第45話 何て事をしてくれたの。

 私が泣き止んだ後、それぞれでシャワーを浴びて、バスローブ姿で二人並んでベッドで横になっている。泣き止んだとは言え、私の気持ちを慮ってかコウジは手を出してこない。

 「コウジ、私もう大丈夫だよ。…しよ。」

 「うん、…でも。」

 「私は抱いてほしい。…ねえ、今晩さぁ、何も着けずにエッチしてみよっか?」冗談ぽく明るい声で言ってみる。

 「急に冗談を言わないでくれ。」コウジがやっと手を伸ばして来て、私の頭を撫でてくれた。

 「…私、本気だよ。万が一妊娠したら引退する。…それとも、私にウェディングドレスを着せてくれるって言うのは冗談だった?」

 「そんなことないよ。俺は本気だ。」

 「じゃあ、覚悟を決めてよ。もしもの時にはちゃんと責任を取ってもらうけどね。」コウジにキスをした後、上半身を起こしてバスローブを脱ぎ捨てた。当然全裸だ。

 「エリカ。」コウジも上半身を起こして私を抱き寄せてキスで答えてくれた後、コウジも裸になった。コウジにプレッシャーをかけたので遠慮をされたり、あるいは逆に投げやりな扱いをされたら嫌だなぁと思ったが、コウジはいつも通り愛撫をしてくれた。ディープキスの切れ味もいつも通りだ。ゼタバースクラブに所属してから約3年半、男性に1ヶ月間以上抱かれなかったのは初めてだし、『独占』が切れてコウジだけの女性になれたのも初めてだ。今なら堂々と恋人面できる。束の間、男の体を忘れかけていた私の体にコウジの温かい手や舌がほぐすように全身を駆け回り、コウジのぬくもりや優しい抱擁が少し冷えた私の体を癒してくれる。率直に気持ち良い。コウジの右手の中指が私の股間のでっぱりを掻き上げるように触り、ヌルヌル滑っていることから濡れている事が私にも分かる。

 「エリカ、本当に良いんだな。」コウジが手を止めて真剣な目で私に問いかける。

 「うん。」私が満面の笑顔で答えると、私の両足の間で態勢を整え正常位でゆっくり入れてくれた。コウジとは初めての生だ。コンドームのローションが無くても私は十分濡れているし、コウジの透明の液体もたくさん出ていたのだろう、引っ掛かることなく入って来た。霞がかかったようなにぶい感覚ではなくコウジの大きいペニスの感触をダイレクトに感じる。しばらく行為をしているとコウジは例によってすぐに果てて、動きが止まった。コウジが恐る恐るペニスを私から抜くと白濁の液体が漏れ出ているのだろう、コウジがティッシュペーパーを数枚手に取ると私の股間を遠慮がちに拭いてくれた。

 「ありがとう。本当に何も着けずにしてくれたんだね。」体を起こしてからコウジに背を向けて、自分でもティッシュでしっかり拭き取る。

 「着けなくて良いって言ってくれたから。」コウジはコウジで自分のを拭き取っている。

 「うん、いいんだよ。ちゃんとしてくれて嬉しい。途中でコンドーム着けられたり、外に出されたり、中途半端なことをされたら逆にガッカリするところだった。」

 「俺、初めてだったけど、エリカの体が温かくて、柔らかくて、すごく嬉しかった。」

 「言うまでもないけど、私も何も着けずにエッチしたのは、今回が初めてだよ。妊娠したら引退だ。へへへ。」またコウジに嘘をついた。生は初めてではないし、ピルを飲み続けているので妊娠するはずも無い。

 「俺、エリカが大好きなんだ。就職したら改めてちゃんとプロポーズさせてくれ。」コウジが私の背中を後ろから抱いてくれる。

 「何があっても私の事を信じてくれる?好きでいてくれる?」抱いてくれているコウジの腕を握りながら聞いてみる。

 「ああ。」妊娠のプレッシャーを与えても臆せず抱いてくれたことで口先だけではないのは分かったが、本当だろうか?全てを知られたとしてもコウジだけは失いたくない。

 「よかった。…今後も何を言われたり、書かれたりするか分からないからさ。」

 「分かってる。」

 「ところで、もう元気が戻ったでしょ?2回目する?」

 「何か吹っ切れたみたいに今日は積極的だな、エリカ。」私の頭と腰に手を添えて、ゆっくりベッドに寝かせてくれる。

 「いいでしょ?コウジが責任もって私を引き取ってくれるんだし。」

 「え、あ、いや、まあ。」コウジが全裸で勃起したまま照れている。可愛い男だ。

 「朽木エリカのファンなら知っていると思うけど、私って『お嫁さんにしたい女性No1』らしいわよ。ふふふ。」

 「知ってるよ。俺が一番のエリカファンだから。エリカを大事にしなきゃな。」コウジは熱いディープキスの後、首筋や耳、鎖骨や胸を激しく舐めたり吸ったりしてくれた。前面を愛撫した後は私を四つん這いにさせて背面も舐めまわしてくれた。コウジが何故か色っぽいと気に入ってくれている背を丸めて前屈みになった時にできる背骨の小さな山々に沿って、クルクル舌で舐めまわしてくれた。私の呼吸も自ずと荒くなっていく。コウジがペニスを私にあてがおうとしているのを感じてお尻を軽く上に突き出すと、何も着けないままバックで入れてくれた。そう言えば、近江さんは夜1回、朝1回がほとんどだったから、連続に近い形で生でするのは初めてかもしれない。まだ私の体内に精液がいくらか残っているだろうに追加で射精される。案の定、コウジがペニスを抜くと四つん這いの私の股間から白い液体がボトボトッとベッドに落ちた。


 2回目が終わった後、私が先にシャワーを浴び直して、その後にコウジもシャワーを浴びた。今は備え付けのパジャマで並んで寝転んでいる。コウジの性欲も一旦治まって『穢れなき愛情』の時間だ。

 「コンドーム着けないとこんなにベトベトなっちゃうんだね。びっくりだよ。」

 「どう言っていいのか分からないけど、すごく気持ち良かったから多かったかも。ゴメン。」

 「謝ることはないよ。こうやって赤ちゃんが出来るんだなって、私も勉強になった。」

 「勉強って…。俺、エリカを幸せにするように頑張るから。」

 「ああ、あの…種明かしをするとね、…私、今、安全日なの。その、生理周期というか、バイオリズムというか…。だから、可能性はゼロじゃないけど、たぶん妊娠しないと思う。」ピルを飲んでいるので、たぶんと言うか絶対に妊娠しない。もし可能性があるなら、とっくに近江さんの子供を身ごもっている。

 「そうなの?だからあんなに強気だったんだ。自暴自棄になったのかと思って心配したぞ。」

 「怒った?」

 「怒ってはいないけど、残念なような安心したような、モヤモヤした感じ。」

 「安心するのはまだ早いわよ。3ヶ月後に大事なお話をしなきゃいけないかもしれないし。」少しキリッとした表情を作る。

 「まあ、そうだな。ゼロじゃないもんな。」

 「ねえ、もしそうなったらさ、「エトワール東京」のブライダルフェアに行ってみようよ。もっと色んな形のドレスを試してみたいし、ゆっくり食事やスイーツを食べたかったんだよね~。きっと、私とコウジがリアルで行ったらホテルのみんながビックリするだろうなぁ。」

 「冷やかしだって思われないと良いけど。」

 「大丈夫だよ。親切でいい人ばかりだったし、ファンだって言ってくれるスタッフさんもたくさんいたんだよ。」

 「俺、そのファンの人に襲われたりしない?特に男。」

 「ははは、どうだろう?私が試着やトイレに行ってコウジ一人になった時は気を付けた方が良いかもね。」

 「おい、やめてくれよ。」

 「言ってるでしょ。『お嫁さんにしたい女性No1』を本当にお嫁さんにしちゃうんだから、それなりの覚悟をしてもらわないと。」

 「俺、護身術か何か習いに行こうかな。」

 「やめときなよ。コウジも私も体育会系じゃないんだから。怪我したり、傷ができるよ。」優男のコウジらしくない。

 「エリカのマネージャーさんにも怒られるな。」

 「ユリエさん?う~ん、「うちの大事なモデルに何て事をしてくれたの!」って激怒するかもしれないわね。」また伝わるはずがないユリエさんの真似をしてみる。

 「やっぱり。」

 「ははは、冗談だよ。コウジが私に無理強いするような人じゃないって、ユリエさんも知っているから、私達二人の共犯で私も一緒に怒られるよ。」

 幸せだ。好きな男性の腕に包まれながら冗談を言い合い、明るい妄想を話している。既にコウジの性欲を必要十分満足させていて、体目当てではない本音の優しさが現れているはずだ。私の話や愚痴を聞いてくれて、泣き出しても傍にいて優しくしてくれる。好きな男性に大事にされる幸せを知ることができたのも東京でコウジに出会えたからだ。モデルのエリカでも三ツ星会員のマミコでもない普通の女子大生朽木エリカであっても、案外私は幸せな人生が送れたのかもしれない。島にいる時には男性が私を幸せにしてくれるという発想が無かった。私自身の力で立ち上がり、走り続けなければ自己実現もできないし、お金も手に入らないと思っていた。


 翌朝、コウジがクリスマスプレゼントを渡してくれた。

 「昨晩渡しそびれたけど、プレゼント。」有名ブランドの長方形の箱。小さいが指輪ではなさそうだ。

 「うわー、ありがとう。何だろう?開けるね。……キーケースだ。」

 「いつかきっと同じ扉の鍵を持つことになる。それまで大事に使えよ。」

 「カッコつけるな、バーカ。」悪態をつきながらコウジに抱き着いた。

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