第129話 だから、ならないでってば!

「ねぇ、こっちは」

「城の方向だ」

「どうしよう。皆に知らせなきゃ」


 焦るけれど、前を行く三人にはまだ追いつかない。皆に先に知らせたいけど、そんな竜魔道具は持ってないし……。


「……エマ様」


 小さな声がどこからかした。


「誰?」

「エマ様。指輪からです。僕です」

「この声……フレイル?」

「エマ!! こっちは避難開始してるぞ」

「ルニアまで?」


 指輪と言われ指を見る。フレイルにつけられた指輪から声がした。


「緊急連絡用の竜魔石を組み込んでいて正解でした」

「えぇ、これにそんな機能が!?」

「こちらに瘴気が向かってきていますよね。だから僕とルニア姉様で住民達の避難誘導をしています」


 知らせが間に合わないと思っていたのに、まったく予想してなかったフレイルからの手助けに胸を撫で下ろす。


「お願い、フレイル。リア……瘴気は止めてみせるから」

「エマ? 瘴気を止めるってまさか!!」

「大丈夫だから、ルニア。皆をお願い!」

「わかった。ちゃんと無事に帰ってこいよ」

「当たり前だよ」


 ぐぅぅぅ

 こんなタイミングでも元気な私のお腹の音。

 もちろん向こうにも、届いたようだ。


「エマ様!? 大変です。今すぐ僕が食べるものをお持ちして、って、ルニア姉様!? 痛いです。引っ張らないで下さいぃぃ」

「ほら、レイはこっちを頼まれただろ」

「うわーん、僕もあっちがぁぁぁぁ」


 二人のやり取りを聞いて、少しだけ笑顔がこぼれる。


「ブレイド、あっちは大丈夫そう。だから、こっちも」

「もちろん、間に合わせるさ」


 そう言って彼は何かを呟く。たぶん風の魔法だ。翼に魔法がかかりスピードがあがる。


「しっかり捕まってるから、思いっきり飛んで!」


 こう言ったは良いものの、すぐに後悔した。すごくはやくて、体ごと後ろに飛んでいっちゃいそうだったから。

 でも、おかげでミリア達に追いつく事が出来た。


「リア、止まって!!」

「エマ様、どうしてそのような事をおっしゃられるの? 貴女だって、この世界が変われば、赤い瞳の聖女という呪いから開放されるんですよ。もう、浄化をしなくていい。印が出たあとの自身が瘴気になる恐怖も同じ赤い瞳の聖女達から処分される事もなくなる世界に――。好きな人と自由に結ばれる世界になるんです!!」


 ミリアの叫びは段々と悲しみが滲みでていた。そう、そんなことがあそこでは繰り広げられているの……。だけど、私だって守りたいものがあるんだ。だから!

 婚約指輪を握りしめ自分に風の魔法をかける。

 前方に回り込んだブレイドの体から飛び上がり、リアへとダイブする。

 がっしりと捕まえて、クロウから引き離しそのまま滑空していく。

 上空に残るのはミリアを乗せたクロウとブレイド。

 下に落ちていくのは私とリアと白竜。

 ぎりぎりで追加の風の魔法風の魔法風のまほぅぅぅぅ!!

 かなり怖い。魔法を発動させようとして、盛大にお腹がなる。


「いやぁぁぁぁぁ、何で今ぁぁぁぁぁぁっ!?」


 どうしよう。お腹が空いて集中できない。まさか失敗? このまま、落下していったら――――なんて嫌ぁぁぁぁ!!

 奇しくも場所は初めて飛んだあの赤い実がなる木がある谷だ。

 でも、今回ブレイドはいない。自分でなんとかしないとだ。

 自分で――――。


 ぐぅぅぅぅぅ!!


 だから、ならないで! 私のお腹さん!!

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