第130話 浄化したら反動がある、かな?

 着地するつもりだった地面が見える。

 魔法を使うなら今だ。

 ぎゅっと力を込めて風の魔法を使う。優しい風が集まって無事着地する事に成功した。


「よ、よかったぁぁぁ。リア! 怪我してない? 大丈夫?」


 リアの怪我の有無を確認しながら空も見上げる。

 空の上では、ブレイドとクロウが睨み合っている。


「……リア、どうして?」


 白竜が付き従うように横に来て体を伏せ聞いてきた。顔だけ持ち上げこちらをじっと見つめてる。


「もしかして、リアってアメリアの事を言ってるの?」


 私を見てリアと言っている。そんな気がしたから聞いてみた。どうやら合っているみたいだ。彼女は少しだけ頷く。


「じゃあ、リアは本当はなんて名前なの?」


 この答えは返ってこなかった。ただ、リアと小さくつぶやくだけだ。


「私はリアじゃないよ。エマ。エマが今の私の名前」

「……エマ?」

「うん。エマ」

「そう……エマなんだ……。ねぇ、どうして瘴気を世界に広げちゃ駄目なの? 世界中が瘴気だらけになれば竜も私達も幸せになるのに。それにね、結局これは皆適応していくんだよ。増えてきてるんだよね。耐えられる人間が」

「え? でも、ただの人は死んじゃうし、生きていても魔物になってしまうんだよ」

「耐えられないなら滅びるだけ。世界ってそういうふうに出来てるんだよ。竜だって昔はたくさんいたのに、もうすぐ――」


 リアはいったい何を見て、何を思っているのか。わからない。だけど、今生きてる人達を瘴気で消すなんて考え私は納得出来ない。

 だって、その中には私のお父さんやお母さんがいて、ルニアやシル、他にも沢山の人達がそれぞれ大切な人がいて。

 赤い瞳の聖女に自由はないかもしれないけれど、生きる事は出来てる。瘴気は人にその生きる事さえ許さないのだ。


「エマ、星に選ばれたんだよ。生きてていいって。だから、一緒に行こうよ」


 ダメだ。リアはもう止まるつもりはない。

 だけど、止めないと――。

 リアが空を見上げる。何かがこちらに向かって飛んでくる。


「ブレイド!?」


 炎の球がこちらに向かってきている。どちらかの魔法が、外れてここに落ちてきてる?


「リア!! 危ないっ!」


 私は彼女を守るように腕を引っ張って自分の体の影に隠す。

 ここまで落ちてきませんように。そう願うしかなかった。


「エマーっ!!!!」


 ブレイドが勢いよくそれに魔法をぶつけた。軌道を変えた炎の球は赤い実のなる木の場所へと落ちていった。

 みんなの冬の大事な食料が!!


「あの実……」


 リアが燃え上がる赤い実の木々を見つめる。

 ブレイドはクロウとの戦闘に戻っていってしまったし、どうしよう。


「エマちゃーん。って、大火事やん」


 元婚約者をどこかにポイ捨て――じゃなかった、置いてきたのだろうスピアーが戻ってきた。きっと、彼が見えたからブレイドも上空に戻ったんだ。


「スピアー! ちょうどいいところに! お水、はやくお水をかけて」

「お、おぅ。人使いあらいなー。あ、竜使いか」


 ぶつぶつと文句をつけながらもスピアーは水の魔法で火を消し止めてくれた。


「ありがとう、スピアー」

「ええけど、ブレイドは何しとんのや? クロウにばっかりかまって。しゃあない、手伝ってやるか」

「まって、まずはリアを安全なところに」

「そうやった。リア、もう瘴気は出さへんか? 一回戻ろう。な?」

「……いや!!」


 リアが再び白い竜に乗り、空へと向かう。


「世界を――、リアを救うって決めたの」

「リア、駄目!!」

「邪魔しないでっ!!」


 瘴気が彼女から溢れてくる。近くではルニア達が皆を避難させてるはずだ。

 浄化しなきゃ――――。

 手を広げ、瘴気を全部受け止める。

 すごく重たい。これはあとでお腹いっぱい食べなきゃ倒れちゃうなー。ルニアに怒られちゃうかな――。

 また太ったなって……。でも、止めないと。リアを助けないと。

 リアが呟く言葉と同じ言葉が私の中にもあった。

 そうだ、リアを救うんだ。

 全部の力を使ってでも――。


「ダメっっ!!!!」


 リアがこっちに戻ってきてくれた。良かった。

 あぁ、まだ瘴気が出てる。大丈夫だよ。全部、全部私が浄化してあげる。いつか、あなたがしてくれたように――。

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