第128話 赤い瞳の聖女が求めるモノ

 ぱたりと倒れた丸いラヴェルはそのまま動かなかった。

 まさか、これは気絶してる!?


「わー!? 気絶させるつもりはなかったのに! これじゃあ、自分で走ってどこかに行ってもらえないっ!?」


 治し損です。私が慌ててると、スピアーがラヴェルを拾いに行って持ち上げた。


「どっかに置いてくるわ。すぐ戻る」


 よろしくお願いします。出来ればもう二度と会えないくらい遠くにお願いしたいけれど、すぐ戻るということはそれほど遠くない場所になるだろう。そのままお帰りいただけるととても助かるのだけれど。


「スピアー、なんで?」


 リアがラヴェルの落ちた場所に向かい、そこに落ちていた何かを拾う。大事そうに手の上に乗せて眺めていた。


「リア……、ダガー……」


 彼女は服についている大きなポケットにそれをしまうと、こちらに顔を向けた。


「どうして、止めるの? これ瘴気はリア達には何もしない。それどころかブレイド達、ドラゴンには命のもと……魔法の力になるのに」


 そうかもしれない。この前、ブレイドが苦しそうにしていた時、確かにそう思った。

 それで、リアがブレイドに触れて治って……。そっか、だから治ったんだ。リアが瘴気を出して、ブレイドに渡したんだ。

 でもね、瘴気はそれだけじゃないんだ。私達には無害かもしれない。だけど、ルニアもシルもリリーや元の姿に戻した人たち、お城の中だけじゃないたくさんの人々にとって瘴気は毒なのだ。

 だから、拡がってしまうのは困るのだ。


「リア、今はお願い。瘴気をとめて……」


「そうはいきません!!」


 上空からミリアの声がした。顔を上に向けるとクロウとミリアが空から舞い降りて来るところだった。


「オリジン、いないと思ったらこんなところにいたんですね。本当の姿も取り戻して……。これで、わたくしの悲願が叶う」


 悲願? ミリアは何を言っているのだろう。


「何のことだ?」


 ブレイドがミリアに問う。


「瘴気で世界を覆えばわたくし達は瘴気の浄化から開放される。もう浄化しすぎて使い物にならなくなった聖女達を処分しなくてよくなるの……。だって、瘴気はいらない人たちを全部いなくしてくれる。残るのは瘴気が平気なわたくし達や動物、魔物、竜達だけの楽園になるの! あはは、なんてすてきな世界なのかしら――!!」

「――リアも幸せになる?」


 リアがミリアに近寄って行く。


「えぇ、もちろん。さぁ、世界中を瘴気で溢れさせましょう!!」


 リアの手がミリアの差し出した手に伸ばされる。


「ダメ! ダメだよ! リア!!」


 私の声は届いたのだろうか。リアにほんの少しのためらいがあった。けれど――。


「さぁ、オリジン! 赤い瞳の聖女達をお救いください」


 ミリアの手が伸びてリアを捕まえる。クロウは同じタイミングで竜化し空へと舞い戻った。

 その後を付き従う様に白竜は瘴気を纏わせながら飛び上がっていく。


「ブレイド、止めよう」

「あぁ」


 私達もクロウが飛んでいった後を追った。

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