた。
俺の声を聞いたみんなは、アディを先頭に深くこうべを垂れ尊敬を表してくれる。
子供達は子供らしくゴーレム犬を遊んでいる。
「さあ、疲れているのは分かっている。
遠慮せずにおんぶしてもらえ、眠りたいのならお姫様抱っこでもいいぞ」
万が一、俺の目を欺くほどの密偵がいたらいけないので、戦闘用の巨大な圧縮強化型ゴーレムは派遣していない。
大柄な人間と変わらない大きさの、落ち葉ゴーレムしか派遣していない。
だが、落ち葉ゴーレムだからこそ、抱き着いても柔らかい感じがする。
子供達用のゴーレム犬のように、毛皮を着せてまで抱き心地を良くしていない。
ちょっと子供達をえこひいきし過ぎかな?
★★★★★★
一方国王と近衛騎士団は諦めることなく王子と王女を追っていた。
逃げきれないと投降した数人の佞臣近衛騎士は、その場で斬り捨てられた。
王の決意の表れだが、今更知った事ではない。
生き地獄に落とされた人々、実際に死んでしまった人々が数多くいる。
そんな奴を優遇するのは俺の正義に反する。
王が投降した者を殺したので、どれほど疲れていても眠くても投降する佞臣近衛騎士はいない。
俺のゴーレムに隠れるようにして、疲れた身体で逃げている。
だが、交代で休憩できる王達とは違い、佞臣近衛騎士は休む事ができない。
俺が休む事を許さない。
休もうとしたら、ゴーレムを移動させる事で叩き起こす。
死にたくなければ、どれほど疲れ寝くてもゴーレムを追いかけるしかない。
「カーツ殿、この手で責任を取らせていただく。
アーサーとモーガンはこの手で殺します。
だから余に引き渡してください!」
何を言われても、何度言われても、もう耳を貸す気はない。
武に直接関係する事以外では、この王は信用できない。
油断する事の無いように、厳しい状況を置き続けなければいけない。
「目には目を、歯には歯を、襲撃には襲撃を、死には死を」
俺はゴーレムの同じ言葉を言い続けさせた。
王子と王女の犯した罪と、与えるべき罰を明確に提示した。
その事を、王だけではなく騎士団にも国民にも聞かせた。
その上で、王がどう判断するのかは自由だ。
今は勢いで王子と王女に矢を放っているが、生きて捕らえた時に、そのまま処刑できるかといえば、その場になってみなければわからない。
その判断決断によって、王の資質がはっきりする。
王家に対する家臣や国民の信頼度も乱高下するだろう。
「なんだここは?!」
王の側に仕える近衛騎士の1人が、俺の造った廃城の総構えを見て驚愕している。
まだ街道側しか完成していないが、昨日今日で大急ぎで造った部分だ。
武以外は愚かで怠惰な王を追い込むための手段、その1つだ。
「カーツ殿、いや、カーツ様。
余に成り代わって国を率い民を護ってくださるのなら、よろこんで譲位させていただくので、どうか王子と王女を許してやってくれ」
やはり本心は自分の子供は殺したくないのだ。
人の親としては真っ当で善良な判断だろう。
どんな極悪人でも子供は可愛いというのが一般的な善人の立場だ。
だが、一国を背負う王は善良な一般人ではいられない。
人の上に立ち、多くの人に死ねと命じる立場にある王は、一般人ではいられない。
自分の実の子供だからこそ、罪を犯した時には厳罰に処さなければいけない。
「己の責任を他人に押し付けて、罪を免れようとする卑怯下劣な腐れ外道よ。
子を殺すか、子に殺されて民を地獄に突き落とすか、好きに選ぶがよい!」
お前がボロボロにした国を背負うのは俺の正義ではない。
お前や世襲貴族士族に好き勝手させた連中にも責任を取らせる。
様子を見るためにの、王子と王女を生かしたまま王に捕らえさせるのはやめた。
アーサー王子とモーガン王女はファイフ王国に亡命させる。
王位を奪う為、ファイフ王国で殺されない為、アーサー王子とモーガン王女は実の父を殺して王位を奪うと言い続けるしかなくなるだろう。
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