第6話 無理強いされそうになったら、キッパリ断るのよ。

 次の金曜日はあっと言う間に来た。この1週間の間に近江さんにいただいた1万円を握りしめて出丸百貨店へ行き、小綺麗なブラウスとスカートを購入した。残念ながら1万円では全然足りずに自分のお金も使ったが、先行投資だと自分に言い聞かせて、ホテルやレストランに着て行っても恥ずかしくないものを買った。欲を言えば靴や鞄も揃える必要があるが、お金が足りなくなるので先送りにした。

 木曜日の夜に近江さんから「グランドハイマウントホテル東京を気に入ってくれたみたいだから、あのホテルの良さをもっと知ってほしい。もう一度行ってみよう。19時頃にロビーでどうかな?」と電話があった。まだロビーとフレンチレストランしか行っていないので、他のレストランも行ってみたい。「はい。楽しみです。」と即答した。


 金曜日の夜。今回は私がロビーショップをぶらぶら見ているところを近江さんが見つけてくれて、すぐに待ち合わせが出来た。前回と同じエレベーターで6階へ上がり、そこから階段を下りて「乃木坂」という鉄板焼レストランに連れて来てくれた。ここでも近江さんがスマートに係員へ声をかけると、奥の個室へ通された。この部屋にもキッチンと鉄板があり、目の前でシェフが焼いてくれるようだ。もちろん、私にとって鉄板焼レストランは初めてである。私達瀬戸内の人間にとって鉄板で作るものと言えば、まずお好み焼きを思い浮かべるが、ここでは魚介類やステーキ肉、野菜を手際よく焼いてくれた。私も近江さんも黒ウーロン茶を飲みながらホタテや白身魚等をいただいた後、お肉と野菜をいただく時にはガーリックライスと赤だしも出されて、思った以上にお腹にたまった。

 「マミコさん、上の部屋も予約しています。上がりましょうか。」食後、個室内で支払いを済ませた近江さんが意を決したように誘ってくれた。

 「はい。」ついさっきまで二人で楽しく会話していたのが嘘のように、私は一言しか返事が出来なかった。

 レストランを出ると階段を上って6階のエレベーターホールまで戻り、エレベーターでさらに上の20階まで上がった。額に入った絵が飾られている廊下を歩き近江さんがカードキーをかざして予約している部屋に入る。レストランを出た後、ここまでずっと二人とも無言のままだった。私は足がすくんで部屋の入口で立ち止まってしまった。

 「気が変わっちゃったかな?」穏やかな声だ。

 「いえ、大丈夫です。」近江さんに対して不満があるわけではない、単純に初めての体験が怖いだけだ。大きく深呼吸をして部屋に入り扉を閉めるとオートロックが閉じた。

 「僕が先にシャワーを浴びてくる。もし嫌だったらその間に帰っても怒らないよ。」

 「あの…」言葉が続かない。

 「ん?」

 「あの、…あの、私、初めてなんです。…怖くて。その、…優しく教えてください。」上ずった声で恥ずかしい。きっと顔も耳も真っ赤だろう。自分でも体温が上がり背中に汗をかいているのが分かる。

 「ありがとう、ちゃんと言ってくれて。二人でいい思い出を作ろう。」優しい笑顔を残して近江さんはバスルームに入り、中扉を閉じた。


 それにしても広い部屋と大きなベッドだ。私が借りている賃貸マンションの部屋よりも大きくて、ベッドは私が使っているシングルベッドの2個分以上の幅がある。何をしていたらよいのか分からず、部屋の中をウロウロして引き出しを開けてみたり、冷蔵庫を開けてみたり、部屋にある照明等のボタンというボタンをとりあえず押して回ったが、結局はテレビに落ち着いた。とりあえずニュース番組にチャンネルを合わせたが、頭に入ってこない。ぼんやりテレビ画面を見ているうちに近江さんがバスローブ姿でバスルームから出てきた。

 「いてくれたんだね。良かった。」

 「慣れない場所で落ち着かなくて、中をウロウロしていました。」

 「ははは、マミコさんもシャワーを浴びておいで。」

 「はい。」

 今度は私がバスルームに入る。大きな鏡と明るい照明、ここも木目調の内装でオシャレな洗面所だ。メイク道具だけ持って服を着たまま来たが、メイクは落とした方が良いのか?替えの下着を持っていないがどうしよう?ミナさんに事前に聞いておけばよかった。考えても仕方ないので、とりあえず普段どおりメイクを落としてシャワーを浴び、近江さんのようにバスローブで部屋に戻ることにした。ドライヤーで髪を乾かしながら鏡に映る自分を見て「私、何をやっているんだろう?」という冷めた感情が頭をよぎる。私は近江さんに対して好意も嫌悪感も無いからワクワクも悲しくも無い。あるのは「痛いのは嫌だなぁ」という虚ろな感情だけだった。


 私もバスローブに備え付けのスリッパでバスローブを出る。

 「やっぱり髪まで洗ってたんだね。」ベッドに腰かけていた近江さんがこちらに近づいてきて、薄っすら笑っている。

 「え?ダメでした?」

 「いや、良いんだよ。ただ、終わった後もシャワーを浴びるから首から上はその時でも良かったんじゃないかな。」

 「すいません。知りませんでした。」いきなりミスをしたみたいだ。恥ずかしい。

 「謝らなくて良い。これから少しずつ覚えていけばいい事だから。」近江さんが肩を落として立っている私を軽く抱きしめてくれた。

 「じゃあ、ベッドに入ろう。明かりを消すよ。」私の右手を引いてベッドにいざなってくれる。

 「はい。」私は言われるがままバスローブ姿でベッドに潜り込む。近江さんはギリギリお互いの表情が分かる程度に照明を絞ってからバスローブを脱ぎ、窓際のソファーにそれをかけてベッドに入って来た。二人が並んで寝転んでも余りある広さのベッドなのに近江さんが手を伸ばして私を抱き寄せる。

 「間近で見ても可愛いね。」笑顔の近江さんがスッピンの私の頬と唇に軽くキスをした。

 「ありがとうございます。」褒められた事ではなく、男の人とベッドに入っている事が恥ずかしくて声が小さくなる。近江さんは私の顔を見つめながらバスローブの紐を解き、ゆっくりと左右に開ける。柔らかい手つきで私のお腹からゆっくり足の方に近江さんの手が降りていく。

 「マミコさん、バスローブの下に下着を着けてたんだね。」

 「はい、これも…ダメでしたか。」

 「ふふふ、良いよ。」近江さんは優しく流してくれたが、これもお作法とは違ったようだ。羽毛布団をめくりあげて二人とも一旦上半身を起こし、近江さんが私のバスローブを肩から外してくれてた後、抱きしめるように後ろに手を回し、ブラのホックを外してくれた。私が自分でブラを脱いでベッドの端に置いた後、近江さんは私の腰骨の所からショーツに指を通し、ゆっくりと脱がせてくれた。今頃気が付いたが、近江さんも既に全裸だ、バスローブの下に何も着ていなかったのだろう。ほんのりとした照明の中でも、こちらに向いて座っている近江さん股間にペニスが立っているのが分かる。

 「続けるよ。」

 「はい。」と答えると、近江さんは私の後頭部と腰に手を添えてベッドに寝かせてくれた。私はただ仰向けに寝転がっているだけだが、近江さんは私に覆いかぶさるように私の体のあらゆるところを上から優しく撫でてくれたし、時にキスをしてくれた。男はやはり女の胸が好きなのだろう、胸や乳首は何度も何度も刺激してくれて、その度に私はムズムズとした感覚を覚えた。

 近江さんは私の上半身を一通り愛でた後、上半身を起こして私の両足の間に座り、爆発物でも扱うように私の股間を注意深く触ってくれた。左右と片方ずつ割れ目を優しく広げるのを2、3度やった後、割れ目の上の方を指の腹で下から上へ優しく押すように撫でてくれた。しばらくすると私の股間がヒクヒク動いて、ブジュブジュ小さな音がしているのが自分でも分かる。近江さんの指に私の濡れた液体が付いてからは指の動きが滑らかに、速くなっていく。今まで味わったことが無い気持ち良さで呼吸が速くなり、自然と腰が浮いてしまう。自分の体が壊れるんじゃないかと怖くなり、体を起こして近江さんの腕を掴んだ。

 「はぁはぁ、スイマセン。」

 「大丈夫だよ。ビックリしたかい?」

恥ずかしくてコクリと頷くことしかできなかった私を近江さんは右手で抱き寄せ、左手で頭をポンポンと撫でてくれた。私の背中に回った近江さんの右手の平が濡れているのが分かる。

 「俺もマミコさんと一緒に気持ち良くなりたい。」いよいよ来た。行為を始める前にピルで避妊している事を私から伝えた方が良いだろう。

 「あの、私、ピルを飲んでいます。」

 「ありがとう。」近江さんは耳元で囁くように言ってくれた後、キスをしながら私に手を添えて再度ゆっくり寝かせてくれた。私の足を左右に広げてペニスを割れ目にあてがい、右手でやっていたのと同じように、ペニスで割れ目を下から上に掬い上げるように刺激してくれた。指よりも太いが骨の様な硬さは無い不思議な物体を擦りつけられて、また何とも言えない感覚がした。恥ずかしい音がするようになってくると、近江さんは私の両ひざの裏を掴んで私の腰を少し浮かせて割れ目にペニスを入れてきた。圧迫感を感じて反射的に股を閉じようと力が入る。

 「痛かったかな?」

 「まだ痛くないです。大丈夫です。」

 「よかった。緊張していると思うけど、何回かやっていると慣れてくるから安心して。」近江さんが再度ペニスを私の割れ目に押し込んできた。多分今度はペニスの一部が私の穴に入ったのだろう、メリメリと筋肉を押し広げられるような感覚がして痛い。さらに近江さんは私の上に身体を重ねてゆっくり体重をかけてきた。

 「ぅぅぅ」痛みが強くなり、思わず力が入る。痛みと恐怖で呼吸が荒くなり、情けない声が出た。

 「痛そうだね、一回外そうか?」

 「いえ、このままで動かないでいてくれたら我慢できます。続けてください。」

 「わかったよ。……ところでマミコさん、部屋がニンニク臭くないか?」

 「え?」

 「俺達二人とも夕食でガーリックライスを食べただろ?歯を磨いたけど、やっぱりニオイがするんだよね。デートの夜に鉄板焼きとガーリックライスは失敗だったかな~。ゴメンよ。」

 「ププ、はははははは。」大人の余裕で私を優しくリードしてくれていた近江さんが申し訳なさそうな顔をしているのを見て、声を出して笑ってしまった。しかも、ニンニクのニオイがするのは主に私からだろう。シャワーを浴びた時に歯を磨いていない。セックスの前に歯を磨くのが礼儀というのが緊張で頭から抜けていた。私が体を撫で回されてハアハア息を吐き出している内に、近江さんが気になるレベルまでニオイがするようになったのだろう。こちらこそ申し訳ない。自分のせいだと勘違いしている近江さんを可愛く感じて笑ってしまった。いや、もしかしたら私が原因なのを分かった上で、私を傷つけないようにわざと自分が悪者になってくれているのかもしれない。いずれにせよ近江さんと二人で笑っている間に緊張もほぐれた。

 「笑ったな、コイツ。」と近江さんが冗談ぽく笑いながら私の腰をしっかりと掴み、途中で引っ掛かっていたペニスを私の中に一気に押し込んできた。

 「んん。」一瞬強い痛みはあったが、笑いが収まる前にペニスをニュルんと受け入れることが出来た。

 「大笑いされちゃったけど、全部入ったよ。」近江さんが上から身体を密着させて抱きしめてくれた。

 「はい。今もまだヒリヒリ痛いけど、…入って…良かったです。」私も近江さんの背中に手を回してふんわり抱いた。股間にはペニスの硬い感触がするが、上半身は体温のぬくもりを感じる。近江さんは私の髪を撫でたり、ソフトなキスをしながら私の気持ちや呼吸が落ち着くのを待ってくれた。

 「まだ入ったままだけど、少しは落ち着いたかな?」

 「大分楽になりました。」

 「よし。じゃあ、また少し痛くなるかもしれないけど動くよ。我慢できなくなったら言ってね。」

 「はい。お願いします。」私が返事すると、近江さんは上半身を起こして再度私の腰を両手で掴み、ゆっくりペニスを抜いていき、全部抜け出さないうちにもう一度ゆっくり入れてきた。これを少しずつ速度をあげながら何度も繰り返される。始めはそれほど痛くなかったが、痛いことには変わりない。表面上取り繕うように頑張ってみたが、速度が上がるにつれ痛みが大きくなり、苦悶の表情へと変わり、無意識にベッドの上の方へ上の方へと逃げようとしていた。

 私が痛いのをこらえながら「痛いなぁ」、「早く終わらないかなぁ」と考え事をしている内に、突然、私の中にペニスが全部入りきったところで動きが止まった。

 「ありがとう。本当に気持ち良かった。最高だったよ。俺にとっても忘れられない思い出になった。」近江さんはそう言いながらゆっくりとペニスを抜いて、私の隣に寝転がってきた。どうやら終わったようだ。

 「こちらこそ、ありがとうございます。」近江さんが思い出になるほど何を喜んでくれているのか分からなかったが、私に優しくセックスをしてくれたことはありがたかった。他の男性だったら痛みや緊張で初回では入らなかったかもしれない。しばらく私の体を撫でながら感謝の言葉やいたわり言葉をかけてくれた後、近江さんは私に股間を拭くようにティッシュを箱ごと渡してくれて、さらに「先にシャワーを浴びておいで」と送り出してくれた。


 ティッシュで股間を拭いた時、3枚では足りないくらいベタベタに濡れていて何度も何度も拭いた。主に白い液体だが、私の血も混じって出たのか、暗い照明の中でもティッシュの一部が赤くにじんでいるのが分かった。

 シャワーで再度全身を洗い流す。行為の前には余裕が無く気付かなかったが、いい香りのボディーソープとヘアコンディショナーだ。タオルもフカフカで気持ち良い。「持って帰りたい」と言ったら近江さんは止めるだろうか?何にせよやり遂げた達成感で回りが見えてきて、ホテルの設備やアメニティを楽しむ余裕ができた。手早くシャワーを浴びてバスタオルを体に巻き、バスルームを近江さんに代わってあげた。近江さんは「気を遣ってくれてありがとう。俺が中に入ったら洗面所でドライヤーかけるんだよ。風邪をひかないようにね。」と自分が羽織っていたバスローブを持ってバスルームに入って行った。


 近江さんがシャワーを浴びている間、スマホをチェックしていると2時間くらい前にユリエさんからメールが入っていた。

 「ユリエ:大丈夫?痛いのに無理強いされそうになったら、キッパリ断るのよ。」

 「エリカ:メールに今気が付きました。無事に終わりました。」

 「ユリエ:どのホテル?」

 「エリカ:グランドハイマウントホテルです。明日また報告します。おやすみなさい。」

 ユリエさんが心配しないように返信しておいた。明日一人になってからユリエさんやミナさんに改めて報告をしよう。この夜は股間にジンジンと痛い違和感を感じながら近江さんの隣で眠りに就いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る