第28話 みんなやる事やってるんだから。

 9月。百貨店勤務とは言え大学生のバイトであるコウジは、シルバーウイークを前にまとまった休みを取れた。私の方も仕事が無く、シフトを動かしてバイトのお休みを取れば時間を取りやすい。コウジは私がかつて「京都に行ったことがない」と言ったのを覚えてくれていて、「気晴らしに京都へ行こう」と誘ってくれた。念のため言っておくが、コウジの実家にご挨拶とかその類の話ではない。

 二人ともスーツケースを用意した上、荷物がたくさん入る様にリュックも背負って東京から京都まで新幹線で約2時間30分。ホテルは京都駅近くのビジネスホテルだ。私から「グランドプリンセスのように気合を入れなくてもいい。それよりも長く連泊したい。」と伝えておいたので、何の不満も無い。むしろ3泊4日もできると聞いて嬉しかった。電車もホテルもコウジが手配してくれた。

 新幹線の中で「京都はまだ暑いぞ」聞かされたとおり暑い。ホテルに荷物を預けた後、コウジのエスコートで市バスに乗って出かける。まずは金閣寺に連れて行ってくれるらしい。「微妙にアクセスが悪いから中途半端な時間しか取れない初日がいい」とのことだ。駅を出てすぐは他の都市と変わりないように思ったが、車窓を眺めていると確かに“田の字”のように十字路ばかりだ。信号が多い道を約1時間バスに揺られてバス停に着いた。少し歩いたお寺の入口で「ここが金閣寺だよ」と言われたが、例の金色の建物は見えず、参道を歩き、拝観料を払ってさらに少し歩いて、やっと金閣を見ることが出来た。

 「わー、綺麗。写真撮ろうよ。」

 「うん。」他の参拝客も同じことをしているので順番に並び、コウジが私と金閣を撮ってくれた後、後ろに並んでいたご夫婦に私達二人の写真を撮ってもらった。楽しくて自然と笑顔になる。

 「私、ポツンと金の建物があるんだと思ってたら、結構広いお寺なんだね。」

 「そうだよ。京都の有名なお寺や神社って結構大きいんだ。」

 「教科書で見たのを実物で見られたのは、原爆ドーム以外は初めてだよ。」

 「そうか、エリカは広島が近いもんね。」

 「うん。しかも本土じゃなくて島だし。うちはあんまり家族旅行とか行かなくてさ、遠出すること自体が少なかったの。せいぜい尾道や広島かな。」なんか田舎育ちで人生を損した気になる。

 「俺達まだハタチなんだし、まだこれからだろ。俺がエリカを色んな所に連れてってあげるよ。」コウジが笑いながら言ってくれる。

 「ははは、ありがと。」


 ホテルでの夜、当然コウジとセックスをする。久しぶりにホテルでのセックスだ。明かりを消した暗い部屋の中で、やや強めの力加減で抱きしめて、情熱的に愛撫やキスもしてくれる。ユリエさんは「ホノカもサーシャさんも、みんなやる事やってるんだから、照れたり恥ずかしがることは無い」と言うが、私は何も知らない女の子のように「恥ずかしい」、「だめ」と小声で囁きながら、コウジに為されるがままベッドで表に裏に、右に左にコロコロ転がされている。ミナさん教えてもらった技は何一つ使っていないが、それでもコウジは「好きだ」、「綺麗だ」と鼻息荒く興奮してくれている。行為に関してもコンドームを毎回ちゃんと着けてくれるし、「生でやりたい」と私を困らせるようなことも言わない。大きめのペニスを私に入れてきて、すぐにイってしまうのは毎回のことだが、すぐに回復して2回、3回と行為を続けることができる。旅行中は門限を気にする必要が無いのでコウジの気が済むまで抱かれてあげようと思っていると、この旅行の一泊目に夜3回、朝2回の最多記録タイをマークした。

 二日目はコウジ曰く、「京都に初めて来た人をまず連れて行く王道ルート」らしい。ビジネスホテルで朝食は期待できないので、素泊まりプランにしてある。私が簡単なメイクや朝の準備をしている間にコウジが駅地下にある「志津屋」へ買い物に行ってくれて、カツサンドやカルネなる惣菜パン等を買ってくれた。京都では有名なパン屋らしい。

 今日はたくさん歩くと聞いているので、クリームイエローのTシャツにデニムを合わせ、スニーカーを履いて出発だ。市バスで四条河原町まで乗り、四条大橋で鴨川を渡ってまっすぐ東へ歩いて行く。既に人通りが多く歩道が歩きにくい。鴨川はどこにでもあるような川で正直「こんなもんか」と思った。「7月に京都へ来ると祇園祭があって、宵山の夜はこの四条通が歩行者天国になるんだよ」と歩きながらコウジが教えてくれた。通りの突き当りに石段と朱色の門がある。テレビでよく見る八坂神社だ。門をくぐり大きな本殿でお参りをした。境内を北側へ抜けて少しだけ円山公園を歩く。有名な桜の樹があって、ここが花見の定番スポットらしい。もちろん今は咲いていないが、大きな老木が立っていた。南の道に抜けて「ねねの道」を歩き、高台寺を参拝した。まず通りから長い階段を上り境内に入ると、ここも広い境内を歩き、お庭や方丈の中をゆっくり見ることができた。境内の中にも高低差があって、コウジに手を引かれながら狭い階段を上がり竹林の通路を下った。「尾道の千光寺も高い所にあって、瀬戸内海が綺麗に見えるんだよ」と息を切らしながらコウジに教えてあげた。

 高台寺の階段を降りてきた近くにある「都路里」で休憩。オーダーを済ませて一息つく。

 「暑いし、歩いたし、疲れただろう。」

 「うん。でも楽しいね。本物を見るとワクワクする。京都が好きになったかも。」

 「よかった。桜や紅葉の時に来ると、それも綺麗なんだけどな。」

 「コウジが違う季節に同じお寺や神社に行きたくなるって言っていたのが、少し分かる気がする。」

 「また時間が取れたら来よう。」コウジが優しく笑顔で私に言ってくれた時、店員さんが「お待たせしました」と抹茶パフェを運んできてくれた。

 「抹茶パフェだー。一回、本格的な抹茶スイーツ食べてみたかったんだー。」

 「ははは、ケーキを買ってもらった子供みたいな喜び方だな。」とコウジに笑われた。

 休憩の後、さらに南へ、さらに坂を上る。二年坂、産寧坂とお土産物屋さんなどが並ぶ路地を時々店内にお邪魔しながら歩き、今日のラスボス、清水寺へ到着した。本尊にお参りして清水の舞台からの眺望を楽しんだ後、境内を歩く。「清水の舞台の映像ってここから撮ってたんだね。」奥の院のことだ。清水寺も広い敷地でアップダウンが大きかったし、途中の地主神社は縁結びで有名な所で、私達二人はいくつかの女性グループに睨まれながらお参りをした。お寺を出た後も長い下り坂をずっと歩いた。大通りまで降りてきたところで市バスに乗って、京都駅へ戻る。クタクタに疲れたので、先に駅地下の「萬重」という京料理店で夕食を食べてホテルへ戻った。出汁の味がしっかりと美味しく、体に優しい味と言えば良いのか、ほっこり落ち着ける本格的な京料理をいただけた。そして、クタクタに疲れたはずなのにこの夜も愛し合った。

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