第4話:ハーフエルフ

異世界召喚から6日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点


「奴隷商人達は斃した、安心して出てくればいい」


 俺は幌馬車の後ろにある出入り口の革を開け放って声をかけた。

 この世界では布はとても高価で、鞣した革の方が安いのだ。

 だから幌馬車も布ではなく革で作られている。


「本当に大丈夫だ、君達がハーフエルフの女性なのも分かっている。

 奴隷商人から君達を奪って売ろうとしている訳ではない。

 家まで送っていくから、安心してくれ」


 この世界のエルフやハーフエルフの美男美女ぞろいだ。

 性根の腐った人間は、エルフやハーフエルフを性奴隷にしている。

 中でもエルフに比べて手に入れやすいハーフエルフが狙われている。


「本当に私達を家に帰してくれるの?」


 スレンダー美女のハーフエルフが恐る恐るといった態度で顔を見せる。

 他の7人はまだ幌の中で小さくなっている。

 6人が固まっていて、1人だけ孤立しているのが気になる。


「ああ、この馬車を手に入れたから、どこにでも送ってあげられる。

 この馬車には嫌な思いがあるだろうが、君達を歩かせるわけにもいかない」


「そう、でも、少しでもきれいにできたらいいのだけれど……」


 びろうな話しだが、奴隷商人達に変な気を起こさせないように垂れ流していた。

 漂ってきた悪臭と各種探査で分かっていた事だ。

 俺もきれいにしてやりたい思いはあるが、この国では水が貴重だからな……


「俺もピュアやピュアリフィケイションできれいにしてやりたいが……」


 まだこのハーフエルフ達が単なる被害者か分からない。

 奴隷商人達に負けず劣らずの性悪の可能性だってある。

 実力を全て見せない方が良いだろう。


「この奴隷の首輪がなければ自分達できれいにできるのだけれど」


「ああ、それくらいなら俺が解呪してやる。

 この者にかけられた呪いを解きたまえ!

 解呪、ディスペル。

 破壊、ディストゥラクション」


 俺は最初に鉄と木で作られた奴隷の首輪から呪いを解く。

 この世界風に言えば、かけられていた魔術を解除解呪する。

 ハーフエルフ達に悪影響が出ないように、解呪した後で首輪自体を破壊する。


「凄い、こんな強力な呪いを解除できるなんて!

 ああ、ありがとう、これで身づくろいできるわ!

 他の子の首輪も解呪してくれる?」


「ああ、任せておけ、最初からそのつもりで助けたのだ」


「貴女達、順番に解呪してもらいなさい」


「「「「「はい!」」」」」


 奥から見ていたのだろう。

 6人のハーフエルフが一斉に返事をする。

 1人だけ返事をしないのがとても気になる。


「オリビアも遠慮せずに解呪してもらいなさい。

 貴女も私達の仲間なのでなら、遠慮する事ないのよ」


 リーダー格になったハーフエルフが独りになっている少女に声をかける。

 信じられないくらい長命なエルフやハーフエルフの年齢はとても分かり難い。

 だが他の女達よりははるかに年若い事だけは、探知で見ても明らかだ。


「……うん……」


 探知で確認した範囲では、周りの女達が虐めている感じはなかった。

 どちらかと言えば、扱いに困っている感じだ。

 この子だけが別の村からさらわれてきたのか?


 いや、最初に助けたハーフエルフがオリビアと呼んでいるから顔見知りのはずだ。

 これだけ心の距離が遠いのなら、合流した女達に名乗ったとも思えない。

 ハーフエルフの村で孤立していたのだろうか?


「順番に解呪してもらってもいいかな?

 あ、私達ハーフエルフですら解呪できない奴隷用の首輪だったわね。

 本当に魔力が持つの?」


 リーダー格のハーフエルフが思い出したように聞いてきた。

 確かにこれだけ強力な呪いがかけられた魔道具を解呪するには、大魔力が必要だ。

 だが俺には、仙人の中でも特に強力な真人に相当する能力を与えられている!


「魔力の心配はいらない。

 こう見えてかなり鍛えているから何の問題もない」


「500年以上生きている私達を越える魔力を持った人間?

 とてもそうは見えないのだけれど、若返りの秘術でも使えるの?」


「君達を信用しない訳ではないが、魔力や魔術の関する事は言えない」


「そうね、エルフと人間の確執を考えれば、エルフに嫌われ、人間に狙われている私達を助けてくれた人の秘密は聞けないわね」


 ハーフエルフを助けると言う事は、エルフと人間の両方を敵に回す事になる。


「貴女達が好んで俺を売るとは思わないが、人質を取られる可能性もあれば、魔術や拷問で無理矢理言わされる可能性もあるからな」


「分かったは、もう何も聞かないわ。

 それで、そこまで慎重な貴男が、本当に私達を村にまで送ってくれるの?」


 また疑いだしたのか?

 ハーフエルフが虐待を受け続けている歴史を考えれば、当然の警戒だな。


「貴女達が自分の村の場所を人間に教えたくないのは分かっている。

 だが俺にも助けた人間としての義務と権利がある。

 このまま貴女達だけで行かせて、また捕らえられたら何にもならない。

 独りだけ浮いている少女の事も気になる」


「……そうね、確かに私達だけで無事に村に戻れるとは断言できないわね。

 オリビアが孤立しているのが気になると言われたら断れない。

 何より助けてもらってお礼を何もしない訳にはいかないわね」


「お礼は何もいらない。

 金にも物にも困っていないから、奴隷商人に襲われて困窮しているであろう、ハーフエルフからお礼をもらう気などまったくない。

 むしろ事情によったら結界の魔道具を無償で分けてやるつもりだ」


「結界の魔道具を分けてくれる?!

 奴隷魔術のかかった首輪を解呪できる貴方が?!」


「ああ、俺が作った結界魔道具はとても強力だぞ。

 少々の魔術師であろうと解呪はできない逸品だ。

 問題があるとしたら、中から完全に出られなくするかどうかだ。

 食糧をどれだけ自給できるかによって、完全結界にできない可能性もある」


「村の周りには栄養価の高い果樹と蜜樹がたくさんあるわ。

 その魔道具が広い範囲を護ってくれるなら、外界との関係を完全に断てるわ!」


「結界範囲で自給自足できないのなら、通過の魔道具を持つ者だけは出入りできるようにできるが、それをエルフや人間に奪われたら奇襲を許す事になる。

 村全体でしっかりと話し合ってもらわないと、こちらで勝手に決められない」


「分かったわ、一緒に村に行ってちょうだい。

 できるだけ早くこれからの事を決めたいわ。

 オリビアの事も決めなければいけないし……」


「そうだな、ハーフエルフの村に連れて行ってくれると決まったのなら、さっきから待っている者達を解呪しよう。

 この者にかけられた呪いを解きたまえ。

 解呪、ディスペル。

 破壊、ディストゥラクション」


「ごめんなさい!

 つい夢中になってしまって、貴女達の事を後後回しにしてしまったわ!

 清浄、ピュア。

 消毒、ディスィンフェクション。

 浄化、ピュアリフィケイション」


 リーダー格が謝りながら家の掃除や消毒に使う魔術を次のハーフエルフにかけた。

 

「私達の事は気にしないで、村の大切な話しを続けてちょうだい。

 奴隷の首輪さえ解呪してもらえば私達はだいじょうぶ。

 馬車の中の掃除や消毒は私達でやるから」

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