第61話 スッキリと明日から頑張る

「そこのエマの元婚約者に告ぐ! 彼女はもうボクの婚約者だ! これからは絶対にお前には会わせないからな! もし無理やり何かしようものなら全力で城ごと叩き潰してやる!!」

「…………え?」


 聞き間違い? 今、「ボクの婚約者」って言った……? 今夜食うしゃとかじゃないよねっ!?

 顔の温度が急上昇する。え、何がどうなってそんな話になったの? 嬉しいけど、私話についていけてないんですが。

 ルニアを見れば手で良かったなとサインを送っていた。


「喋れるなら、おりてこいっ!! エマはどこにいるんだ!?」


 ラヴェルの叫びが聞こえてくるけれど、おりるつもりはないらしい。ブレイドは空中でとまったままだった。


「もう行ってもいいかな?」


 ブレイドに聞かれて私は少し考えた。なんだかこのままなのもスッキリしない気がして……。


「スピアー、ちょっといい? って、あぁ! スピアーあっちにまだいるじゃないっ!」


 スピアーにお願いしようと思ったのに向こう側に立ってこちらを眺めてる。逃げないの!?


「スピアーなら一人でも大丈夫だろう。エマ、戻ろう」

「待って、ブレイド。私もラヴェルに言ってやりたいことがあるの!!」


 さっきのブレイドに負けないくらい大きく息を吸い込む。


「スピアー!! ちょっと緩和するのとめてー!!」


 きちんと聞こえただろうか。心配したがそれはすぐに杞憂になった。

 むちむちと体が膨らむ。ブレイドがきちんと合わせて指の力を緩めてくれた。

 これで、ラヴェルの知ってるエマになったでしょう?

 ラヴェルってば、遠くからでも見てわかるほど驚いた顔になってる。本当に気がついてなかったのね。


「ラヴェル様、お久しぶりです。御機嫌よう。先ほどはとてもおあつい勧誘でしたね。私をもう一度お迎して、また醜い、肥え太ったと罵りたいのですか? そんなの絶対にお断りです!! 私のもとの顔も覚えていない、あなたの事をどうやって愛し続けるなんて出来ますか? 馬鹿にしないで下さい!! 私、……私は、どんな私になったって美味しく食べてあげようと言ってくれたこの人と一緒にいたいのっ!」


 美味しく食べられたくはないけどねっ!! と、これはさすがに言わなかった。

 訳がわからないとざわつくまわりの人達をよそに、私は思った事を言い切って少しスッキリした。

 ルニアがいつもみたいにニヤニヤ笑ってて改めて照れてしまう。今のって、ブレイドにはどういう風に聞こえたのかな。


「さぁ、急いで戻ろう。向こうも心配だから」


 ブレイドが自国へと向きを変えた。


「そうね、シル達だけでは大変だもの。でも、ルニア。レトー様は大丈夫なの? あと、スピアー……」

「んー、そろそろだと思う」

「え?」

「こっちの話。いいぞ、ブレイド戻っても」


 そうなのかな? 頑張って、後ろを見ると兵士の数が増えていた。本当に大丈夫なのかな。

 ……あと、スピアーがいないと私の呪いって……そのままなのでは!?

 竜の姿のブレイドは飛ぶ速さがものすごくはやい。もう、点にすら見えない。

 あ、あはははは。今日からまたダイエット頑張らなきゃ。

 太ってしまっても私はそれほど不安に思わなかった。大丈夫。どんな姿だって――、そう言ってくれたブレイドなのだから。

 よし、明日から頑張るぞぉぉぉ!! ……今日は色々頑張ったからダイエットはしなくてもいいよね?

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