第25話 いつかああなれると良いわね。
12月に入るとクリスマスに向けて世の中が浮ついた雰囲気になる。普通の恋人達はクリスマスイブやクリスマスにデートをして愛を囁き合うのだろうが、私達は違う。まずコウジは伊予丹百貨店のバイトで予約済クリスマスケーキの受け渡し会場に2日間とも詰めなければならない。私も2日間ともエステ店「ホワイトフレーム」でバイトの予定だ。デート前に身綺麗にする女性客がいるのでお店としては稼ぎ時なのだ。
コウジとのデートはクリスマスの10日以上前。特別に着飾ることなく、ハイネックのニットとデニムにダウンコートを着て、大きなリュックを背負ってメイクも程々にいつも通りの苦学生姿である。18時に「ヴァンデミエール」で待ち合わせ。今までランチタイムや、ケーキセット等のカフェ利用は何度もしてきて、料理やスイーツは美味しいし、あまり回転とか気にしないのか、急かされる事もなくてくつろげるお気に入りのお店だ。夜は値段が高くて今まで来たことが無かったが、クリスマスにかこつけて贅沢をしてみた。前菜、メイン、デザートに、バケットとコーヒー又は紅茶が付く。ナポレオンのイラスト付きのメニューブックによると、ランチと同じようにメインは肉料理と魚料理かどちらかを選べるようだ。私はお魚で、コウジはお肉にした。私は遠慮したが「俺達もう成人だから堂々と飲める。」とコウジは赤ワインをグラスでオーダーしていた。ここのウリの1つであるワインは当然別料金だ。
「デパートのバイト、大変そうだね。」
「お歳暮、クリスマス、おせち。年が明けたら初売りにバレンタインとしばらくバタバタしそうだよ。」
「私もイブやクリスマス当日までエステでタオルたたみだよ。」
「周りが楽しそうな中、サービス業は辛いよな。」コウジが店の外を遠い目で見る。それぞれのバイトや仕事の事が話題の他、年末年始は帰省するかとか、成人式に出るかとか、1月は定期試験対策でまた大学に行かなきゃとか、会話と食事が進む。
「んー、このポワレおいしいー。」メインプレートだ。ランチも美味しいがディナーも美味しい。プチ贅沢した甲斐があった。
「エリカは魚好きなんだな。」
「うん。瀬戸内の子だから。」
デザートにタルトタタンとコーヒーをいただいて、満腹でくつろいているとコウジに声をかける女の人が現れた。あちらも男女のカップルだ。
「あら、コウジじゃない。」
「え、姉ちゃん。なんでいるんだよ。」
「このお店をコウジに教えてあげたのは誰かしら?ふふふ、…デートの邪魔をして失礼しました。はじめまして、姉のアヤです。」コウジのお姉さんが私にも挨拶をしてくれた。率直に綺麗な人だと思った。
「こちらこそ初めまして。…朽木エリカです。」名前は意図的に小さくした。思いがけず声をかけられた上に、私が少し気後れするくらい綺麗なお姉さんだったからだ。事務所で稀にカスミさんのような女優に会うと、自然と目が行き、行動を目で追ってしまう。ドラマの衣装やハイブランドの服を着ていなくても、事務的な打ち合わせで会議室に入る時でさえもだ。何を着ているか、何を持っているかなんて関係なく、ただそこに存在しているだけで美しい『華』というものを思い知らされる。こんな人がカメラに向かって表情を作り、ポーズを取り、演技をすれば、その画像や映像に老若男女問わず見入ってしまうはずだ。カスミさんに目を奪われていた私に「エリカもいつかああなれると良いわね。」とユリエさんは言ってくれたが、そんな日が本当に来るのか分からない。仕事帰りのデートと思われるコウジのお姉さんは、本物の女優やモデル程ではないが同じ雰囲気を感じた。
「まぁ、可愛い彼女さん。弟と仲良くしてくださいね。」
「俺達、食事が終わって、もう出るところだから。」とコウジが言うと
「コウジ、ちょっといらっしゃい。」とコウジはお姉さんに手を引かれて席から離れたが、すぐに戻って来た。コウジは恥ずかしがって言わないが、お姉さんがディナー代を奢ってくれたみたいだ。私とコウジはお腹大満足でお店を出た。20時前だった。
コウジが取ってくれているビジネスホテルへ移動する。私が高級ホテルじゃなくてビジネスホテルが良いと言ったからだ。またコウジのバイト代を吹き飛ばすわけにはいかないし、大学生らしくて良いじゃないか。世の女性の中には明らかにセックス目的のブティックホテルに連れ込まれる子もいる。しかもクリスマスは、行列に並んで1~2時間待ってまでブティックホテルで宿泊や休憩をするらしい。そのことを思えば私はビジネスホテルの方が健全だと思うし嬉しい。私達が一夜を共にするのはセックスのためだけではない。誰にも邪魔されない場所で一緒にいたいからだ。
チェックインしてツインの客室に入るとテーブルに明るいブラウン色の紙袋が置いてあった。
「まだだいぶ早いけど、クリスマスプレゼント。」
「え、私、何も用意してないよ。」
「いいんだよ。サプライズだから。」コウジが「どうぞ」と中を確認するように手で促してくれる。
「わー、バックだ。…ショルダーバッグ?」有名ブランドのバックだ。
「うん、エリカいつも重そうなリュックを背負っているだろ。せっかく可愛いんだから、服に合わせやすいバックを持てば良いのにと思って。…お節介だったかな?」
「ありがとう。嬉しいよ。さっそく掛けてみていい。」
「もちろん。」リュックを下ろしてコートをイスにかけて、ショルダーバックを肩に掛けてみる。
「どうかな?」
「可愛いよ。」
「ありがとう。デートの時はこのバックにするね。」
「え、普段は使わないの?」
「このリュックって、荷物がたくさん入るのもあるけど、チカン除けでもあるんだよ。後ろから抱き着かれないとか、お尻に手が届かないとか。だから一人で電車乗る時はリュック背負って、こうやって胸の所で腕組みしてるの。」
「じゃあ、肩掛けダメじゃん。」
「そんなこと無いよ。一緒の時はコウジが後ろに立って守ってくれるでしょ。だから、デートの時はこのショルダーバッグ一択で。」コウジの目を見て笑顔で答えると
「お、おう。」照れくさそうだ。
村野マミコの時には別ブランドのショルダーバックを使っている事は口が裂けても言えない。ハイブランドの服に身を包みバッチリメイクで男の目を引くものの、タクシーで高級ホテルに出入りしているからチカンをされようがないし、ホテルの客室では裸でいる時間の方が長いから荷物も少ない。大きなリュックを背負う必要が無いのだ。ちなみに、コウジには後日革靴をプレゼントした。
交代でシャワーを浴びて窓側のベッドに二人で上がる。コウジは腰にバスタオルを巻き、私は胸にバスタオルを巻いて向かい合って座っている。軽いキスの後、背中と後頭部に手を添えて優しく寝かせてくれた。
1度目はキスと裸での抱擁だけで私の股間は潤い、すぐに受け入れる事ができた。私も好きな男性と素肌で触れあい、温かい体温を感じられるのが嬉しい。コウジは目を閉じてペニスの感触に集中しているのだろう。あっと言う間にイってしまうが、1回目が一番気持ち良くて、溜まっていたものを吐き出す解放感が最高らしい。
2度目は1度目のコンドームを始末した後、ペニスが萎える間もなく続く。優しく髪や頬を撫でてくれて、フレンチキスから始まる。胸やお腹を愛おしく撫でながら、舌を這わせて私を気持ち良くしてくれる。私が「強く吸ったり噛みついたりしないで」とお願いしているので、自ずと舐めてくれることになるのだが、これが気持ちいい。コウジはひと通り私の上半身を舐めて気持ち良くしてくれた後、コンドームを着けて入ってきた。出し入れをしながらも胸や乳首を指や舌で刺激を続けてくれる。私はセックスでイったことはないが、コウジと一緒に “気持ち良い”を共有できるのは嬉しい。
2度目のコンドームを始末した後、添い寝やハグをしながら、コウジは私を「感じている姿が可愛い」、「滑らかで綺麗な肌だね」、「包み込まれるようで気持ち良い」等と賞賛してくれる。私もコウジに「ギュッと抱きしめて」、「またいっぱい舐めてね」、「大きくて奥まで感じる」等と恥ずかしい囁きをする。私が一番好きな時間だ。しばらく愛を語らった後、コウジはベッドとベッドの間のサイドテーブルに置いてあるコンドームに手を伸ばし3度目が始まる。私を四つん這いにさせて愛撫が背面にも移り、うなじから腰まで舌や唇を何度も這わせると同時に、手を回して重力で垂れた胸を揉んでくれる。私はお尻や恥丘に硬いペニスが数度当たるのを感じると、入れやすいように上にお尻を突き上げてあげる。コウジは私の腰をしっかりと掴んでペニスを入れてきて、私は四つん這いでしばらくの間コウジの突きを受け止めるのだが、持ちこたえられなくなり、ベッドに崩れるまでがいつものパターンだ。コウジは射精の後、コンドームを始末して、脱力して寝転んでいる私をまた抱きしめてくれる。
「大丈夫か?痛くなかったか?」
「うん。最後はちょっと痛かったけど、平気。」
「今日もすごく気持ち良かったよ。ありがとう。」コウジが私を見つめながら愛おしそうに言ってくれる。
「私もたくさん舐めてもらって気持ち良かった。……ふふふ。ははははは。」
「何がおかしいの?」
「コウジが前も後ろたくさん舐めてくれたのは嬉しいんだけど、乾いて臭くなってきた。」
「マジで?…うわっ、ホントだ。ごめん。シャワー浴びよう。エリカ先に入っておいでよ。」
「うん。そうする。」
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