第21話 人並みに青春できてるじゃない。

 夏期講習の撮影の数日後、近江さんとの約束がセッティングできた。「ホテルインターソイル東京ベイ」のイタリアンレストランで食事後、客室にあがる。コウジとのセックス後、初めての夜だ。今晩からはコンドームを着けてもらうようにお願いしなければならない。本当に近江さんの態度やお手当が変わらないか心配だ。

 交代でシャワーを浴びた後、ベッドに二人で横になり、近江さんが手を出してくるまで他愛ない話をする、いつもの流れだ。今晩は近江さんの娘さんの話。妹さんの方がお姉さんのお下がりの服を嫌がるようになったらしい。今までは親が用意した服を何の文句も言わずに着ていたのに、「これ嫌だ」とか「新しいのを買って」と言うのだ。親の立場から言えば、気に入った高めの服を姉の時に買っており、妹にも着せて可愛い写真を撮りたいし、妹も2~3年もすればその服を着れなくなるから、短い期間で着られなくなる服をいくつも買い揃えるのは勿体ない。そう言えば、私も10歳になる前くらいから姉のお下がりが嫌だった。姉とケンカばかりしていたからではなく、姉が子供のころから大人びたというか、背伸びした格好が好きで、私と服の好みが合わないのと、姉の服装が島では明らかに浮いていたからだ。ただ、服装に関しては意識が高かった姉のおかげで私も中学生からファッション誌を読むようになり、これがモデルを目指すきっかけになったことは認めざるを得ない。姉の部屋に忍び込み最新号のファッション誌を盗み見るのがドキドキして楽しかったし、親の計らいで公然と見せてもらえるようになってからは、友達と一緒におしゃべりしながら楽しくページをめくったものだ。

 「私も妹なんですけど、小学3年生くらいからかな?姉のお下がり嫌でしたよ。」

 「え、そうなの?」

 「はい。子供なりに自分の好みができて、もっと明るい色が着たいとか、こんな幼いデザインは着たくないとか、服装による自己表現に目覚めたってことじゃないですか。」

 「なるほど。女の子は成長が早いからすぐ生意気になるな。」

 「確かに同世代の男の子が考えている事に比べると、背伸びしているかもしれませんね。でも、これから制服のスカートの丈を短くしたり、綺麗な下着を着けるようになったり、まだまだお父さんがドキドキするようなことが続きますよ。」

 「まいったなー。父親の憂鬱はまだ続くか…。今日もマミコさんに話を聞いて女の子の気持ちが少し分かったよ。」

 「参考になれば何よりです。」

 「マミコさんにお礼をしなきゃ。」近江さんが私の上にマウントポジションになりバスローブの腰ひもを解く。

 「ははは。ありがとうございます。」

 近江さんがルームライトを消して、自分のバスローブを脱ぎ、私の頬へのキスから愛撫が始まった。優しい力加減の撫でと細かな指捌き。体のパーツによって舌先と舌全体を使い分けた舐め。近江さんの愛撫はこれまでのセックスで私の体の隅々まで知り尽くし、私をイカせるために計算されつくしたものだ。徐々に気持ち良くなり、興奮が高まっていく。近江さんが乳首を吸いながら指で私の敏感な部分を刺激してくれている時に腰をカクカク痙攣させながらイってしまった。

 「ふふふ、やりがいがあるよ。」

 「恥ずかしいです。」

 「入れようか。」

 「近江さん、少し待ってください。」自分の手の平で股間を塞ぎ、近江さんに言いにくい事を伝える。

 「コンドームを着けてください。…すいません。」

 「謝ることはないよ。分かった。……それにしても奥手な彼氏さんだったんだな。」コウジに交際をOKしてから約3か月。確かに他の大学生カップルよりもセックスに至るまで時間がかかった。コウジが気を遣ってくれただけではなく、お互いのバイトやレッスンでそもそも会える時間が少なかったというのもあるが、コウジはよく浮気もせずに我慢してくれた。近江さんはデスクに置いてあった鞄の所へ行き、小さな箱からコンドームを出して着けてくれた。これまでと同じように正常位で私に入ってくる。

 「コンドームを着けても気持ち良いですよね?」恥ずかしそうな表情を作りながら聞いてみる。

 「気持ち良いよ。」近江さんも腰を動かしながら気持ち良さそうな表情だったので安心した。

 コウジとの時は「痛い」が先に来て他の事を考える余裕が無かったが、コンドームを着けると、粘膜と粘膜が体液で滑りながら接触する得も言われぬ感触が薄れ、いつもとは違うモヤかかった、ぼんやりしたような感覚だ。元々セックスでイったことが無いが、少し気持ち良さも感じ始めていたのに、また半歩後退したような気がした。近江さんもいつもより感覚が薄れたのか、普段より長い行為になったが、イってくれたようだ。近江さんは手慣れた感じでコンドームを縛ってティッシュに包み、ゴミ箱へ捨てた。私の方は股間と内股をティッシュで拭えば終わりだ。精液が垂れてくることはない。

 「コンドームを着けてもらいましたが、大丈夫でした?」

 「そりゃあ生の方が気持ち良いけど、マミコさんも見ただろう。気持ちよくイけたよ。」

 「コンドームを着けてもらうようになって、万が一、近江さんから『独占』が切られたり、お手当が減ってしまったら大学もレッスンも続けられなくなります。」

 「ははは、心配しないで。俺はマミコさんに満足しているし、これからも交際を続けたいと思っている。」


 翌朝も近江さんに求められた。いつもは寝起きの後、トイレだけ行ってからセックスをするが、先にシャワーを浴びるように言われ、交代で浴びた後に致すことになった。近江さんは自然光で私の裸が見れる朝の方が好きらしい。夜よりも緻密に舌で上半身や内股まで舐めてくれて、私が気持ちいい胸、恥ずかしい脇や太もも等を念入りに時間をかけて舐めてくれる。近江さんは小柄で白い胸の先端にある硬くなったピンクの乳首を、舐めたり吸ったりするのが一番好きなようだ。朝にセックスをする時はいつもしてくれる。私も気持ち良い時は「気持ちいいです。」と素直に認め、気分が乗っている時は「もう少し続けてください。」とお願いすることもある。ミナさんに教えてもらった男を喜ばせるコツの1つだ。私の気持ち良さそうな顔、恥ずかしがる体を楽しんだ後、ソフトなキスから少し激しいディープキスもするが、今日は新しい展開があった。

 「壁にもたれて座ってごらん。」

 「はい。」言われたとおりベッドの上で壁にもたれると近江さんが私の両足を軽く左右に広げ股の間に顔を埋める。私の割れ目に沿ってゆっくり舌先でなぞり、敏感な出っ張りもやさしく舐めてくれた。初めてのクンニだ。近江さんは生で射精出来なくなるまで敢えてやらなかったのかもしれない。

 「近江さん。ダメです。恥ずかしいです。」私の声を無視して、近江さんは何度も割れ目や出っ張りを舐めてくれるだけではなく、舌を尖らせ穴に入れる事さえしてくれた。指でしてもらうよりも柔らかくて、弾力があって、温かくて気持ち良い。自分の性器を男の人が念入りに舐めてくれているという事実にも興奮する。愛撫からクンニへの一連の流れで快感が最高潮になり、壁にもたれながら後ろに手を着き、少し腰を浮かせて股を広げ、近江さんの顔に股間を押し出すようなポースでイってしまった。こんな恥ずかしい姿を母親に見られたら親が泣くかもしれない。

 私がイったのを確認してから、近江さんはゆっくりコンドームを取りに行き、装着すると、横向きで脱力して寝ている私を仰向けに戻し、正常位で入れてきた。まだクンニの余韻があり、気怠いながらも気持ち良い。「ん…、ん…、ん…」と声とも鼻息とも分からない音を出しながら、敏感になっている穴に入れられたペニスの刺激に耐えた。この間、近江さんは、やはり生の時よりも少し長い時間がかかったが射精に至った。


 私がもう一度シャワーを浴びている間に朝食のルームサービスをオーダーしてくれて、近江さんもシャワーを終えた頃にカートに乗った朝食が届いた。朝食を終えてお手当をいただいた後、歯を磨き、私が先に客室を出るのがいつもの流れだ。帰り支度が整った後、近江さんに名残惜しそうに抱き着く。

 「今朝の気持ち良かったです。」

 「またやってあげるよ。」

 「あんな恰好でイったの、内緒にしてくださいね。」

 「誰にも言わないよ。そもそもマミコさんの存在を知っているのはクラブのコーディネーターさんだけだからね。」

 「自分でもあんな恥ずかしい事をしてしまうなんて思いませんでした。」

 「恥ずかしい事って?」

 「自分の股間を近江さんの顔に押しつける事です。…言わせないでください。」

 「ふふふ。そうか。」近江さんは満足気に笑っている。

 「さあ、もう行きなさい。タクシーで帰るんだよ。」

 家に帰って例の白い封筒の中身を改めると、11万円。いつもと同じ額のお手当が入っていてひとまず安心した。


 「東通塾」の夏期講習用ポスターができたらしく事務所で見せてもらった。キービジュアルは、腕まくりをした私が、後ろ手に髪を束ねているところを側面やや下方から撮った画像が使われていた。真っ直ぐ前を向き眼光が鋭い。手に動きがあるので躍動感もある。「トウツゥで進め!」というキャッチとも合致していて、プロの制作会社さんが素晴らしい作品にしてくれたことに感謝する。

 「いいじゃない。これ!…何かカッコイイ。」ユリエさんも喜んでくれている。

 「すごい、嬉しいです。」

 「深夜まで彼氏と夜遊びしている子なのに、真面目な女子高生に見えるじゃない。ねぇ。」

 「ユリエさん、褒めてくれてるんですよね?」ユリエさんの冷やかしが始まった。

 「ははは、褒めてるわよ。…ほら、問題を解いているところも、塾長の仰るとおりエリカだとリアリティがあるわ。」英語の虫食い問題を解いている画像もちゃんと使ってくれている。

 「そうですね。ありがとうございます。」

 「ところでエリカ。彼氏ってどんな人なの?二人で撮った写真とかあるんでしょ、見せてよ。」

 「えー。また冷やかすだけじゃないですか。」

 「んん、マネージャーとしてタレントの事をしっかりと把握しておかないとね。」わざとらしい咳払いの後、屁理屈を言う。

 「こんな感じです。」スマホの写真アプリを開いて、二人横に並んで自撮りした画像をユリエさんに見せる。お花見に行った時の写真だ。

 「うわ、イケメン。さすがエリカね。いい男とつきあってる。…お花見?男嫌いのあんたも人並みに青春できてるじゃない。」

 「まだ3ヶ月くらいですけど。…まあ。」

 「あんな遅い時間にデートってことは、エッチもしてるんでしょ。」

 「もー。」

 「照れない、照れない。ホノカも、あなたが憧れているモデルのサーシャも、みんなやる事やってるんだから。…でも急な妊娠とか、体にアザや傷を作るのは勘弁してよ。」

 「ちゃんと着けてますし、私の事を大事にしてくれてます。」

 「そうか。……クラブの方はどう?」彼氏の話の時とは打って変わって、少し申し訳なさそうに聞いてくる。

 「あちらも、問題ありません。」私も視線を外して小声で答えた。そうだった。キービジュアルで女子高生を演じている私は、彼氏と深夜までデートをしているだけではなく、別の男とパパ活もしている悪い女の子なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る