第11話 “中の上”なんて言わせないように大きな成果を持って帰りなさい。

 年が明けて親と初詣を済ますと、東京へ戻った。部屋で荷物の片づけや洗濯などが落ち着いた後、まずは近江さんにワンコール入れて、私が東京へ戻って来たことを知らせた。まだ年明けの雰囲気が残り、もうあと数日で成人式の日でまた休みという時期、近江さんと3週間ぶりに会うことになった。

 「ホテル春山荘東京」。ロビーで再会した私達は「錦市場」という日本料理店でディナーをいただいて客室へ上がり、今は近江さんの腕の中だ。室内は高めの天井と落ち着いた内装でゆったりとした空間だが、シャワーを浴びたあと照明を落としているので室内の細かい装飾まで分からない。近江さんはベッドに入ってすぐに行為を始めるのではなく、食事中の話の流れで私の姉妹ケンカの愚痴を聞きながらゆっくりと髪や背を撫でてくれている。

 私はセックスに慣れてきたのと同じように、男の人との過ごし方にも慣れてきた。当初は私の青臭い夢を聞いてくれるだけでも嬉しかったが、レッスンの事やエステバイトの事、大学の事なんかも色々と話すようになり、近江さんは食事中はもちろん、行為前後の客室内でも「うんうん」と興味を持って聞いてくれた。例えば、大学の講義の話をした時には、講義ノートを見ながら課題レポートを書くのを手伝ってくれたり、エステの話をした時には、近江さんの背中やふくらはぎを練習台に使わせてくれた。

 近江さんも仕事の事や投資の事、ご家庭の事も教えてくれた。仕事のお話は難しくて良く分からなかったが、娘さんのお話とかは自分の経験に照らし合わせて面白おかしくお話しした。この間も娘さんとのクリスマスや年末年始の帰省、3世代揃っての初詣とイベント盛りだくさんだったようだ。小学校高学年の長女は生意気が始まり、「扱いが難しくなってきた」とこぼしていた。


 「少し胸が膨らみ一緒にお風呂に入るのを恥ずかしがるようになったり、生理も始まった。女を意識するようになったからか俺から距離を取ろうとするんだ。」

 「ああ、私もそんな時期があったかも。父親と一緒にいるのが何か恥ずかしいって言うか、照れるっていうか。」

 「一緒にご飯食べたりテレビ見てても、なんか余所余所しいんだよな。」

 「そのうち、「パパのと一緒に洗濯しないで」とか「私の部屋に入らないで」って言うようになりますよ。」

 「え~、まいったなあ。娘が成長するのは嬉しいけど、寂しいような感じもするな。マミコさんに子育てアドバイザーになってもらわなきゃ。」

 「ふふふ、私で良ければ喜んで。」

 私はまだ近江さんしか知らないが、近江さんの様な人なら男とお話するのも楽しいと思える。


 話が一区切りついたところで順番にトイレに行き、ベッドに戻ったらセックスが始まった。楽しく会話をしながらお食事をして、客室では男から求められたら恥ずかしがりながら体を許すのだ。近江さんは私のバスローブの腰ひもを解き、はだけさせて、胸や股間を撫でてくれる。暗いし既に何度もやってもらっていて、今更見られたり触られたりしても恥ずかしくは無いが、手で隠し、近江さんに背を向けるように身体を捩る。近江さんが「ふふふ」とほほ笑みながら、私の手で隠しきれない他の場所を触ったり、舐めたりしてくれる。私はデビューをしてからキスではなく、舐めるようにお願いをしている。まだ1枚しか私と分かる画像が無いのに生意気だが、キスで赤い跡が残ると困るからだ。

 近江さんは私の体で遊んだ後、私を仰向けにして入ってくる。私はいつもどおり目を閉じて、私のお尻の肌と近江さんの太腿の肌が小さくパンパンとリズムカルにぶつかり合う音を聞きながら終わるまでジッと耐える。今晩は「ああ吸い込まれそうだ」と言いながら近江さんは満足げに果てた。会う期間が少し長く空いたからもしれないが、量が多かった気がする。ティッシュで拭いても、シャワーで流しても一晩中チビチビ垂れてきた。

 翌朝、寝起きにもセックスした後、拭き取る時には、穴からこぼれて垂れているだけではなく、その周りや太ももに泡だった白い液体が付いていた。


 エステバイトも動き出した。「フレームズ」の事務所で会うよりも先にエステ店でユリエさんやホノカに再会した。新幹線に乗る前に広島駅で買った「もみじ饅頭」がお土産だ。本当は「生もみじ饅頭」の方が私は好きだが、残念ながら日持ちがしないので、今回は普通のにした。

 「ご両親はデビューを喜んでくれた?」

 「実は、その…。」事の顛末を伝える。

 「それは残念だったわね。事務所に入って1年かからず仕事が決まっただけでも運が良いいのに、ソロの写真が使われるなんて大金星なんだけどなあ。まあいいわ。お盆か来年の正月には“中の上”なんて言わせないように大きな成果を持って帰りなさい。」

 「はい。」

 「そうだホノカとエリカ。月末の土日、体を空けといてくれる?手伝ってほしいことがあるの。」

 「分かりました。」土日なら大学は休みだし、近江さんの予定も入らないだろう。


 大学も始まる。キャンパスライフはクマちゃん達のグループに加わってから、結構楽しくなった。私もだが、他のみんなもバイトのシフトの都合や、「朝は眠い」といった大学生だからこそ許される理由で、講義に出ていないことが多い。それでも、シラバスで一緒に選んだ講義の教室や学食で偶然に会い、バイトの不満や親からの仕送りの不満等の近況を話したり、面白い本や映画、小テストやレポートの情報交換等をした。講義や学食で待ち合わせをするわけではなく、偶然にタイミングが合えば会う。この“ゆるい”適度な距離感が心地よかった。私はレッスンが最優先で、エステのバイトも忙しい。色々と予定を入れられて時間を拘束されたり、変な詮索をされないのが良い。

 しかし、定期試験前は話が別である。私達は計画的かつ組織的に試験対策に当たる。まずイケメン優男の若狭君が真面目に授業に出ていた子からレジュメやノートを借りてコピーをさせてもらう。たまに出席した講義の時に教室の前の方に座っていた子や、何度も見かけた子を覚えておいて、講義最終回やあと2回って時にお願いするのだ。若狭君が借りてきたノート等をクマちゃんが手早く私達全員分をコピーして配布。クマちゃんがコピーしたノート等を、某国立大学に行くはずが滑り止めの我が大学に来てしまった秀才の八瀬君が収集・分析して模範解答というか回答例を作ってくれる。試験本番では、それをみんな少しずつアレンジして書いて、みんなで単位を取る作戦だ。論文テストは既に出題される問題が公表されている場合もあるし、ヤマカンで回答例を作ってくれることもある。ヤマを張るのも八瀬君の役目だ。そして、トーク力があり押しが強いクマちゃんは、この回答例を転売してノートやレジュメのコピー代を稼いでいるらしい。

 「えっと、じゃあ私は何をしたらいい?」

 「そりゃあ、若狭君と一緒に情報収集班よ。」とクマちゃん。これまでノートを借りるのに成功したのは女性からが多かった。理由は簡単で、若狭君が「ノートを貸して」とお願いするからである。ほとんどの女性は顔を赤らめて素直にノートを貸してくれるが、時には若狭君が真面目女子のバイト先のカフェにランチに行くことを交換条件にノートを借りたこともあったらしい。しかし、これが男性相手では効果が無い。そこで私の出番というわけだ。対真面目男子は若狭君ではなく、私がノートを借りるのである。

 「うん、わかった。」

 「やけに“あっさり”だな。けっこう気を遣うし、断られたら凹むぞ~。」と若狭君は心配してくれた。

 「まあやってみるよ。」自信が無いわけではない。高校を卒業するまで島中の男性は私のお願いを何でも聞いてくれたし、頼んでもない親切までしてくれた。東京に来て男からねっとり舐めるような視線を感じることが少なくなったものの、それは私の容姿が崩れたからではなく、周りの女性もそれなりに小綺麗だからだ。私はむしろレッスンやエステで学んだ知識や技術を実践して磨きがかかっている。こんなことをするためにレッスンを頑張っているのではないのだが、単位を取らないと親や姉が「島へ帰って来い」と騒ぎ立てるのだから仕方ない。

 「よし。もし手こずりそうだったら私もフォローするし、前から2列目のメガネ君のノートお願いしていいかな。」クマちゃんはお手並み拝見と言わんばかりに乗り気である。


 「こんにちは。あの~、今の『金利と経済』の講義、受けていましたよね。」

 「はあ…。」メガネ君は私の顔を見た後、チラっと胸に視線を落としてすぐに顔に視線を戻した。何故か男は女の顔と胸をまず見てくる。その失礼な視線に私達が気付いていないと思っているのだろうか?まあ、今は置いておこう。

 「私も受けているんですけど、バイトとかで何回分か講義が抜けている所があって、15分くらいノートを貸してもらえると嬉しいんだけど、…ダメかな?」ちょっと可愛い目に首をかしげてみる。サービスだ。

 「は、はい。15分くらいでよければ、どうぞ。」

 「ありがとう。コピーできたら戻ってくるから、少し待っててね。」チョロいものである。後ろの席から廊下に移って待っていたクマちゃんと一緒に資料室のコピー機へ走った。大学の運営側も定期試験前にコピー機の需要が大幅に増える事を知っているからか、臨時でコピー機を増設してくれている。並ばずにコピー機を使えて、クマちゃんは手際よく10分もかからずに全ページコピーをし終えた。クマちゃんがこれを私たちの人数分刷り増ししている間に、私はノートの返却である。教室に戻るとメガネ君はスマホで何やらゲームをしながら待っていてくれた。

 「ノートありがと。助かったよ。」これまたサービスで微笑みかけてあげた。

 「い、いえ。大丈夫です。」キョドるなよ気持ち悪いと思いながら、足早にメガネ君から去った。この様子を離れた後ろ方の席で見ていた八瀬君と若狭君だが、八瀬君は「あ~、朽木さん。今晩メガネ君のオカズだわ~。」と笑っていたし、若狭君は「サービスしすぎだろ、勘違いさせて襲われたりしたらどうするんだ。」と何故か説教くさく怒っていた。確かに失敗したくなくて過剰サービスだったかもしれないが、ミッション完了である。ちなみに、この後メガネ君は、私達が単位を取り終えるまで試験の度にノートを借りる“上”お得意様になった。

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