第57話 王命と秘密

 私のもといた場所からは離れているけれど同じハヘラータ城の敷地内におりないといけないらしい。

「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「いや、オレわりともうきっついんやけど」


 背中にルニア、お腹に私を抱えてスピアーが言った。ごめんね、スピアーじゃなくてルニアに聞いたんだ。


「大丈夫。今ちょうど王子ラヴェルがいないから」

「何でルニアはそんなことが……って、さっきので聞いてるのか」

「そうそう」

「なぁ、オレの心配ちゃうんか」


 ゆっくりと地面が近付いてくる。もう少しというところでスピアーは完全な竜の姿にもどった。小さくて丸い方ね。

 かなり疲れているというのは本当みたいで私の体もまた、――丸くなっている。この国にきてすぐこの体に戻るなんてなんだか皮肉みたいだ。服のボタンはあらかじめ緩めにしておいたけれどもう一段緩めた。


「ここが王様が指定した場所?」

「そう、もうすぐくるはず」


 そういえば、あまりに急でブレイドに何も言わずに出てきてしまった。


「ルニア、ブレイドには伝えてあるの?」

「いや、急いでたから忘れてたな」


 忘れてたって……。急にいなくなって心配してたりしないかな。あー、食い物が逃げた……とかだったりするのかな?

 昨日の話のせいで? とか、ブレイド変な風に考えたりしないといいけれど。


「足を運んでもらい感謝する」


 立派なひげをはやした元婚約者に似た人が現れる。彼が歳を重ねたらこうなるのかなという感じの男性。レトー陛下。


「ルニア、面倒をかけてすまなかった」

「いえ、国と陛下のためでしたら、わたしはどのような事でも」


 ルニアは国に忠誠を誓う騎士だった。だから何度か話しただけの私と一緒に国を出るなんておかしかったんだ。


「ここからは二人で向かいたいのだが、よろしいか? エマ嬢」

「え、私一人ですか?」


 元婚約者にそっくりの人についていくのはすごく怖い。誰か一緒にと思ってもここには「了解しました」と言ってるルニアとルニアに捕まってるスピアーしかいない。


「この通りだ」


 王様自ら頭を下げようとするので慌てて私は頷いた。


「わかりましたっ」


 私にできる事なんて浄化くらいなのだけれど、いったい何をお願いされるのだろう。

 レトーは建物に手をやる。すると小さな光が走ったあと扉が現れた。


「この中です」


 先に歩き出すレトーを追って私も歩き出した。背後でバタンッと扉が勝手にしまった。


「ここは王を継ぐものだけが入る事を許される場所があるのです」


 次にあった扉には大きな宝石がはまっていた。それに王は同じ色に光る宝石を当てる。これも竜魔石なのだろうか。二つがぶつかった瞬間扉が動き出した。


 ん、今レトーは何か言ってなかった?

 王を継ぐもの? って、それ私、中に入ってもいいんですか!?

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