第53話 ~~~~~終幕~~~~~

<10時頃 ニュース速報>

 「モデルの朽木エリカさん22歳が、今日午前9時30分頃、新宿区の路上で腹部など複数個所を刺されて死亡。容疑者はその場にいた女性。有明杏実、無職。」


<13時 お昼のワイドショー>

 「MC:今朝、驚きのニュースが入ってきました。ファッション誌「MOST」等で活躍していたモデルの朽木エリカさんが、本日9時半頃、新宿区内の路上で腹部など複数個所を刺されて死亡しました。発見後、救急車で病院に搬送されましたが、即死だったとのことです。容疑者は現在、新宿署で取り調べ中の有明杏実(ありあけ あみ)氏、46歳。無職ですが、去年12月頃まで旅館を経営していたという情報があります。」

 「出演者Z:朽木エリカさんと容疑者の女性の間に何かトラブルがあったのか、通り魔的な事件だったのか分かりませんが、急な出来事で驚きましたね。」

 「MC:ビックリしましたよ。人気の現役モデルですからね。実は私の娘も朽木さんが以前CMに出ていた洗顔料を使っているんですよ。それくらい、人気で身近なタレントでしたからね。……はい、どうやら何か新たな情報が入ったようです。現場につないでみましょう。」

 「記者:今、規制線が張られていてこれ以上入ることができませんが、このおよそ50m先が殺害現場となります。目撃者の証言によりますと、容疑者は包丁のような刃物で朽木さんの腹部を刺し、朽木さんが路上にうずくまったところを後ろから、背中を何度も何度も刺したとのことです。」

 「MC:恨みによる犯行ということでしょうか。容疑者について他に情報はありますか?」

 「記者:はい。同じ目撃者の方なのですが、「あなたが私の家庭も、旅館も潰した」と言いながら背中を複数回刺していたようで、恨みによる犯行を示唆する発言を聞いたようです。ただ、別の目撃者の話ではですね、容疑者が朽木さんのことを「マミコ」と呼んでいたという情報もあり、まだ情報が錯綜している状況です。」

 「MC:ありがとうございました。このあたりの情報が警察の取り調べで明らかになるのでしょうか。また新しい情報があり次第、お伝えします。」


<夕方18時の報道番組>

 「MC:朽木エリカさん殺害事件の続報です。警察関係者への取材で有明容疑者の動機など、供述の内容の一部が分かってきました。…えー、有明容疑者は警察の取り調べに素直に応じており、

 「マミコが夫をたぶらかして、私の人生を滅茶苦茶にした。」

 「刺す前にマミコか?と尋ねたが否定された。」

 「朽木エリカがマミコだという確信は無かったが殺した。」

といった供述をしているようです。」

 「出演者X:このマミコというのは、どこの誰なんでしょうね?朽木さんはマミコではないと否定したのに、人違いで殺されたということですか?」

 「出演者Y:夫をたぶらかしたという事ですから、おそらく女性で、何か男女関係で問題があったのでしょうか。」

 「MC:いや~、この供述だけでは事実関係がまだ分かりませんね。警察も裏取りをしながら慎重に捜査していると思いますが、社会に大きな衝撃を与えた事件ですから、早期の真相究明が望まれます。」


<23時 夜のニュース番組>

 「MC:モデルの朽木エリカさん22歳が、本日午前9時38分、新宿区xx通の交差点で腹部などを刺されて死亡しました。容疑者は有明杏実氏で、駆け付けた警察官に現行犯逮捕されています。それではまず、19時に開かれた朽木エリカさんの所属事務所「フレームズ」の記者会見をご覧ください。」

 「事務所社長:この度は我々「フレームズ」の所属モデル、朽木エリカの死亡を皆様にお伝えすることとなり誠に残念です。朽木エリカは、大学在学中から当事務所に所属し、地道にレッスンや営業を重ね、ロックバンドのミュージックビデオ、大手日用品メーカーのCM、大手ホテルのウェディングプロモーション等に出演する機会に恵まれました。そして、去年の秋からは、中学生の頃から夢だったファッション誌のモデルになることができ、…本人も大喜びしていました。真面目で、勉強熱心で、向上心がある子でした。なぜ…、なぜ、殺されたのが朽木エリカだったのでしょう…、あの子が殺されるような理由が、どこにあったのでしょうか……。本当に残念です。私達があの子を守ってあげられなかったのが後悔しても、後悔しきれません。……」

 「記者A:社長かマネージャーさんでも良いのですが、朽木エリカさんと容疑者の女性とは何か接点やトラブルがあったのでしょうか?」

 「ユリエ:ありません。少なくとも我々は承知していません。」

 「記者B:朽木エリカさんは、なぜ今朝あの場にいたかご存じですか?」

 「ユリエ:昨日エリカはオフで、友人と会っていました。今朝はその友人と会っていた場所から事務所へ移動しようと、駅に歩いていたのだと思います。」

 「記者B:友人というのは、具体的に言うと彼氏ですか?」

 「ユリエ:今回の事件と関係ありませんので、回答は控えます。」

 「記者C:容疑者は「家庭と旅館を潰された」と言っていたようですが、旅館のプロモーションを断ったとか、仕事上のトラブルがあったのでしょうか?」

 「社長:事務所で履歴を確認しましたが、容疑者の方や、…そもそも旅館からのプロモーション依頼を受けた事がありません。」

 「記者A:家庭という点はどうでしょう。遠い親戚で金銭の貸し借りがあったとか?」

 「社長:ありません。」

 「記者D:一部報道では容疑者が「マミコ」という名前を呼んでいたという情報がありますが、事務所は何か心当たりがありますか?」

 「社長:マミコという人物と面識も心当たりもありません。」

 「記者D:続けてもう一つすいません。「フレームズ」で所属タレントの警備体制はどのようになっているのでしょうか?」

 「社長:セキュリティがしっかりしているマンションに住むよう斡旋し、タクシーでの移動を推奨していますが、ボディーガードを付けるような警備はしていません。しかも、今回の事件は脅迫メールや嫌がらせ電話等の前触れなく起こりましたから、備えようがありませんでした。」

 「記者E:ネットの不確かな情報ですが、朽木さんは学費や芸能活動でお金に困っていて、不特定多数の男性と交際するアルバイトをしていたという噂があります。今回の事件はそのアルバイトでのトラブルではないのですか。」

 「ユリエ:エリカは断じてそのようなアルバイトをしていません。事務所から斡旋したアルバイトや、ご実家からのご支援で芸能活動を続けてこられたのだと思います。」


<事件当日のネットの書き込み>

 「朽木エリカのファンでした。「MOST」でエリカを見ることが出来なくなるなんて残念です。」

 「CMが流れると思わず手を止めて見入ってしまう魅力がある女性だった。「惚れるなよぉ~」って言われても、惚れてまうやろ。」

 「エリカちゃんは、背が低くても、胸が小さくても、頑張れば綺麗になれると証明してくれた私達の憧れでした。ご冥福をお祈りします。」

 「「ポートレートジャーナル」からのファンです。エリカの1st写真集が出るのを楽しみにしてけど、もう無理なのかな。」

 「朽木エリカは人違いで刺されたってこと?マミコって真犯人は今すぐ謝罪してほしい。」

 「朽木エリカさんが出ているウェディングページを見て、「エトワール東京」で結婚式を挙げました。素敵なホテルを紹介してくれてありがとう。」

 「「エリカの白」を塗っていたら片思いだった男性から告白された。「スラフコフの太陽」、最高にかっこよかったよ。」

 「東通塾に通っていて、今年志望大学に現役合格できました。塾長が言うには、今まで塾のポスターが盗まれたのは3年前のエリカさんが最初で最後のようです。」

 「「泣いてる子」の時からずっと応援していました。こんな形でのお別れは本当に残念です。安らかにお眠りください。」

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