第29話 ちゃんとお参りしておいで。

 三日目。今日の行き先は秘密で、京都で生まれ育ったコウジも初めて行く場所らしい。JRで嵯峨嵐山へ行き、嵐山観光をするのかと思えば、嵐電嵐山から電車に乗って嵐山から離れていき、車折神社という駅で降りた。田舎にあるような小さくレトロなホームを降りて、道路を渡ると駅名にもあった車折神社だ。

 「ここに来たかったの?」

 「うん。嵐山にはよく行くけど、俺もここに来たのは初めて。」

 「何があるの?」人通りが少ない境内を歩きながらコウジに聞いても

 「もう少しだけ秘密。」と教えてくれない。本殿と思しき大きな建物を通り過ぎて、さらに南へ歩くと左手に芸能神社と書いた石碑があり、石材でできた大きい鳥居と芸能人の名前が書いてある赤い玉垣がたくさん並んでいた。

 「うわー。」と私が驚いていると、

 「ここが芸能神社。芸能の神様らしいよ。…俺、そっちの世界の事よく分からないけど、一緒に神頼みするくらいならできるかなって思って。」コウジが照れ笑いしている。

 「……」嬉しくて、思わず涙ぐむ。

 「エリカ?」

 「ありがとう。すごく嬉しい。へへへ。」

 「お参りしよう。」私とコウジが鳥居を過ぎて石畳を進むと、白い服を着てゆっくり滑る様に歩いてくる女性とすれ違った。すれ違いざまにニコッと微笑みかけられたような気もした。

 「何となくエリカに雰囲気が似ていたね。」とコウジが言うので振り返ってみると、鳥居を出て参道を曲がったのか、姿がなかった。

 二人並んでお参りをする。私は「ファッションモデルになる夢が叶いますように。」と願った。コウジも横で手を合わせている。願い事はたぶん「宝くじが当たりますように」ではないはずだ。きっと私のために何かをお願いしてくれているに違いない。二人ともお参りを済ました後、玉垣に書かれている芸能人の名前を見ながら、あの人もある、この人もあると二人ではしゃぎながら一回りした。

 車折神社の本殿にもちゃんとお参りをして、最後にコウジが社務所でお守りを買ってくれた。

 「はい。これが芸能御守。これでオーディションに勝ち残ったり、仕事のオファーが増えるといいな。」

 「ありがとう」泣きながらお礼を言う。

 「何も泣くことないじゃん。700円だし。」

 「違うの、気持ちが嬉しいの。……私、がんばるね。」

 「うん。心機一転、いい気分転換になったな。」

 コウジに貰ったお守りを大事に鞄に入れて、電車でまた嵐山に戻った。嬉しくて泣いたのは人生で2度目だ。エイガクに合格して東京に行けるのを喜んで泣いた1回目。今回は彼氏が私のために時間を割いて、私の夢のために一緒に願い事をしてくれたのが嬉しかった。よく考えたら彼氏や男友達がいなかった私は、男性に何かを買ってもらった経験が少ない。高価なアクセサリーや鞄ではなく御守だったが、物を買い揃えるだけだったら、近江さんに何回か抱かれれば一人でもできる。男が私のためを思って行動し、プレゼントをしてくれることがこんなにも嬉しいことだとは思わなかった。ユリエさんが言ってくれたように美人に生まれてよかった。男が私を優しくしてくれて、守ってくれて、求めてくれる。大げさかもしれないが、コウジのおかげで愛される喜びを知れたし、『女性』でいられることが楽しくなってきた。東京に戻ったらユリエさんにも芸能神社を教えてあげよう。きっと「へえ~、そんな神社があるって知らなった。ちゃんとお参りしておいで」って言ってくれるはずだ。


 嵐電嵐山に着くと「先に腹ごしらえしよう」と渡月橋のたもとにある「琴きき茶屋」へ連れて行ってくれた。良い塩梅の桜の葉に包まれた桜餅をいただき、とても美味しかった。その後は天龍寺を参拝した。これまた大きなお寺で、嵐山を借景にしたお庭が有名らしい。ゆっくり境内を回って出口を出ると、有名な竹林の道に出た。コウジはこの3日間で「私の写真集でも作ろうとしているの?」と聞きたくなるくらいたくさん私と京都の写真を撮ってくれたし、私達のスマホには二人で撮った写真や動画がたくさん貯まった。大通りに戻ってから嵯峨嵐山駅へ戻り、JRで京都駅へ帰った。

 「エリカ、ラーメン好きだろ?」

 「うん。」東京でも時々ラーメンデートをするくらい好きだ。女一人では行きにくいお店もコウジとなら入りやすいし、待ち時間も短く感じる。

 「ちょっと並ぶけど、美味しいお店があるんだ。」と駅から5分位歩いた所にある「第一旭」というラーメン屋さんに連れて行ってくれた。15分程並んだが、美味しい醤油ラーメンで並んだ甲斐があった。


 京都での最後の夜もコウジとセックスする。3日連続だ。シャワーを交代で浴びてバスタオルを体に巻いたままコウジのベッドに上がる。カメラの画像整理をしていたコウジもカメラを鞄に戻してベッドに上がってくる。部屋の灯りを消した後バスタオルを取られて、ゆっくりと体重をかけてきた。今晩のファーストタッチは、キスをしながら胸を揉んでくるだった。柔らかさを楽しむように優しく揉み、乳首を指でクルクルいじって気持ち良くしてくれた。

 「何を笑ってるの?」コウジがフフフって笑ったような気がしたので聞いた。

 「もう濡れてる。」

 「バカ、…いちいちそんな事を言わなくてもいいから。」私は近江さんに開発されて、気持ちいいとちゃんと濡れる子になっている。

 「エリカが聞いてきたんだろ。」

 「まぁそうだけど…」コウジがコンドームを着けて1度目の行為が始まり、終わった。

 2度目も数分じゃれていると自然と始まる。コウジは数回するセックスの中で、わりと高確率で後ろから入れてくる。四つん這いになった私に後ろから覆いかぶさるように腕で包み胸を揉みながら、うなじや首筋を舐めた後、うなじから尾てい骨まで背骨に沿って舌を這わせる。コウジ曰く「背中に浮き上がる背骨の小さな凸凹がセクシー」らしい。その頃にはペニスも復活していて、コンドームを着けて私を後ろから突いてくるのだ。コウジは私が恥ずかしがりながら腰をクイッと上げてペニスを受け入れ、ベッドの上で手足を踏ん張って耐えている姿に興奮し、私が枕に顔を埋めたり背を反らせて頭を上げたりして踏ん張っていても、いずれ私が腰を掴まれたままベッドに俯せに崩れるのに優越感を感じて、興奮が最高潮に達するらしい。コウジに腰をしっかりと掴まれて大きなペニスで何度も突かれるのは、男の力強さや逞しさを感じて私も嫌いではない。

 でも、一番好きなのは2度3度コウジがイって満足した後、さすがにすぐ回復しなくなっても私の事を抱いて「好きだ」、「綺麗だ」と言ってくれる時間だ。私はセックスという行為を通じてコウジに求められ、愛され、何度も満足させる。セックスの最中、彼には愛情もあるが性欲もあるだろう。しかしその性欲を全て発散させた後でも、コウジは純粋な愛情で私を愛おしく抱きしめてくれる。私なりの言葉で言えば『穢れ無き愛情』だ。この時間の言葉や行為は彼の心の現れだと思うし、私が彼氏という存在で得た一番幸せな時間だ。私も彼の体に半身を重ね、彼の胸の上で呼吸を整え、優しく頭や背中を撫でてもらいながら「気持ち良かったよ。」と伝えてあげる。

 「俺もすごく気持ち良かった。」

 「ふふふ、でしょうね。3日連続で疲れているはずなのに、今晩も3回したし。」

 「エリカは疲れて、しんどかったか?」彼の撫でる手が一瞬止まった。

 「今は大丈夫だけど、色んな所が筋肉痛になるかも。」

 「昨日も今日もいっぱい歩いたもんな。」

 「うん。…でも、京都旅行楽しかったし、特に今日は本当に嬉しかったんだよ。」彼の方を見上げて最高の笑顔で伝える。

 「喜んでもらえて良かった。」彼も笑ってくれた。

 「私、頑張るね。…もう泣かない。」

 「ははは、極端だな。…泣いてもいいじゃん。泣きながらでも大学4年間やってみなよ。」

 「そうだね。」


 朝、私の方が先に目が覚めてトイレと水分補給を済ませてベッドに戻ると、コウジも起こしてしまったようで、同じくトイレと水分補給を済ませてベッドに戻ってきたところで寝起きのセックスを1回だけした。

 「肩、大丈夫?」私が行為の後始末の後、肩をグルグル回しているとコウジが聞いてきた。

 「ふくらはぎだけじゃなくて、肩や二の腕も筋肉痛になっちゃった。」

 「ホントだ、凝ってる。ずっとリュック背負ってたもんな。」コウジが後ろから肩を揉んでくれる。

 「たぶんリュックだけじゃなくて、誰かさんのせいだと思うよ。」

 「え、俺のせい?何で?」コウジの手が止まり私の顔を覗き込んでくる。

 「そうだよ~。コウジが毎晩後ろから突いてくるのを手で踏ん張ってたからじゃないかな。」

 「そうなの?ごめん。」

 「ふふふ、でも私も後ろからされるの嫌いじゃないよ。…奥まで入ってきて興奮する。」少し落ち込んでいるコウジの耳元で恥ずかしい囁きをしてあげた。

 「え。」

 「恥ずかしい事を言わせるなバカ。…シャワー浴びてくる。お先に♪」

シャワーを交代で浴びた後、駅地下の「イノダコーヒー」で甘めのコーヒーとモーニングを食べて、ホテルをチェックアウトし、伊予丹百貨店でお土産を買って新幹線に乗った。

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