第20話 ちゃんと“いい子”にしてるのよ。
行為が終わってコウジのが抜けると、私も数枚まとめてティッシュを取り、彼に背を向けて股間や胸をさっと拭き取る。コンドームは偉大だ。いつもなら穴から漏れ出てくる精液を拭き取るのに悪戦苦闘するが、それは全てゴムの中に溜まっていて、私の穴や股間はヌメヌメ滑る透明の液体がついているだけだった。
「私が先にシャワー使うね。」と言いながらデスクの上のバスローブを手に取って、浴室に入った。ユニットバス形式でシャワーカーテンを閉めた浴槽の中でシャワーを浴びる。率直な感想としてはスゴイの一言に尽きる。良い悪いではなく、コウジは大きくて、早い。私の穴にペニスが入ってくる同じ行為でも近江さんとコウジでこうも違うものかと驚いた。後日、コウジ本人も気にしていると分かったが比較的早漏で、近江さんよりも早く終わる。早く終わってくれるのは嬉しいが、いくら何でも早すぎるだろう。やりがいが無い。しかし、もう一つスゴイのは回復も速い事だ。2~3分で大きさも硬さも十分に回復して2回目に至った。今晩は私が2回で切り上げたが、コウジはやろうと思えばまだ数回出来たのかもしれない。ミナさんの最高記録7回を眉唾だと思っていたが、コウジのような体質の男とならそのくらいの回数を出来るのかもしれない。
ユニットバスだ。あまり長くシャワーを使っているとコウジが遠慮してトイレも使えない。交代してあげよう。
備え付けのパジャマに着替えてスマホをチェックしていると、近江さんの番号から数秒の不在着信と、ユリエさんからメールが入っていた。デスクでドライヤーをかけながらメールをチェックする。
「ユリエ:東通塾の撮影日が決まったよ。××日13時からだから、事務所からタクシーで一緒に行くわよ。この前みたいに薄いメイクで、下着の色も気を付けてね。」
「エリカ:調整いただきありがとうございました。12時までには事務所へ入ります。」
「ユリエ:清純キャラなんだから、撮影前は彼氏もクラブも控えて、ちゃんと“いい子”にしてるのよ。」
「エリカ:今まさにデート中です。すいません。気を付けます。」
「ユリエ:こんな時間まで彼と何をやっているのかしら?(笑)お邪魔しました。」
浴室から出てきたコウジがベッドの壁にもたれてスマホを操作している私に恐る恐る声をかけてくる。
「エリカ、怒ってる?」
「何が?」ユリエさんのメールに返信を打ちながらコウジへ答える。
「大丈夫ならいいんだけど。」
「ほとんど経験が無いって言ったのになぁ~。痛かったなぁ~。」文字入力しながら歌うように言ってみた。
「やっぱ怒ってるじゃん。ホントごめん。」コウジもベッドに上がってきて、手を合わせて拝むように謝ってくる。
「次からはもっと優しくする。…な、機嫌直してよ。」私がスマホを見ている視界に入る位置に顔を持ってきて、まだ謝ってくる。「デカかっただろう」とか、「俺で何人目だ」とか野暮なことを言わないのは女慣れしているからか。
「分かったわよ。…大事にするって約束だよ。」元々そんなに怒ってない。笑顔で答えてあげた。
二人同じベッドで添い寝した翌朝。朝食のビュッフェをレストランで食べて、客室で帰り支度をする。もっとも来た時と同じ服装だから下着の着替えや化粧品を鞄に戻したら終わりだ。
「朝食、美味しかったね。」
「ああ、俺、昨日はバイト終わりにバーガー食べただけだったからお腹空いてたんだ。」
「そう言えば私も昨晩バーガーだったんだよ。」
「ははは、偶然だな。」
「楽しかった。ありがとう。」鞄に詰め終わり、コウジの背中にゆるく抱き着いてお礼を言っておく。多分バイト代の数日分が一晩で飛んでしまっただろう。
「エリカが喜んでくれたなら良かったよ。」笑いながら答えてくれた。
「うん。…コウジの部屋でもできるかな?」
「当り前だろ。」
「本当かなぁ?ベッドやお風呂場をちゃんと掃除している?洗濯を済ませたタオルをたくさん用意している?私、タオルにはうるさいわよ。ふふふ。」中学高校とこれまで男を睨みつけてきた私が、彼氏とじゃれている。不思議なものだ。
「分かったよ。部屋もタオルも綺麗にしておく。」コウジに手を解かれ、向かい合う形になった。
「やっぱ綺麗だな。」ワンピース姿の私を見てコウジがつぶやく。
「ボソッと言わないでちゃんと言ってよ。」
「綺麗だ。エリカ。」少女漫画のイケメンのように、私をもう一度抱きしめて耳元で囁いてくれる。
「カッコつけるなバカ。…昨日私を裸にして抱いたんだぞ。」今度は私の声も小さくなった。
「えっ、エリカの方から脱いでくれたじゃん…」
「そうだったけ?へへへ。」照れ笑いの後、目を閉じて軽く上を向くと、コウジが私の唇を軽く吸った。
東通塾の夏期講習用の撮影当日。ブレザーは夏仕様で白シャツだけに、グレー基調のチェック柄スカートで同じだ。赤いスクールリボン、紺のソックス、黒のローファーまで同じで、要するに上着を着ないだけだ。私が女性版のメインビジュアルを務めることは決まっているし、同じ現場だから普段よりも緊張せずに済む。春の入塾用と同様、教室風景から撮影でモデル10名が教室の前の方へ固まって座り、日本史の授業を聞いている様子を撮影した。ここでは私も大勢の中の一人だ。他に出番があることがハッキリしているので、他のモデルに被って隠れてしまっていても焦りや心配は無い。
キービジュアルになる教壇に立っての撮影。短いカンペを読みながら前回と同じ人差し指を立てて1を作るのと、「何かやる気が出るような、パワーアップするようなポーズを自由に取ってください」とお題を出された。月並みだが力こぶでも作るかと思ったが、私のか細い腕では迫力が無いし、そもそもこぶができない。ユリエさんに「ここ一番の撮影やデートに出る前、エリカは鏡の前でどんな仕草をする?」とヒントを貰い、腕まくりをしてメイクをしたり、髪を後ろでお団子に纏めて衣装合わせや小物選びをすることを思い出す。撮影では予め右手の腕まくりをしておき、アクションスタートと同時にカンペを読みながら、真剣な表情で前を向いたまま左手の腕まくりを始め、腕まくりの後、両手で髪を束ね纏める動作をした。15秒では髪がお団子にならなくて少し超過したが、正面のカメラからは分からないはずだ。今回はキービジュアルが私と既に決まっているので、正面からだけではなく斜め前や横からと3方向から撮ってくれた。モデル冥利に尽きる。
次は黒板前でのシーンだ。教室に入ると前回の撮影終了後に声をかけてくれた英語講師の方がお見えだった。
「あ、エイガクのモデルさん。来てくれたんですね。ありがとう。」
「こちらこそ、また選んでいただいて、ありがとうございます。」私もユリエさんも並んでお礼をする。
「今回も問題を解いちゃってもいいから。」と笑顔で仰った。
「はい。やってみます。」
黒板前に立つ。例によって英語の虫食い問題だ。You can [ ] advantage of your summer vacation to improve your grades.今回も語彙力の問題だった。カメラマンの合図の後、一瞬だけ考えるそぶりをしてtake とチョークで答えを書き込んだ。前回同様、私が回答を記入しているところを真横から、下から仰ぎ気味と3人のカメラマンが角度を変えて撮ってくれた。
「おみごと。」撮影後、見学していた英語講師が声をかけてくれた。
「ありがとうございます。」
「エイガクは推薦とかじゃなくて、ちゃんと入試で入ったんだね。」
「はい。」
「モデルさんさえ良ければ、また年末の冬期講習も頼むよ。」
「喜んで。よろしくお願いします。」やった。次の仕事に繋がった。
今回の撮影で知った事だが、この英語講師こそが東通塾の塾長で、ポーズを取るだけじゃなくて、ちゃんと問題を解く学力がある私を「本当の塾生のようでリアリティがある」と気に入ってくれているらしい。だから他事務所からの横やりも塾長はつき返してくれたのだ。大学ではお世辞にも優等生とは言えないが、高校時代に東京に出たい一心で勉強した甲斐があったというものである。
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