第12話 お友達を作りに来たわけじゃないでしょ?

 こうした試験対策のおかげもあって、後期試験の手ごたえはあった。前期のように途方に暮れることなく、八瀬君の回答例を元に、スラスラとペンが進む。専門科目の試験では、近江さんに教えてもらったアドバイスも加えてアレンジした回答を論述した。

 事実、前期は取っている講義の半数以下しか単位が取れなかったのに、後期はすべての講義で単位を取れた上、専門科目の中にはA評価が取れた講義もあった。それも1つ2つではない、経済・経営関連の講義の1/3以上がA評価だ。近江さんのマンツーマン特別補講のおかげである。近江さんの存在をみんなに知られるわけにはいかないので「たまたまだよ」と謙遜したが、悪い気はしない。ノートを借りるために気持ち悪い男に声をかけた甲斐があった。私だけではなく、八瀬君はもちろん、若狭君もクマちゃんもほとんどの講義で単位が取れたようだ。女性からだけではなく男性からも情報が取れるようになってカバーできる講義数が増えたし、途中で抜けている講義のノートを補えるようになったのが、特に数も範囲も大きい一般教養科目対策で大きく役立ち、みんなの単位獲得に繋がった。


 月末、ユリエさんのお手伝い。「フレームズ」所属の女性タレントで関係者向けのバレンタインチョコ作りをするらしく、そのお手伝いだ。溶かして型に入れて固めるだけの簡単な手作りチョコを作り、小袋に袋づめしてラッピング。それを制作会社、出版社、メーカー等のお世話になった方々を訪問して配るのだ。簡単に言えばバレンタインにかこつけた営業である。トップモデルや売れっ子女優は私達が作ったチョコを撮影現場で配るだけだが、私達“駆け出し”は、チョコ作りから行い、自分達を使ってくれた方々にお礼訪問、自分を売り出したい関係者には持参して顔を売るのだ。私は「コンバート」へのお礼の他にファッション誌を抱える出版社に行きたい。ユリエさんにそう希望を伝えたところ、「MOST」を発行している秀才社への訪問メンバーに私を加えてくれた。人気の訪問先だから希望者全員を行かせる事はできない。多くても1訪問先あたり4~5人で行くのだが、私は他の出版社やメーカーの希望先を全部諦めるのと引き換えに秀才社への訪問が叶った。

 「フレームズ」に秀才社が発行しているファッション誌の専属モデルはいない。というよりも、今は“バラシ”扱いが精々である。我が事務所はあまり秀才社では実績が無いのだ。だからこそ私の様な駆け出しがメンバーに入れたのかもしれない。先輩モデルとそのマネージャーさんに連れられ、5人で秀才社を訪問。他の事務所でも同じような事をやっているのだろう、秀才社の男性担当者さんは「はいはい、ご苦労様」的な対応だったが、先輩たちは爪痕を残そうと、前へ前へ出て印象付けようとする。ただでさえ私よりも背が高く、スタイルも良い先輩方の迫力に圧倒されている間に、私はチョコを持ったまま後ろに取り残されてしまった。先輩方がひとしきり担当者にあしらわれた後、「そこのキミはいいの?」と声をかけてもらい、慌てて前へ出て「よろしくお願いします!」と渾身の笑顔と元気のいい一声を添えてチョコを担当者さんへお渡した。


 後日ユリエさんに訪問の結果を報告する。

 「どうだった?」

 「オフィスの廊下で応対してくれたのですが、先輩方の迫力が尋常じゃなかったです。」

 「せっかくアサインしたのに、エリカはどうしたのよ?」

 「スイマセン。最後の最後に担当者さんから声をかけてもらって、やっと渡すことができました。」

 「ははははは、だと思った。でも、それで良いのよ。あなた達モデル4人はそれぞれ違うキャラクターと言うか、違う強みがあるから。あなたは先輩達の真似をする必要はない。エリカはエリカのキャラで選ばれるようになればいいのよ。」

 「でも先輩達、同じ車の中で結構意地悪を言うんですよ。「新入りのくせに出てくるな」とか、「いきなり出版社希望は生意気」とか、「背が低いからモデルは無理」とか。」

 「へえ~。まあ、気にすることは無いよ。芸能界は競争社会だし、それは同じ事務所のモデルとだって同じだからね。偉そうな事を言っているけど、エリカと一緒に秀才社へ行ったアイツ、名前なんて言ったかな~?パッとしないから思い出せないけど。オーディション落ちまくるわ、仕事は選ぶわでまだデビューできてないはずよ。」

 「そんな人も一緒にいたんですか?」

 「そうだよ。最初に何年レッスン頑張っても報われない子がいるって言ったじゃん。その点エリカはまだ1つだけど、プロフィールに書ける実績があるからね。それに、エリカはモデルになるためにうちの事務所に来たのであって、お友達を作りに来たわけじゃないでしょ?気にしない、気にしない。」

 「そうですね。先輩だからって気を遣って損しました。」


 「インターソイルホテル東京」。高層階の客室には窓際いっぱいに広がる長いソファーがあり、夜・朝と綺麗な景色を楽しむことができた。パパ活でホテル利用する時にはあまり使わないが、バスタブが無いのが珍しかった。シャワーブースがあるだけなのだ。

 ペットがエサにつられて芸を仕込まれるように、私も近江さんに色々と恥ずかしい事を仕込まれていく。夜はまた近江さんの指でイカされた後、セックスをして近江さんにも満足してもらった。

 その次の日の朝である。寝起きにホテル自慢の景色を見ながら冷蔵庫のペットボトルの水を飲んでいると、立ったまま近江さんにキスをされた。いつもキスと言えば軽く柔らかい唇と唇を合わせるだけだったが、近江さんがいたずらっぽく笑った後、「マミコさん、舌を出してごらん」と近江さんもべーっと舌を伸ばして見せた。私も同じように舌を伸ばし「こうですか?」と目で聞いてみると、近江さんの舌が私の舌の先端を舐め、猫が水を飲むようにペロペロと繰り返し舐めてくれた。そして軽く肩を抱き寄せられ、私の伸ばしたままの舌をパクッと口で含み、舌をやや乱暴に絡めたり、口をすぼめて吸ってくる。私が怯んで目を瞑り、後ずさるのも構わず、近江さんは一歩二歩前に進み、私を抱きしめたまま舌の遊びを続けた。

 「嫌だったかい?」

 「いえ。…でもビックリしました。」

 「じゃあ、もう少し楽しもう。」再度私を抱き寄せ、唇と唇を重ねた後、今度は近江さんの舌が私の口の中に入って来た。

 「うっ」無抵抗の私の口の中で近江さんの舌が暴れまわり、出て行ったと思ったら私の薄い下唇に沿って舌が這い、最後は下唇ごと口に含んで吸ってくれた。

 「さあマミコさんもやってごらん。」

 「え、できるかなぁ。」正直何が楽しいのか分からない。

 「大丈夫、好きなように舌を動かしたり、吸ったりすればいいんだ。」

 「はい。」言われた通り、ソフトキスをした後、舌を伸ばして近江さんの口の中へ入れてみる。固い上下の歯の間を奥へ入ると生温かい体温を感じた。舌を上下に動かしてみるとすぐに近江さんの舌と当たり、適当に舌を上下左右に動かした。

 「しようか。」近江さんは私とのディープキスを楽しんだ後、体を離して私の腰を抱き、ベッドに誘った。ベッドに上がるとそれぞれでバスローブを脱ぎ、近江さんはゆっくり覆いかぶさるように上に乗ってきた。ディープキスはしなかったが、近江さんの舌の動きがいつもに増して活発だった。私の首筋、鎖骨、腰骨はもちろん胸を舐め、俯せにしてからは背骨や肩甲骨と、私の出っ張りという出っ張りを舐めたり、吸ったりしてくれた。「うわー」と途中で思わず声が出ると、近江さんは「滑らかで柔らかい肌だね」と得意げに笑った。温かく湿った舌が私の表面を踊る様に動き、所々口でジュルジュルと吸われるのだ。乳首を舐めたり吸われたりするだけではなく体中である。しかも私が乳首への刺激に弱い事を承知だからであろう、首や腰等を舐めながら胸に手を伸ばして、乳首をソフトに摘まんだり指で弾いてくれる。ディープキスは良く分からなかったが、これは気持ちが良かった。近江さんはきっとまだ本気を出していない。しかし、その指や舌のおかげで私の体は少しずつ気持ち良い事を覚えていった。私の体が近江さんの唾液で濡れるのに合わせて、穴も濡れていたのだろう。ニュルっとペニスが入ってきて腰が動き始めた。最後は正常位のまま体を密着させ、「吸い付くような肌や体だね」と近江さんは息を切らしながら止まった。

 朝起きたらセックスをし、それぞれ順番にシャワーを浴びて、ルームサービスの朝食を摂り、身支度を済ませたら私は先にホテルから帰り、近江さんは時間をずらしてチェックアウトするのがいつもの流れだ。この日からは、私が部屋を出る前に別れを惜しむようなキスをするのも習慣になった。

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