第55話 到着した場所で待っていたものは(元婚約者視点)

 ◆


 国境沿いの街ラハナルについた。

 街は夜でも明るかった。これは街に残った見張りや、街を守る自警団らが焚いている明かりだ。住民は避難するためほとんどが隣の街へとすでに移動していた。


「こんばんは、ラヴェル殿下」


 一見少女にも見える赤い瞳の聖女がにこりと笑いながら近付いてきた。少女と同じ銀色の髪を持つ男がすぐ後ろで控えている。

 たった二人でここにきていたのだろうか。


「要請があまりに急でしたので、本当に担当する者は後日参ります。数日ではありますがよろしくお願いしますね」


 赤い瞳の色はナターシャよりも濃い。瞳の色は赤いほど力が強い。彼女はかなり力が強いのがわかる。


「あ、あぁ。この度は急な要請にもかわらず、応えていただき感謝する。名前を聞いても良いだろうか」

「申し遅れました。ミリアと呼んでいただきたく。こちらの男はわたくしの従者クロウです」


 二人を連れて瘴気が出たという森に向かう。

 念の為、聖女の力の宿る外套を羽織る。聖女ミリア従者の男クロウはそれをつけずにどんどんと進んでいく。


「時にラヴェル殿下……不思議な話を耳にしたのですが」

「なんだ?」

「瘴気に飲まれても無事だった子ども。それと赤い竜……わたくしたちが知らない聖女……」


 すでに街の中で話が広がっていたようだ。この聖女おんなの耳にまで入ってしまった。


「この国にいるのはナターシャでしたよね。たしか彼女は金色の髪……。そしてわたくしが聞いたのは赤みがかった茶色の髪の聖女」


 森の中に足を踏み入れる。ここから先は聖女だけで向かうのだろうか。足を止め聖女の行動を見る。


「見て参ります」


 ミリアはクロウを連れたまま森の中へと入って行く。

 街の者が入り込める場所であればそんなに時をかけずたどり着くとは思うが……。

 半刻もせず二人は戻ってきた。


「お待たせしました。この森には現在瘴気は出ておりません。ほんの少しの噴き出した痕跡はありましたが――。聖女の力で浄化されているようですね。わたくし達に報告があがっていないという事はやはり野良女さんの仕業でしょうか……」


 困りましたと言いながらミリアは笑顔を浮かべた。赤い目を細め私をめつけてくる。


「場所はわかったんだろう。ここに仮小屋をたてよう。正式な建屋はその後――」


 私はその目を正面から受けて笑顔で返す。


「そうですね。誰が匿って育てていたかは後ほど調べるように言っておきましょう。わたくし達に報告しない国にはしっかりと対応していただかないとですからね……。あぁ、新しいお友達もはやく迎えにいってさしあげないと。どこにいらっしゃるのかしら」


 クロウに嬉しそうに語りかけながらミリアはこちらが用意していた椅子にふわりと腰掛けた。


 ◆


 やっと私兵から連絡が入った。

 一人離れた場所に行き確認する。そこから聞こえてきたのはあまりにも酷いものだった。


「瘴気の中に突入しましたが何者かに外套を奪われ、全員死亡しました。運良く生き残り標的を発見しましたがどちらも死亡しておりました。魔物に喰われ、…………う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」


 ぐしゃぐしゃ。ペタペタ。ぴしゃっぴしゃっ。

 ガツガツガツ……。


 潰されるような音。液体が垂れるような音。何かが何かを咀嚼する音。途中で音を切りたくなったけれど続きがあっては困ると最後まで聞いた。しかし、叫びの後は何もなかった。

 全滅……。

 だが、エマとルニアが死んでいるとなれば証拠を消す必要が無くなったとも言える。

 赤茶色の髪の聖女、最初はエマではないかと思ったがどうにも違う。

 自警団に話を聞けば美しい女であったと言うのだ。これだけでエマであるはずがないと言えるだろう。怠惰ボディのエマを見て出る言葉は美しいではないはずだ。


「最初からあの女が国に産まれてさえいなければ……」


 すべてあの女のせいで狂っていったんだ。王も、国で一番竜魔石の扱いに長けていたからと言ってあの男エマの父の言う通りエマを隠すと言わなければ……。

 あの女の両親を消した後も保護し、守り続け、私に押し付けるように婚約まで進め……。

 やっと手に入れたのだ。シャーリィ。おかしな婚約をさせられ無理やり嫁がされる前に救い出した。私の愛する女性。

 邪魔者達の排除は終わり、後は結婚と継承をするだけだったのに――。


 今は目の前の問題を片付けよう。

 聖女をあと一人……。これはどうするか。エマが死んだとなれば頼むしか道がない。

 ここを浄化した聖女は行方がわからない。ただで浄化するようなお人好しだ。捕らえれば使えるかもしれない。だがミリアは、この聖女は野良女だと言っていた。もう野良女に振り回されるのは御免被りたいところだが……。


「……なんだ?」


 連絡用の竜魔道具が光っていた。誰かから連絡が入っている。他にも生き残りがいたのだろうか。

 竜魔石のスイッチに触れると覚えのある声が聞こえてきた。


「これが、話せる竜魔道具? こんなので向こうに声が届くの?」

「ちょっ、エマっ!! それ―――――――」


 どういう事だ? エマは生きているじゃないか――。


 ◆

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