第58話 建国と竜魔石
大きな扉の向こうには幾重にも引かれた線や古い道具があちこちに置いてあった。一つ一つ古いものを修繕しながら使いつづけているような雰囲気がする。
どこからか焦げたパンの匂いがしてちょっとお腹が空く。あっと、違う違う。
部屋の中央にはこの国の紋章と赤い(おそらくだが)竜魔石があった。
この空間自体が大きな装置なのだろうか。
「この国に王は二人存在するのだよ」
レトーは中央に足を進める。
「マリエル、――君の父親がもう一人の王だ」
私の思考が停止する。お父さんがもう一人の王?
「そして、そのブローチが王の証」
お母さんにもらったブローチを指差し王は言った。
「時間が惜しいので少し手短になるが話そう――」
◆
国ができる前のある日。
一人の男が女を見つけた。女は石だらけの場所に座り込み誰かに語りかけるように歌をうたっていた。
どうしても気になってしまい男は毎日その姿を見に行った。女の消えてしまいそうな儚さと愛を探すような瞳に気がつけば男は焦がれていた。
女は毎日欠かさずやってくる男の事を最初は煩わしく感じていた。けれど男のあまりにもあつい情熱に負けだんだんと一緒に過ごすようになっていった。
男はここに国を作ると宣言していた。
その通り、強い男は国を作った。
女は竜魔石の扱いに長けていた。
女は言った。
「ここは瘴気の噴き出す場所が多すぎる」
どこにも瘴気など見当たらないこの場所でどうしてそのようなことを言うのかと男は聞いた。
「浄化の力は失ったけれど、感じる力は残っている」
女は男のために大きな竜魔石の装置を作った。男の国を守るおおがかりな装置。
竜魔石の力で瘴気の出入り口に蓋をするというそれには鍵があった。
「今度は
女のそれは自由であって不自由な願いだった。
◆
鍵に選ばれた子は自由な王を約束される。鍵に選ばれなかった子は表の王になる。
鍵の王は女と同じ竜魔石の扱いに長け、装置を守り続ける。ただの人と変わらぬ生活の中で暮らしながら。
表の王は男のように国を治める。次代に継承を済ませるまで王として暮らす。
継承の時にこの約束を二人の王は聞かされる。
「お父さんがこの国を守っていた?」
「そうだ。その鍵を使って装置を動かしていたのだ。次の起動予定日は三年ほど前だった。マリエルがいなくなり、残されたそなたを引き取りはしたが、自由にはほど遠い生活をさせてしまった。その綻びだったのだろう。瘴気が溢れ出したのは――」
「本来ならお父さんが行うはずだった……」
「そうだ。そなたを息子と結婚させ二つの血をふたたび一つにすればよいと思っていた。継承もその時にと思っていたが――。何年たってもその時は来ず。そして、まさか――。そなたを追い出すとは思わなかった」
元婚約者が私を愛している言ったのは――、そしてそれが
仕返しが出来るんだ。今この手の中にはこの国の行く末が握られている。私の事を醜いと罵った元婚約者の国を壊す事が出来るんだ……。
私はブローチを外し、それを手で握りしめた。
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