第10話 ご実家にデビューの凱旋をしてきたら?
年末が近づく。エステのバイトとパパ活をしているとは言え、生活は決して楽ではない。当初はエステバイトが生活費の軸であったが、今ではパパ活で得られる月20万円~30万円が生活やレッスンのための収入源になり、バイト代を積み立てて学費に充てるように収支を見直している。今や近江さんは私には無くてはならない存在だ。この近江さんに私は『独占』してもらって、安定して月に2度~3度会っているが、「お金に困った時は言ってくれ」とも言われている。今まさに年末年始の帰省を控えて、お金に困っているのだ。足りない事はないがギリギリで余裕が無いのはもっと怖い。近江さんのスマホにワンコールだけ電話をかけて着信を残す。着信に気が付いたら手が空いた時にコールバックしてくれる手筈だ。もちろん、近江さんのスマホには私の連絡先は登録されていない。だから近江さんが万が一着信履歴を誰かに見られても、私の名前が出てくることは無いし、ワンコールだから間違い電話だと言い逃れることがきる。単純に私の電話番号を覚えてくれていて、履歴を見れば私からだと分かってくれるのだ。
シェアポンド都ホテル。クリスマス前で街が賑やかに飾られている中、プレミアムフロアの灯りを消した客室で近江さんに抱かれている。私が慣れてきたのを知ってからは、遠慮は無用とばかりに愛撫が執拗になった。今晩は横たわる私を後ろから抱き、敏感な個所を集中して触ってくれる。人差し指の腹でやさしく掻くように縦に動かしていたかと思うと、しばらくすると円を描くようにゆっくり動かして刺激してくる。気持ちいい感覚に逆らえず思わず吐息や小さな声が漏れる。無言で静かな部屋の中でクチュクチュ音がするのも恥ずかしい。近江さんは私の反応を見て満足気だ。固くなったペニスが私の太ももに当たっているから分かる。たぶんあの透明の液も垂れているのだろう、生温かい先端が太ももと擦れる時にヌルヌルする。
「体を起こそうか。」
「はい。」気怠い声で答え、言われるがまま体を起こし、体育座りのような格好になると、近江さんが私の後ろに回り、覆いかぶさるように抱きしめてくれた。
「リラックスして、足を伸ばして。」後ろから囁かれて、気持ちいい感覚の余韻にひたりながらコクリと頷くと、近江さんの手が私の膝を軽く左右に広げ、右手でまた股間を触ってくれた。「はぁぁー」っと一つ大きな息を吐いて、思わずのけ反り、腰をピクンとほんの僅か後ろに引いてしまったが近江さんはお構いなしに指での愛撫を続けてくれる。気持ち良い感覚が再度こみ上げてくる。まだ止まらない。さらに、私のお臍辺りをやさしく抱いていた左手がスッと上にあがり、手の平で私の左胸を下から包み、こちらも人差し指で乳首を早いテンポで刺激されるようになる。
「ダメです。…はん、…イヤ、止めて。」私のか細い声を無視して、無言で近江さんの指は動き続けていると私は限界を迎えた。グッと身体に力が入り強張ったかと思うと、我慢して押さえつけていたものが決壊し、溢れ出るような感覚がしたあと、脱力して股間が短時間小さく痙攣した。自分の体ではないかのように制御ができない。脈も速くなり、急に汗も出てきた。私が脱力したのに気付いた近江さんは指の刺激を止め、私の体に手を添えてゆっくり横たえてくれた。
「すいませんでした。」呼吸が落ち着いてから体を起こし、ベッドの上に正座して近江さんに謝る。まだセックスの途中なのに、私が止めてしまったと思っていた。
「謝らなくていいよ。時間がかかったけど、久しぶりだったの?」近江さんはベットヘッドにもたれてティッシュで手やシーツを拭いている。暗くて顔の表情までは分からない。
「えっと…。」
「恥ずかしがることはないさ。女の子だって多かれ少なかれ、みんなしているんだろ。」と笑いながら軽い感じで言われたがピンと来ない。私が正座のまま髪を撫でながら答えに困っていると、
「もしかして“自分でする”のもやったこと無かったの?」と驚かれたがそのとおりだ。島ではあまり性の話をしたことが無かったし、自分でのやり方も知らなかった。むしろ男が一人でする事を聞き、気持ち悪くて嫌悪し、軽蔑したくらいだ。女が自分で自分を気持ち良くするという発想が薄かった。
こうして私は今晩初めてイクという感覚を味わった。近江さんにイカされたという方が正しいのかもしれないが、不思議と犯されたとか、汚されたという気持ちは無かった。恥ずかしかったが、教えてもらったという意識の方が強い。ゼタバースクラブでパパ活をするまで文字通りお子様だった私が、普通の人とはだいぶ違う方法ではあるが、少しずつ『女』になっていく。
「そっか。マミコさんは本当に“真っ白”だったんだね。」近江さんはそう言うと体を起こし、ゆっくり私を仰向けに押し倒した。また愛撫してくれるが、今度は一点集中攻撃ではない、満遍なく体を撫でたりキスをしてくれた。
「ヒリヒリしたり、沁みたりしない?」と確認してくれて、「はい」と頷くと硬いペニスを入れられた。近江さんはフフッと微笑んだ後、気持ちよさそうに目を閉じて腰を動かし始めた。今回は5分もかからなかっただろう。正常位のまま体勢を変える間もなく、近江さんのペニスが私の体内で脈打つ感覚があった。
クリスマスを過ぎるとレッスンもエステのバイトもお休みだ。ユリエさんからは「ご実家にデビューの凱旋をしてきたら?」と言われ、親からも「年末年始くらい顔を見せに帰ってこい」と言われているし、帰省のためにパパ活で資金も作った。年に一度くらいは実家に帰らないと親不孝だろう。新幹線と在来線等を乗り継いで島へ帰る。
父親の学習塾ではまだ冬期講習をやっていたが、家に帰れば喜んで迎え入れてくれた。電話もメールもあまりしていなかったから久しぶりである。母親に「ちゃんと栄養がある物を食べているか?」、「大学の授業についていけているか?」、「変な男と付き合っていないか?」等を矢継ぎ早に聞かれたが「心配ない、大丈夫」と聞かれる度に答えた。大学での成績を聞かれた時は多少後ろめたい気持ちがあったが、「後期は挽回できる」と言い切った。
「で、モデルにはなれそうなの?」姉の言葉である。大学在学中の4年間だけチャレンジさせてほしいと親にお願いして東京に行かせてもらった。夏に父が倒れた時には学費も自分で何とかすると大口を叩いて東京に居座ったのだ。その成果が気になるのだろう。
「これを見てよ。まだこれだけだけど、デビューできたんだよ。」例の「コンバート」のカタログを見せる。私の全身写真はもちろんだが、私がスニーカーを履いて撮った膝下、腰下の写真も使われている事を説明した。
「すごいじゃないか。」と褒めてくれたのは父親だけだった。私だと分かる写真は1枚だけ。「このスニーカーを履いているのは私」と言ったところで主役は靴だ。
「ふーん。」と母親と姉は冷ややかな反応である。
「東京には綺麗な人やかっこいい人も多いんじゃない?」
「うん。まぁ。」姉は何が言いたいのだ?
「やっぱり。お父さんが可愛い、可愛いって甘やかすから、エリカが勘違いしただけなんじゃないの?」
「どういう意味よ。」
「自分の妹だから分かるの。私だって学生時代は鬱陶しいくらい男に呼び出されたし、面倒だから彼氏にした人もいたけど、就職で島から出て、広島や福岡に行っただけでも自分がせいぜい『中の上』だって分かったわよ。あんたが東京でモデルになれるんだったら、私だって東京でいい男を見つけて玉の輿に乗るわ。ほら、私達って結構似てるって言われてきたでしょ。」バカにしたように笑っている。
「私はお姉ちゃんみたいに性格悪くないし、似てないから。」と怒って見せたものの、姉が言う事にも一理ある。竹下通でスカウトなんて、こちらから探してもしてもらえなかった。
「エリちゃんも、お姉ちゃんもいい加減にしなさい。」見かねた母親が止めに入った。
「ところで、大学の学費は、来年も今年と同じくらいかかるのか?」父親が心配している。
「うん。そうだよ。」
「じゃあ、お父さん頑張らないとな。」弱々しく笑っている。
「この子の我儘なんだから、ほっといたらいいのよ。」姉がまた突っかかってくる。
「そうはいかないだろ。可哀想じゃないか。」父だけはフォローしてくれる。
「夏だって「自分で何とかする」って偉そうな事を言ってたじゃない。」
「バイトを掛け持ちして、何とかするわよ。」
「何とかって何なのよ。時給1,000円のバイトをいくつしたって、1日24時間なんだから。」
「電気やガスを節約したり、ご飯を安くで済ませたりしてるもん。」
「そんな惨めなことするくらいなら、諦めて働けば?」
「お姉ちゃんには迷惑かけないから、ほっといてよ。」
「ふん、モデルとか言っておいて、“AV堕ち”とかみっともない事にならないでよね。あんただけじゃなくて家族まで後ろ指さされるんだから。」
「バカにしないで。」さすがに頭にきた。平手打ちの1つでもしないと気が済まない。
「まあまあ、落ち着きなさい。エリカ、全部は無理かもしれないけど、いくらかは仕送りするから。東京で勉強もモデルも頑張りなさい。」今度は父親が仲裁に入る。
こうして姉妹ケンカをし、実家にいる間、姉とはほぼ会話をすることなく年末年始を終えて、東京へ戻ることになった。とんだ凱旋だ。
私よりも4つ年上の姉は、島に残っている高校時代からの友達と食事に出かけたり、年明けには職場で付き合うことになった男と初詣デートに出かけたりもしていた。学生時代の姉は言い寄ってくる男の内、何人かとは付き合い、学校の行き帰りにお菓子や飲み物を奢らせたり、デートでつまらない雑貨やアクセサリーを買ってもらったりしていた。私の目には、姉は恋愛感情よりも便利な召使いを選ぶような感覚で男と付き合っていたように見える。彼氏と手を繋いで歩いているのを見たことはあるが、デート前に恰好だけは綺麗に着飾るものの、遅刻や当日キャンセルさえ気にする風ではなかった。夜の長電話の相手はいつも女友達だったし、本気で彼氏を好きになっているようには見えなかった。
就職してからは朝早く家を出て、帰ってくるのも遅くなった。単純に本土の職場まで軽自動車に乗って1時間以上かかるからだ。1年目こそ浮いた話は無かったが、2年目の夏くらいから同じ職場の人といい雰囲気になり、休日にデートへ出かけるようになった。しかし、社会人になってからも彼氏はただの召使いのであって、暇つぶしや金づるとして男と付き合うことはあっても、本気ではないようだった。初詣デートの彼氏もたぶん本気ではないのだろう。
姉は、私がモデルになれるなら、自分は東京でいい男を見つけて玉の輿に乗ると言った。口も性格も悪いが、私と顔の作りが似ているのは間違いが無い。その姉はとっくに自分の容姿に見切りをつけて、普通に就職し、適当に遊びながら婚活すると言っている。玉の輿は言い過ぎとしても、お金に困らないハイスペックな男と結婚し、専業主婦になってのんびり過ごすというのが姉の望みらしい。お金に困る生活をするのは「うんざりだ」というのは同意できるが、私にはつまらない夢だと思う。姉には「放っておいて」と怒られるだろうけど。
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