第48話 だからミナからあんなメールが来たんだ。
翌朝、案の定、私はあまり眠ることができず、ずっと幾地さんのいびきを聞いていた。幾地さんは9時のアラームで目を覚まし、トイレに行った後、私にもトイレと水分補給を勧めてきた。私も言われた通り起き上がり、冷えたペットボトルを冷蔵庫に戻しているところで後ろから幾地さんの腕でホールドされ、「ヤルぞ」と誘われた。夜と同じようにお姫様だっこでベッドに連れていかれ、下ろされた後、無遠慮に上から覆いかぶさってきた。時間を気にしているのか、短時間の適当な愛撫で私が濡れていないのにも構わず、幾地さんはコンドームを着けて正常位で大きなペニスをねじ込んできた。思わず「痛い」と声が出たが、演技だと思われたのだろう、薄ら笑いをしながらゆっくり出し入れをしてくる。
「どうだ、正常位が好きなんだろ。」
「は、…はい。」
「ははは、なあ、エリカちゃん昨日と同じように一緒にイこうぜ。あれは最高だった。」
「イケるかどうか、分かりません。」
「ふふふ、俺は五ツ星だぞ。イカせてみせるさ。」どうやら昨日締めたのが気に入ってくれたみたいだが、私は決して気持ち良いのではない。早く終わってほしくて締めただけだ。幾地さんが太いモノを誇示するように、奥まで入れた後、お互いの陰毛部分をこすり合わせるようにグリグリ身体を揺らし、ゆっくり出して、また奥まで入れてくれるのをゆっくり何度も繰り返された。あまり長引くようなら締めようかとも思ったが、15分程体位を変えながら行為をしている内に幾地さんは勝手に行ってくれて助かった。
「悪りぃ、先にイっちゃったわ。」
「寝起きだから私の身体がついていけなかっただけです。」
「絶対にリクエストするから、またしような。」
「リクエスト?」
「ああ、また会おうってことさ。」
ミナさんと幾地さんの付き人男性は、昨晩言っていたとおり10時頃に幾地さんの客室に戻って来た。幾地さんと私もシャワーと着替えが終わっている。
「おはようございま~す。」幾地さんが扉を開けるとミナさんと付き人が入ってくる。
「おはよう。ん?お前、なにをモジモジしているんだ。」幾地さんが付き人に声をかける。
「付き人同士の秘密で~す。幾地選手、栄養士さんもたまには息抜きさせてあげないとダメですよ。」ミナさんが男性付き人の腕に寄りかかるようにしてご機嫌に答えた。付き人は恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「なんだ、お前もコーディネーターさんにお世話になったのか。やるじゃねえか。」
「ふふふ。いーっぱい出たものね~。」
「なあ、コーディネーターさん。エリカちゃんにも言っておいたけど、俺の方もリクエストするから、また調整を頼むよ。」
「承知しました。この子、美味しかったでしょ。」ミナさんがニヤケ顔で答える。
「ああ、最高だったよ。他の男に指一本触らせず、自分だけの女にしたいってのも納得だよ。」
「気に入ってもらえると思いました。朽木さんもリクエストに応じるわよね?年俸数億のスタープレーヤーがまた抱いてくださるんだから、断る理由が無いわ。」私が答えに戸惑っていると、ミナさんが私を脅すように睨みつけて、肘でつついてくる。
「また、…お願いします。」私は小声で答えた
「では、リクエスト成立という事で、これで失礼します。」
私はミナさんに腕を引かれ幾地さんの客室を出て、昨晩最初にチェックインしたミナさん予約のツインルームへ戻った。部屋のベッドは二つとも乱れていて、バスタオルもバスローブも床に無造作に落とされている。
「さあ、チェックアウトまであと30分位しかないわよ、出る準備をして。」ミナさんはそう言いながら、ソファやテーブルに散らばった下着やストッキング、ベルト等の自分の私物を片付けている。
「ミナさんもあの人とセックスしたんですか?」
「ええ。初めは全く手を出してこないからノン気かと思ったけど、あの子がシャワーから出て来た後、握ってしごいてあげたら、私にしがみつきながら情けない声を出してイっちゃったの。あまり経験が無いって話だったから、私が優しくレッスンしてあげたらすごく喜んでくれたわ。」
「あの…、お手当は貰わなくて良かったんですか?」ミナさんの自慢話なんてどうでもいい。
「付き人さんから昨晩の内に貰っているから大丈夫。朽木さんには80万円ね。」ミナさんが札束の入った封筒を渡してくる。
「え!そんなに。」ミナさんの手元にはもう一つ同じくらいの厚さの封筒がある。それがミナさんとクラブへの報酬なのだろう。
「そうよ。だから楽に大きく稼がせてあげるって言っているじゃない。」
「でも、私、…本当にもうパパは必要ないんです。」
「またその話?クラブとプライベートは別って事で話は終わったでしょ。…そうだ、面白いものを見せてあげる。……これ見てよ。コウジ君、昨日、伊予丹のバレンタインフェアで頑張ってチョコを売っていて、私がチョコをたくさん買ってあげたら一緒に写真を撮らせてくれたのよ。」ミナさんがニヤニヤしながらスマホの画面を私に見せてくる。その画像にはインカメラでコウジとミナさんが二人写っている写真が出ていた。コウジが照れくさそうに苦笑いしている。
「最初は嫌がっていたけど、私が甘えた声でお願いしたら「たくさん買ってくれたから1枚だけ」って撮らせてくれたの。優しい人ね。」笑っているミナさんが憎たらしい。
「金輪際コウジには近づかないでください。」
「それは朽木さん次第ね。あなたがクラブを辞めるなんて言い出したら、私、ショックでコウジ君に慰めてもらうことになるかもしれないわ。」
「やめて!」思わず大きな声が出た。
「はいはい。冗談はここまで。でも、あの幾地さんが朽木さんをあんなに気に入ってくれたんだから、この際、彼氏から幾地さんへ乗り換えたらどう?スター選手と人気モデルでお似合いだし、幾地さんお金持ちだから残りの人生遊んで暮らせるわよ。」
「嫌です。……私、撮影があるので、このまま失礼します。」話を続けていると気分が悪くなる。手早く着替えを済ませ、自分の荷物を持って部屋を出る。私はお金が欲しいんじゃない。幸せになりたいのだ。同年代の女性達に真似してもらえるようなモデルになって、家に帰ればコウジに優しく抱きしめてもらえる。そんな生活こそが私の目指す未来だ。
「ふふふ、まあ今すぐ決めなくても良いわ。ゆっくり考えてみて。ちなみに、五ツ星や三ツ星にはスポーツ選手の他にも俳優や芸人、医者や弁護士、若手起業家とか色々いて、あなたなら男なんて選び放題よ。」
今日の撮影はつまらないクイズ番組への出演。本業はあくまでモデルで、大手飲料メーカーのCM、自動車メーカーのCM等、色々とオファーをいただき出演することが出来たが、最近ではモデルという観点だけではなく、インテリのキーワードでも起用してもらえ、クイズ番組や報道番組にも出演できるようになった。
今回のクイズ番組では旧帝大や有名私立大学出身の大御所俳優、お笑い芸人、アイドル等でクイズに正解した合計点を競うありがちな内容だ。つまらない理由はありがちな内容だけではなく、出演者全員に予め問題も答えも教えられていて、誰が何番の問題に正解するかまで全て台本に書かれている事だ。芸人が面白おかしくボケ回答をしたり、大御所俳優が問題が読み上げられている途中でボタンを押して正解する予定調和。私も台本通り社会・経済の超難問で正解してMCさんから「さすがエリカちゃんは現役エイガク生ですね。」と褒められ、観客席から拍手をもらい、私は照れ笑いをして、そこを3カメにアップで抜いてもらう。ここまで全て台本の段取り通りだ。
「エリカ、お疲れ様。」撮影後、楽屋でユリエさんが労ってくれる。今や私も個室を与えてもらえるタレントになれた。
「ありがとうございます。」
「なんか疲れているわね。明日の打合せの予定をズラしてもらう?」
「いえ、大丈夫です。ミナさんに急に昨日予定を入れられて、そのまま現場に来たから今日は疲れているだけです。」
「そう。…続けてくれているのね。」ユリエさんが申し訳なさそうな顔をしている。
「はい。この前、辞めたいって言ったんですけど、ダメでした。」
「だからミナからあんなメールが来たんだ。」
「ユリエさんもミナさんから何か言われているんですか?」
「ええ。エリカがクラブを辞めたら、クラブで預かっている他の「フレームズ」の子達がどうなっても知りませんよってさ。」
「どういう意味ですか?」と私が聞くと
「一言で言えば嫌がらせね。今までは、ミナが比較的紳士的でお手当がたくさん貰える男性会員をうちの事務所の子にマッチングしてくれていたけど、そういう配慮をしてもらえなくなるってさ。特に“茶飯”だけの子とかお手当の稼ぎが少ない子は、大人の関係無しのはずなのに強要されたり、変な性癖のおじさんを当てがわれたりして、その子達をクラブから追い出そうとするの。」
「そんな…、男性だって面接をして、ルールを守る人を会員にしているんですよね。」
「たぶんね。でも、ランクが低い会員だとお金はあるけど頭がおかしいとか、色々いるみたいよ。ミナは、第2、第3のマミコを育てるために「フレームズ」の子をどんどん紹介してほしいって言っていたけど、肝心のマミコがいなくなったら元も子もないって怒っていたわ。」
「そうですか。」
「でも、エリカは自分自身の心配をしなさい。「フレームズ」の他の子も何とかするから、クラブの方は辛かったら辞めたらいいのよ。私も一緒に話に行こうか?」
「ダメなんです。「フレームズ」の子だけじゃなくて、私の彼氏や家族にも何をされるか分かりません。」コウジとミナさんのツーショット画像を思い出し、また胸がムカムカしてきた。
「MOST」出演はサーシャさんと同じ号に載ることは無いが、もちろん続いている。私が「ガールズプライズ」にサプライズ出演してサーシャさんと共演するのはまだ極秘だが、秀才社さんのお取り計らいで会場の現場下見や、秀才社会議室で衣装合わせと段取りの打合せをすることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます