第6話:安眠

異世界召喚から15日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点


 俺が思い付きでやってみた遺伝子検査魔術は大成功だった。

 オリビアの両親だけでなく、他のハーフエルフの縁者も全て確認できた。

 最初は半信半疑だったハーフエルフ達も、途中から信じてくれた。


 その理由は、拷問を繰り返して素直になった奴隷商人達だった。

 彼らが剥ぎ取ったご遺体の衣服から、亡くなった人達が誰なのか分かった。

 個人は判別できなくても誰が殺されたかだけは確認できたのだ。


「このご遺体は貴女の息子さんだと思われます」


「うわあああああん!」


 落ち葉ゴーレムが探し出し助けたハーフエルフが泣き崩れる。

 冷凍して魔法袋に保管していたご遺体と彼女の遺伝子で確認したのだ。

 今村にいる全てのハーフエルフの遺伝子と照合したから間違いない。


「これで全てのご遺体の確認ができました。

 ハーフエルフの伝統にのっとって火葬するので宜しいですね?」


「はい、宜しくお願いします」


 俺は散り散りに森の奥に逃げたハーフエルフ達をゴーレムを使って探した。

 激しい拷問を加えた奴隷商人達は、他に捕らえた女子供はいないと言った。

 だから殺された者以外は森の奥にいると分かったからだ。


 5日かかったが、空と地上を使った捜索は効果があった。

 魔術を使って、助け出した8人の声で呼びかけたのもよかった。

 エルフに殺された者がいないか心配だったが、殺された者はいなかった。


「それで、結界は誰も出入りできない強固なモノでいいのですね?

 結界を出入りできる無効の護符は、5枚で間違いありませんか?

 結界の広さは村の中心から10キロメートルでいいのですね?

 1度発動させてしまうと変更できませんよ?!」


「それで構わないわ。

 今の里の状態でエルフや人間との交流は危険しかないわ。

 いえ、そもそもどうしても必要なモノを人里で買う以外の交流はなかったわ。

 今生き残っている男の子が成人して女達と結婚する。

 そして生まれた子供達が成人するまでは外と隔絶するしかないわ」


 俺も彼女の言う通りだと思う。

 今ハーフエルフの隠れ里に残っている住人は女子供だけ。

 男は全員女子供の盾となって死んでしまっている。


 俺が最初に出会った女が8人。

 森の奥に散り散りになっていた女子供が23人

 その内男の子供が5人しかいない。


「食糧は果樹園に実る果実と畑で採れる小麦と野菜でどうにかなるな。

 燃料も結界内の森の木々を切って自給自足ができる。

 塩は元々灰塩法で自給自足していたというから心配いらないだろう。

 ただ、最初は色々と大変だろうから、これを置いて行く」


 俺は精製した海水塩が10kg入った壺を魔法袋から10個だした。

 それと、料理した10kgもの鶏・牛・豚・鹿・羊が入った密封壺を100個。


 それぞれ塩・醤油・各種味噌で味付けされているから飽きないだろう。

 俺の魔術で封印しているから、1度空けない限り100年は腐らない。


「そんな、ここまでしていただくとお礼のしようがありません」


「別にお礼が欲しくて助けたわけではない。

 俺の正義を実現させたくてやっているだけだ。

 申し訳ない、お礼がしたい、と言うのなら、素直に受け取れ」


「……ありがとうございます、素直に受け取らせていただきます。

 もう2度とカーツ殿の正義に逆らったりしません」


 捕虜の拷問について文句を言った事を思いだしているのか?

 もう文句を言わないのなら今後が楽だな。


「では君達全員で確認してくれ。

 防御結界、ディフェンス・バリア」


 俺はハーフエルフ達に分かりやすいように呪文を唱えた。

 

「確認すると言うのはどういうことですか?」


「この結界は2弾構造になっている。

 最初の結界は、結界があると悟られないように侵入者を排除する。

 やられた方は、普通に歩いているつもりで円を描くように歩いてしまう。

 内側も外側も同じだから、普通に出て行くつもりで歩いてみな」


「「「「「うわ」」」」」

「本当に向きが変わっている?!」


 生き残ったハーフエルフ全員が見護る前で、1人が試しに歩いて出ようとした。

 だが、直線に歩いて出ようとしたのにクルッと進行方向が変わった。


「今は分かった上で直角に突っ込んだからこんな風に分かり易かった。

 だが外側は1キロメートルかけてゆっくりと方向を変える。

 やられた奴はエルフだろうと人間だろうと気がつかない」


「よかった!」

「これで安心ね」

「もう人間もエルフも心配しなくていいのね!」

「これが襲撃される前にあったら……」

「「「「「……」」」」」


 こういう雰囲気は苦手だ。


「次に2段階目の結界だが、最初の結界に気がついた奴用だ。

 恐らく最初は解呪の呪文を使って来る。

 それが失敗したら、物理か魔術で破壊しようとするだろう。

 どれくらい丈夫なのか、自分達で試してみろ」


「それは、私達に解呪の呪文を唱えてみろと言っているの?」

「剣や槍で攻撃してみろという事?」

「集団で魔術を発動しても良いの?」


「ハーフエルフを狙う奴隷商人が集団で攻撃してきた場合。

 あるいはエルフや人間の軍が襲ってきた場合。

 数十から数百が攻撃してくるだろう。

 そんな時でも安心していられる事を自分達で確認するのだ。

 さあ、全員で一斉に攻撃しろ!」


 俺が厳しくきつく言ったので、ハーフエルフ達は全員で結界を攻撃した。

 ハーフエルフ達は得意の弓を一斉に放ったり、攻撃魔術を放ったりした。

 それでも俺の創りだした結界はビクともしない。


「確信したか、これで安心できるか?」


「はい、安心できました」

「これほど丈夫なら何の心配もありません」

「やっと安心して眠れます」

「もう悪夢を見なくてすみます」


 眠れず、眠れたとしても悪夢を見てしまうか……

 そのまま放置してしまったら、精神的におかしくなってしまう。

 遠い場所の結界だけでなく、常に側に居てくれる守護者が必要だな。


「これは君達を悪意から護るための結界だ。

 これさえあれば君達を害する者は絶対に現れない。

 だが、1度死と絶望を間近に感じた者の不安は強い。

 君達が安眠するためには、直ぐ側に居てくれる守護者が必要だろう。

 1人3体のゴーレムを創ってあげるから、自分の魔力で育てるがいい」


「この者達を全ての悪意から護る守護者を創る、アース・ゴーレム、ウッド・ゴーレム、フォラン・リーヴズ・ゴーレム」


「「「「「うわあああああ!」」」」」


 俺は実用が1番だと考えているが、今回ばかりは見てくれも大切だ。

 いついかなる時にも自分を護ってくれると信じられる存在。

 人間ならば守護騎士だが、ハーフエルフの場合は違うだろう。


 寝室に完全武装の騎士がいたら、逆に恐ろしくてたまらないだろう。

 森の中に住んでいるのだから、守護者は木の精霊が良いだろう。

 土と木で創ったトレント型のゴーレムなら安心できると思う。


 ただ、土や木を強固に圧縮して創り出したゴーレムでは抱き枕にはできない。

 部屋の中と家の外を護るには良いが、抱き心地が固すぎる。

 その点、空中からの偵察を主眼にした落ち葉ゴーレムなら抱き心地がいい。 

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