第26話 ホノカの代わりにシフトに入ってあげて

 私とコウジは交代でシャワーを浴びでスッキリした後、備え付けの寝間着に着替えて、入口側のベッドで添い寝をしている。セックスで使った窓側のベッドは布団もシーツもぐしゃぐしゃだ。

 「二人でこっちのベッドで寝ようよ。」

 「せっかくツインの部屋を取ったのに俺の部屋と同じで、シングルに二人で寝ることになったな。」

 「イヤ?狭い?」

 「そんなことないよ。温かいし、ほっこりする。」

 「でも、私とくっついてるとまたセックスしたくなるでしょ?」いたずらっぽく笑いながら言ってみた。

 「ははは、そうだな。」

 「え、まだできるの?冗談のつもりだったのに…」

 「ああ、何なら24時間ずっとエリカと繋がっていたいくらいだよ。」

 「はぁ、ありがとう…でいいのかな?」

 「念のため言っておくけど、繋がるって言うとセックスに聞こえるかもしれないけど、一緒にご飯食べたり、話をしたり、手を繋いだり、添い寝するのも全部好きだから。誤解するなよ。」

 「じゃあ、躊躇なく「ありがとう」だ。…私、キスも好きだよ。」可笑しくて笑った。

 「エリカ、…嫌なら途中で止めてくれ。」コウジが突然、向かい合って寝ていた私を仰向けにして覆いかぶさってくる。「キスも好きだ」と言ったからキスをするのだろうと目を閉じると、2度軽くキスをされた。

 「どうしたの?嫌じゃないよ。」甘えた声で言ってみる。もう一度唇が重なった後、ゆっくり遠慮がちにコウジの舌が私の口の中に入り、歯の間をすり抜けて、私の舌に絡んでくる。ディープキスがしたかったのか。

 「んーーーー。」私は目を見開き、驚いたような表情をして、上に乗っているコウジの肩を両手で押し上げ、コウジの上半身が離れた後、コウジを睨むようにして右手の甲で自分の口を拭った。もちろん、わざと驚いたリアクションをしている。既に近江さんに仕込まれているからだ。

 「やっぱり嫌か。ゴメン。」コウジは寂しそうな表情だ。

 「好きとか嫌いとかじゃなくて、びっくりした。……初めてだったから。」

 「じゃあ、…もう少し続けていい?」

 「うん、やってみる。…私はどうしたらいい?教えて。」

 「舌を絡めて、愛し合お。」コウジが再度ディープキスをしてきて、お互い舌を絡め合う。コウジは私の舌をクルクル回して絡めるだけではなく、舌や上唇を優しく口に含んで吸ってくれたりもした。気が済んだのか一旦口を離して心配そうに私の表情を窺ってくるコウジ。

 「映画のラブシーンみたいだね。」と恥ずかしそうに笑ってあげた。

 「よいしょっと。」私はベッドから降りて寝間着の上下を脱ぎ、入口側ベッドの上に置く。

 「どうしたんだよ。風邪ひくぞ。」

 「風邪をひく前に抱きしめてよ。こっちで「ラブシーン」しましょ。」窓側のベッドに上がり、はにかみながら両手でコウジに「おいで、おいで」と手招きした。コウジも全裸になり窓側のベッドに飛び乗って来たのは言うまでもない。ディープキスで興奮して染みるくらい濡れているショーツを脱がせてもらい、復活しているペニスを入れてもらった。回数を重ねるごとに硬さが若干弱くなり、イクまでに時間がかかり、射精の量も少なくなる。4回目ともなれば20分超、愛撫を尽くしながら行為をしてくれて、私の体内で脈打つ感覚があったもののコンドームの中には微量しか液が出なかったが、ディープキスでスイッチが入ってしまった私の我儘というか、性欲にコウジは応えてくれて、私を十分満足させてくれた。


 朝9時くらいまで二人とも寝ていた。熟睡だった。コウジは顔を洗いヒゲを手早く剃った後、服を着てコンビニへ買い物に行ってくれた。私も一度洗顔をして櫛を通し、出来る範囲で部屋を片付ける。窓側のベッドはちょっと臭い。スマホのメールをチェックしていると、ユリエさんから「年末、ホノカの代わりにシフトに入ってあげて」とメッセージが入っていた。ホノカは年末特番のお仕事が入ったみたいだ。こっちはスケジュールが空白なのに随分差を付けられた感じがする。

 コウジが買い物から帰ってきて二人でパンとインスタントコーヒーの簡単な朝食を済ませ、歯を磨き終えた。

 「ねえ、着替えてメイクしちゃうよ~。いいの?」ユニットバスから部屋に聞こえるように大きな声で聞いてみる。

 「ちょっと待った。まだチェックアウトまで1時間以上あるじゃん。」コウジが慌てて駆け込んできた。かわいい男だ。

 「じゃあ、チェックアウトまで何をするの?」答えは分かっているけど、ニヤニヤしながら聞いてみる。

 「エリカを抱きしめたい…です。」

 「しっかたないなぁ~。」コウジの肩を軽くパンパン叩きながら、明るく答えてあげた。

 手を引かれて入口側のベッドに上がる。コウジは服を、私は寝間着をそれぞれ自分で脱いで、向かい合うとコウジが抱きしめてゆっくり寝かせてくれた。

 「エリカと抱き合っていると、柔らかくて気持ちいい。」

 「私だけ?…他の女でも同じじゃないの?」

 「そんなことないよ。俺はエリカがいいんだ。」ほのぼのした感じで言ってくれた。

 「ふーん。」よく分からないけど、満足してくれているなら良い。

 「…次、いつ会えるかな?」

 「どうだろうね?…帰省するから年末も年明けすぐも難しいかも。…一応言っておくけど、我慢できなくなって他の女に浮気したら絶交だからね。」コウジに顔を近づけて念押しする。

 「分かってるって。心配しなくても誰彼構わず女に手を出すような事しないよ。」

 「何よ。例えば成人式とかで偶然カスミさんのような美人と仲良くなれたら浮気するの?」

 「さ~、どうかなぁ。」コウジが視線を泳がす。

 「そこは嘘でも「浮気しません!」って言いきってよ。」どの口が言っているんだ?と少し後ろめたい。

 「ははは、浮気なんかしない。エリカとは気持ちが通じ合っているから気持ち良いんだ。」そう言いながらコウジの優しい口づけから始まる。

 「シャワー浴び直す時間も考えてよ。」小声で囁いて身を委ねる。コウジの言葉が嬉しかった。


 12月は去年と同じように、近江さんに通常より多く会ってもらって帰省した。成人式があるから仕方ない。年末に母親から電話がかかってきた時には「人生の節目なんだから帰ってきなさい」、「何日に帰ってくるの?」、「振袖は予約しなくていいの?」と色々言われたが、あまり興味が無いので年が明けてから帰り、振袖も着ないと答えた。

 東京の初売りバーゲンで何着か服を買い、4日みんなが東京へ戻り始める頃に東京を出て、新幹線と在来線とフェリーを乗り継いで実家へ帰った。

 成人式は日曜日に市の公民館みたいな施設で行われ、女性は振袖姿が圧倒的に多い中、私はスーツ姿で行き逆に目立ってしまう。都会のように同年代が何千人も押し寄せる式ではないし、知っている人ばかりだから問題ないのだが、相変わらず男達の遠巻きな視線が気持ち悪い。逆に女友達はすぐに私を見つけてくれて、声をかけてくれた。「東京の大学はどう」と暮らしぶりを聞かれたり、「都会に出て綺麗になった」と褒めてくれたりもした。村野マミコもその一人だ。これは私のクラブ名ではなく、リアルの村野さんだ。

 「朽木さんだ。帰ってきてたんやね。」

 「うん、一応成人式だし出ておこうと思って。」

 「相変わらずブチ可愛いなぁ。東京に行って磨きがかかったんやない?」

 「そんなことないよ。普通の大学生。」

 「えー、男達は振袖姿の私達よりもスーツ姿の朽木さんの写真を撮りたいらしいよ。」

 「やめてよ、気持ち悪い。」

 「時間をかけて着付けやヘアセットしてもらったのに、朽木さんに負けちゃったわ。」

 「男の見る目が無いだけで、村野さん可愛いって。私も振袖着ればよかったかな?急に羨ましくなってきちゃった。」

 「ありがとう。東京はどう?服でもコスメでも何でも揃うんでしょ。」

 「うーん、お金があればね。何もかも高くて私には中々手が出ないよ。」

 「へー、家の家賃とかも高そうやね。」

 「仕送りだけじゃ足りないし、バイトをしても生活は大変で、何とかやりくりしてるって感じ。」

 「都会は都会で大変なんやね。」

 「でも面白いよ。「お父さん、我儘を許してくれてありがとう」って感じ。」

 「そっか。…ところでさー、男達がこのポスターの子、朽木さんじゃないかって言ってるんだけど、そうなの?」スマホの画面を見ると東通塾のポスターだ。転売サイトで「sold out」のマークが付いた例のポスターが表示されている。

 「うん…、まあ。」嘘をついても仕方ないので渋々認める。

 「やっぱり!すごいやん。芸能人だ。」

 「そんなことないって、たまたまこれだけだから。」

 「みんなで一緒に写真撮ろうよ。」戸惑う私に構わず、村野さんは同じクラスだった男女何人かを大声で呼び寄せ一緒に写真を撮った。その間も「あのポスターやっぱり朽木さんだって」、「すごい私のスマホでも撮ってよ」、「サイン貰おうかな」とクラスメイトは盛り上がっていた。おまけに私達が並んで順番にスマホで写真を撮っているのを全く関係が無い男子もスマホを構えて撮っている。

 「ちょっと待って。困るよ。」と私が手でシッシッと離れるようにジェスチャーをしたが「朽木さんが会場に来ている」、「あのモデルは朽木さんらしい」と人が人を呼び、話が広がっていった。

 「男達は朽木さんの新しい写真が欲しいんだよ、きっと。」と村野さんはニヤニヤ笑っている。

 2年ぶりに友達の顔を見て、記念写真だけ撮ったらさっさと帰るつもりだったのに、必要以上に目立ってしまった。この女と関わるとろくなことが無い。村野さんは高校卒業後、美容系の専門学校へ行っているはずだ。勉強の成績はあまり良くなかったが普通に可愛くて愛嬌があり、男子から人気があった。村野さんは彼氏がいて、「彼氏とセックスしたけどすごく痛かった」とか、「男ってチンポをこう、自分の手で擦ってオナニーしているんだよ」とか、島の純粋な生娘が知らない事を自慢げに話をしていた。そんな村野さんは情報通で、誰と誰がつきあっているとか、〇〇君が〇〇さんに振られた等、恋愛やエッチ関連の話のネタに事欠かず、学校生活では無視できない存在だった。学校内に留まらず、地域のつまらない噂話にも詳しかった。これは村野さんの母親が四国一の美容師として有名で、皆が村野ママの美容室を使うことで、自然と情報が集まったからだ、その情報が母親からか、店を手伝っていた村野さんが直接か聞いているのだ。

 しかし、私にとってはお節介が過ぎるというか、空気を読まないというか、鬱陶しい。これが島や村社会の人間関係と言われればそうかもしれないが、何もかも筒抜けのように感じるし、気持ちや会話がかみ合わない苦手な存在だ。

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