第5話:隠れ里

異世界召喚から10日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点


 ハーフエルフの村は、俺が助けた場所からそれほど離れていなかった。

 馬車で街道を3日戻った場所から森に半日入った所にあった。


 森に深く入ればエルフに攻撃され、人里だと悪人に狙われる。

 そんなハーフエルフが里を置ける場所は限られている。

 完全に安全とは言えない場所でも、そこを選ぶしかなかったのだろう。


(クレアヴォイアンス、千里眼。

 プレゼンス・ディテクション、気配察知。

 インフラレド・ディテクション、赤外線探知。

 アルトゥラサニク・ディテクション、超音波探知……)


「捕らえられているハーフエルフはいないようだ」


「よかった!

 男達が女子供を逃がそうとしてくれて……」


 言いたい事は分かるが、本人が口にしていない以上何も言うまい。

 里の周囲には獣に食い散らされた死体の1部が散乱している

 それを見せるのはかわいそうだ、目に入らない方向から攻撃をしかけるか?


「奴隷商人の手下か傭兵かは分からないが、18人が残っている。

 このまま俺が連中を皆殺しにしても良いのだが、それではここに残る君達が心配だから、ゴーレムに攻撃させよう」


 ハーフエルフ達は、ここに来るまでの間に俺がゴーレム使いだと理解している。

 俺は出会ったばかりの彼女達に夜の見張りをさせるほど俺は能天気ではない。

 1年や2年くらい不眠不休で戦えるが、あくまでも普通の人間としてふるまう。


(我が命に従え、ソイル・ゴーレム。

 我が命に従え、フォラン・リーヴズ・ゴーレム)


 言葉にしない心の中で想う呪文によって、土と落ち葉からゴーレムが生まれた。

 落ち葉でゴーレムを創ったのは空から偵察や攻撃をするため。


 土からゴーレムを創ったのは、無残なご遺体を埋葬して見えなくするため。

 だから使った土はご遺体の下に合った土だ。


「や、なんだ、なんだ、なんだ?!」

「「「「「ギャアアアアア!」」」」」


 欲望のためにハーフエルフの里を襲った連中に慈悲などいらない。

 誰に何故襲われ殺されるか分からないまま死ね!

 だが楽に死ねると思うなよ!


 全ての指の爪を1枚ずつはいでやる。

 全ての関節を砕いてやる。

 泣こうが喚こうが心臓マヒを起こすまで苦しめて苦しめて苦しめ抜いてやる!


 と思ったが、直ぐに殺すのはまずいな。

 殺さずにずっと拷問を加えて生き地獄を味合わせてやろう。


「何をしているのだ?!

 さっきからぜんぜん悲鳴が止まらないぞ!」


「敵も生き残ろうと激しい戦いになっているのだろう。

 だが大丈夫だ、連中がこちらに来る事はない」


 ハーフエルフ達はまだ心の傷が癒えていないのだった。

 彼女らに腐れ外道の悲鳴を聞かせるのは酷だ。

 落ち葉ゴーレムの1部を口に詰めて悲鳴が上げられないようにしよう。


「実は君達に言わなければいけない事がある

 最初は黙っておこうと思ったのだが、それは俺の勝手な考えだと思い直した」


「何を言っておられるのです?」


「奴隷商人共は、殺した人達を身包み剥いで外に放置していたようだ。

 そのご遺体を森の獣や鳥達が食べてしまっていた」


「うっ!」


「裸の状態で体の大半が食べられてしまっている。

 とても誰か判別できないと思う。

 だから君達の目に触れる前に埋葬しようと思ったのだが……」


「言ってくれてよかったわ。

 どれほど酷い状態でも、最後の姿を見たい者もいます。

 見たくない者は無理に見なくてもいいと思うわ。

 それに、オリビアのような幼い子に無残な両親を姿を見せるのは……」


 1人孤立していた娘、オリビアの両親の死は確定していたのか。

 ハーフエルフの母親と人間の父親から生まれたクオーターエルフ。

 ハーフエルフだけの隠れ里では生き難い立場だろうな。


「見たい、会いたい、パパとママに会わせて!」


 血を吐くような魂の叫びとは、今のオリビアの言葉だろう。

 気持ちは分かるが、あの無残のご遺体を見るのはトラウマ間違いなしだ。

 どうする、見せないと村人を敵視するだろう。


 それでなくても孤立している村で、そんな態度を取ったらもっと居辛くなる。

 見せるしかないが……見た後の状態が悪いようなら記憶を消すか?


「オリビア、本当に良いの?」


「パパとママに会いたい!」


「……先に私が見て、大丈夫かどうか確かめるわ!」


 リーダー格のハーフエルフがオリビアを俺の方に押し出して独り見に行った。

 他のハーフエルフに任せるのではなく俺に預けるか……

 俺も覚悟を決めた方がよさそうだ。


「うっげぇええええ!」


 リーダー格のハーフエルフが激しく嘔吐している。

 まあ、あんなご遺体を見たら吐くのも当然だ。

 2000年以上生きて来た俺ですら心に来るモノがあったのだ。


「オリビア、私でも誰のご遺体か分からないくらい無残な姿になっているわ。

 まだ子供の貴女にはとても耐えられないわ。

 もうみんな一緒に葬ってあげるしかないわ」


「いや、私には分かるわ!

 子供のあたしにパパとママの姿が分からない訳がないわ!」


「それは……」


 無理だと言いたのだろうが、両親を奴隷商人に惨殺されたばかりのオリビアに、そんな事を言ったら火に油を注ぐだけだ。

 お節介だとは分かっているが、ここは俺が口出しするしかないな。


「オリビア、そんなに会いたいのなら会わせてあげよう。

 だが、会ってオリビアが傷ついてしまうようなら、俺が記憶を消して眠らせる。

 眠らせている間にご両親を含めた全員を埋葬する。

 それでも良いのなら、会わせてあげよう」


「……それでいい、絶対に分かる!」


「ウワァアアアア!」


 無残な姿を見たオリビアが狂ったように泣き出した。

 俺だってオリビアと同じ立場ならそうなっていた。

 いや、2000年の修業をする前だったら、もっと酷い反応をしていただろう。


 ご遺体は、1人1人少し離れた状態で安置している。

 だが、内臓が全て喰われ手足が持ち去られ、胸部の骨しか残っていない。

 これで誰のご遺体か判別しろと言っても無理だ。


「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる……」


 オリビアの目には狂気が宿っている。

 顔の相も恨みと憎しみに凝り固まっている。

 おかしな方向に狂うようなら記憶を消すつもりだったが、正当な憎しみだと……


「恨みを晴らすために奴隷商人達を殺したいと言うのなら、手を貸そう。

 連中はまだ殺さずに拷問をかけている」


「拷問?!

 正々堂々恨みを晴らすのは当然だが、無意味な拷問は正義に反するわ!」


 正義に反するか。

 人によって正義の基準が違うのはしかたのない事だ。

 これだけハーフエルフ達を苦しめた連中を楽に殺すのは俺の正義ではない。


「無意味な拷問をしている訳ではない。

 俺達がここに戻る間に捕まったハーフエルフが、どこかに送られているかもしれないのだぞ!」


「うっ、そうね、その可能性はあるわね」


「少々の拷問では嘘をついてしまうかもしれない。

 お前は同胞を助けるよりも自分の正義感を優先したいのか?」


「……ごめんなさい、私が身勝手だったわ」


「だったら俺のやり方の口を出すな。

 お前達は俺の正義感によって救われたのだ。

 それが気に食わないと言うのなら、奴隷商人と同じように売り払ってやる。

 自分の正義感を押し通したいのなら、自分の力だけで他人を巻き込まずにやれ!

 自分も仲間の助ける事ができないような奴が、助けてくれた人に文句を言うな!」


「……」


 こいつの正義感は俺と一緒で自分本位だな。

 ならば遠慮なく俺の正義を力で押しとおさせてもらう。


「オリビア、奴隷商人の手先は何時でも殺せる。

 だが、それよりも先にご両親を弔ってあげよう。

 ここにいる方々の内、2人はご両親に間違いないのだから」


 もしかしたら胸部の骨まで獣に喰われてしまっているかもしれない。

 だからここに居られるご遺体の中に必ずご両親がいるとは言えない。


 だが、オリビアを慰める為の嘘なら幾百幾千でも口にしよう。

 前世の日本のように、遺伝子検査ができたらご両親を確かめて……


「オリビア、もしかしたらご両親がどのご遺体なのか分かるかもしれない。

 そのためには体の1部が必要なのだが、髪の毛をもらえないだろうか?」


「お父さんとお母さんが分かるなら何だってあげる!」


「ありがとう。

 遺伝子検査、ジャネティク・テスト。

 両親を調べろ、ルック・アップ・ペアレント」

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