Part1ロンドの旅Chap3東京の事件

1.恩師

1.恩師

空港を出るとすぐにタクシーへ乗り込み目的地へ向かった。運転手へ行き先を告げた途端、着信音が鳴り響いた。


 先生、ありがとうございました。3人も入国したようです。突然こんなお願いをしてすみませんでした。


 気にするな。君のお願いなら断れないよ。ワシは君ら家族がまた幸せに暮らせることを誰よりも願っているしな。


 …いくらお礼をしてもしきれませんね。


 それはワシも同じさ。人はこうやって助け合って生きていくものだと思うよ。


 そう…ですね。それでは、最後までお付き合いお願いします。


 ああ、わかった。


電話を切ったあとは、無意識だった。目を瞑り、自然とこれまでの人生を振り返っていた。彼らとの出会い、共に過ごした日々の思い出、別れと再会が目まぐるしく映像と共に蘇った。


 これが、走馬灯か…。何とも不吉なもんだ。


そう呟いたとき、ホテルの前でタクシーが止まった。


 先生!長旅お疲れさまでした。


 ああ。


待ち構えていた男にそう答えると、降車しまっすぐエントランスへ向かった。何人もが深々と頭を下げながら彼を出迎えている。

 

 先生、どうぞこちらへ。


1人の男性が彼を案内した。結婚披露宴などでもよく使われるという、煌びやかで広大なパーティー会場へと導かれ、壇上に上がった。彼の名が高らかに紹介されると、けたたましい拍手がしばらく続いた。


 このような日本で最も栄誉ある賞を受賞できたのは…


お決まりのスピーチを終えると、祝賀会が始まった。


 大変ご無沙汰しています、先生。


 おお、来たか。お姉ちゃんも大きくなったな。妹もとても可愛らしいじゃないか。君ならいとも簡単に見抜き、ここに来ると思っていたよ。


 先生も人が悪い。ソウルで身を明かしてくださればいいものを。


 悪かったよ。お互い色々事情があるからな。この意味はわかるだろう。


 ええ…おっと、遅れてしまいました。メライ、バルカ、先生に挨拶を。


 初めまして。父が大変お世話になっています。長女のメライと申します。


 …。


 メライは赤ん坊の時に先生に一度お会いしていて、バルカは今日が初めてだね。


 時が経つのは早いものだね。さて、君とはゆっくりと話したいのだが、見てのとおり今は私のパーティーの最中でそれがかなわない。だから明日の夜、マスターの店に来てくれないか。


 わかりました。久しぶりにマスターと会うのも、先生とお話しするのも楽しみにしています。


 ああ、じゃあまたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る