第22話:直接対決

異世界召喚から39日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点


 俺の事情を察してくれたアディが王都を去る準備を進めてくれた。

 老人や子供達だけでなく、働き盛りの男女も移住の準備をしてくれた。

 四肢欠損や眼球欠損以外の傷病を、ほぼ全員治した影響だろう。


「アディ、俺は姿を隠す。

 屋敷に戻った、領地に戻ったという噂を流してくれ。

 俺は南門の外で待っている。

 お前達が住める村を魔境の中に造って待っている。

 合流場所は魔境手前の村だ」


 その気になれば、この国の全騎士をぶち殺せる。

 だが、それは俺の正義に反する。

 愚かな王に忠義を尽くす騎士を、問答無用で殺すのは美しくない。


「分かりました、噂を流させていただきます。

 我々のために魔境の中に村を造ってくださるのでしたら、王都を出るのはゆっくりの方が良いですか?」


 アディが俺の事を気にしてくれている。

 いくら何でも直ぐに村を造るのは無理だと思っている。

 無理ではないのだが、気にしてくれた心にはこたえたい。


「今直ぐにでも構わないが、お前達が騎士団に襲われる事は避けたい。

 密かにゴーレムを配して守るが、忠義の騎士を傷つけたくない。

 噂が広がって、騎士団が国境に釣りだされてから王都を出てくれ」


 国王や重臣達は、貧民街も見張っているだろうが、1番力を入れているのは、王都北側にある貴族屋敷だろう。


 王子達が俺を殺そうと暗殺団を送ったが、俺がもらった貴族屋敷だ。

 ゴーレム達が主犯の王子達を捕獲して連れ込んだのも貴族屋敷だ。

 俺が貧民街にいるという噂を聞いても、目先をくらますための策だと考える。


「分かりました、騎士団が国境に向かったら、南門から真直ぐ魔境に向かいます」


 俺がいない状態で、全てを捨てて魔境に向かう。

 無条件に俺を信じていなければとてもできない事だ。

 これで目先の利益だけを考えて集まっている連中をふるいにかけられるだろう。


「アディ達だけでは心配だから、目に見ない護り以外に案内役を残そう」


 俺はそう言って犬型のゴーレムを魔法袋から取り出した。

 こいつなら他のゴーレムと違って番犬や猟犬に見えるだろう。


「こいつはゴーレムなのだが、俺の居るところまで案内してくれる。

 騎士団が動いたら、こいつに俺の居るところまで案内してくれと言えばいい」


「ありがとうございます、そのようにさせていただきます」


「それと、騎士団が動くまでの食料と燃料が必要だろう。

 明日には動くと思うが、数日かかる可能性もある。

 腐り難いように氷漬けにした肉も置いて行く。

 大量のスープを作っておいて、常時熱を加えてもいい」


「何から何までご心配していただき、ありがとうございます。

 貧民街の人間は、3日や4日食べなくても大丈夫です。

 それでなくても昨日今日とごちそうをお腹一杯頂いたので大丈夫です」


「それでも、食糧や燃料がないのは不安だろう。

 そうだな、不安を解消するためなら、少々の無駄はしかたがないだろう。

 この塩も使って、塩漬け肉を作ればいい。

 スープや冷凍した鳥獣を運ぶよりは、塩漬け肉の方が運びやすいだろう」


「本当にありがとうございます」


「では、俺は消えるから、直ぐに噂を流してくれ」


 俺はそう言い置くと魔術を使って姿を消した。

 同じ部屋で俺とアディの会話を聞いていた老人達が不安そうな表情になる。


「何をしている?!

 聖者様のご指示に従わないか!

 聖者様が屋敷に帰られたという噂を流しに行け。

 子供達には、聖者様はご領地に帰られたという噂を流させろ」


 アディがテキパキと指示を出していく。

 老人も子供も指示された事をやろうと走り回っている。

 ずっと見ていたいが、やらなければいけない事がある。


 俺は木の葉で創った空を飛べるくらい身軽なゴーレムを放った。

 屋敷にいるゴーレム達に陽動をさせる為だ。

 騎士団が貧民を襲うような事が有ってはいけない。


 圧縮強化したアース・ゴーレムとウッド・ゴーレムに、俺を閉じ込めようとして閉じられた王都の北門と5つの枡形虎口の門を破壊させる。


 止めようとする騎士達を、殺さないように気をつけながら蹴散らす。

 国王や重臣、騎士団の目が貧民街から離れるようにする。

 そのためには、王子と王女を目立つように移動させる。


「お助けしろ、両殿下をお助けするのだ!」


 全ての探索魔術を王子と王女をかつぐゴーレムを中心に発動する。

 そのお陰でその場の状況が手に取るようにわかる。

 俺の魔力で動くゴーレムがその場にいるので、衛星中継を見ている感じだ。


「目には目を、歯には歯を、襲撃には襲撃を、死には死を」


 王子と王女をかつぐゴーレムが大きな声で伝える。

 こいつらが陰に隠れて救国の英雄を殺そうとした事を。

 世襲貴族士族だけでなく、王族も腐っている事を。


「両殿下をお助けしろ!」


「……嫌です、救国の英雄を殺そうたした奴を助けたくありません」


「何を言っている?! 

 他国の平民と両殿下のどちらが大切だと思っているのだ!」


「国王陛下が手出しする事は許さんと申されていたではありませんか!

 百騎長、貴男も腐れ外道と同類ですか!?」


「平騎士の分際で口答えするな!」


 やはりエリート意識の強い近衛騎士団も腐っていたようだ。

 特に今回捕らえた王子と王女についていた騎士達が腐っているようだ。

 近衛騎士が同士討ちしてくれるなら、貧民街への注目がそれるだろう。


「お前達が今回の黒幕だったのか!?」


「陛下!」


 国王陛下のおでましか。


「アーサーとモーガンをこのような性格に育てたのはお前か!」


 やれやれ、自分が子育てに失敗したのに、家臣のせいにするのか。

 下がっていた評価が更に暴落した。


「何を申されるのですか?!

 私は陛下の命を受けて未来の王にふさわしい教育をいたしました。

 陛下も両殿下を優秀だとほめてくださっていたではありませんか!」


「……そうだな、確かにほめていたな」


「そうです、両殿下も陛下も悪くないのです。

 平民の分際で、わずかな手柄につけあがる奴が悪いのです。

 陛下、あ奴を殺すようにご命じください。

 今直ぐ首を刎ねてご覧に入れます!」


「……全ては余に人を見る目がない事が原因だ。

 惰弱で、身勝手で、即座に子供達の罪を問わなかったのが原因だ。

 王家に忠誠を誓う者!

 アーサーとモーガン、王家を蝕む佞臣を射殺せ!」


 ほう、追い込まれて、家臣醜い言葉を聞いて、ようやく自分の罪を悟ったか。

 遅すぎるが、全く見込みがないわけではない。

 ただ、これ以上この国にかかわる気がなくなったのは変わらない。


「はぁ、はっ、はい!」


 百騎長に逆らっていた近衛騎士と国王を護ってやってきた近衛騎士が、矢をつがえて王子と王女、百騎長一派を狙う。


「陛下、私に罪を擦り付ける気ですか!?」


「射よ!」


 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……


 300を超える矢が王子と王女、百騎長一派に放たれる。

 だが、俺のゴーレムが確保している王子と王女には1矢も届かない。

 プレートメールで完全武装した百騎長一派に致命傷を与える事もできない。


 王と近衛騎士団だけでなく、後から追いかけて来るであろう王都騎士団を釣りだすために、王子と王女を貴族屋敷から王都外に出す。

 そうすれば王だけでなく百騎長一派もついてくるだろう。


「カーツ殿、この手で責任を取らせていただく。

 だからアーサーとモーガンをお渡しください!」


 国王は身勝手な事を言うが、知った事ではない。

 お前の自己満足のために、俺が下手に出なければいけない理由はない。

 これ以上顔を見るのも嫌だから、関係ができないように時間を稼ぐ。


 俺の思惑通り、王と護衛の騎士達は王子と王女を追った。

 俺を怒らせないように、自分の手で子供を殺すつもりなのだろう。

 だが、俺から見れば、今更責任を取られても面倒なだけだ。


 俺との関係のために子供まで殺したのだと言われたら、心理的負担になる。

 借りができた事になるのだけは絶対に嫌だ。

 俺の正義だと、借りは返さないといけなくなる。


 これ以上国王やこの国とかかわらなくていいように、最善の手段を取る!

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