第54話 元婚約者の私兵
「……そうだ、皆死んだ。瘴気に飲まれて。オレだけ生き残って。帰りたくても瘴気がある。帰れないんだ」
ボロボロと大粒の涙をこぼす狼男が可哀そうに見えた。きちんともとに戻してあげたほうがいいのかな。手を差しだそうとするとルニアに止められた。
ルニアは狼男の前に行き仁王立ちになった。
「わたしを見た時目の色変えたな? つまりわたしを探していたのか?」
「……そうだ。それとあと一人、丸い女。そっちが優先だ」
ヤケクソ気味に狼男は口を動かす。
丸い女って、私の事ですか……? 聞くのも悲しいので聞かなかったけれどルニアとセットといえばたぶん私だ。
元婚約者が探してる。他人の命を使って。
なら、どうしてあの時いらないって言ったの? 今さら戻ってこいとでも言いたいの?
悔しくて、悲しくて私はぎゅっと両手を握りしめた。
「……戻ったらオレ、この仕事やめて里に帰るつもりだったんだ。待ってくれている女と結婚して、のんびり畑仕事なんかしてさ……」
気の毒すぎて、なんと言ってあげればいいのか。待ってる女の人も、帰ってこない最愛の人を待ち続けてずっと……。
「あぁ、めんどくさい!!」
ルニアが狼男の目の前にザンッと音をさせ剣を突き立てた。目の前というか鼻先をかするくらいの距離に。
「アンタの身の上なんて興味ないんだ。誰に何をどう頼まれたか。喋る気はあるか?」
「…………」
「こっちにはアンタを元の姿にする事と、瘴気の向こうに行く術の用意がある」
ルニア、それ依頼者を裏切りなって言ってるよね。国に忠誠を誓う騎士なんかはきっと口を割らない。依頼者か、恋人か。でも、この人が望むのはきっと。
「何でも話す。何でも話す!! だからお願いします――」
どれだけ恐ろしい目にあったのだろう。まるで子どものように泣きじゃくり頼み込まれる。
「あの、ルニア。それくらいで」
「……あんまり甘くするなよ? コイツはこうなってなきゃわたしたちを捕まえて連れ戻すつもりだったんだ。人数考えろ?
うぅ、それは確かに嫌だ。始まったばかりのこの生活だけれど、前の生活より自由で楽しい。それに、戻ったら嫌な言葉を投げつけてくる元婚約者が私じゃない聖女と一緒にいるのを見ないといけない。そんなのを見せられるなんて嫌だ……。そして、何よりもブレイドがあそこにはいない。
「絶対に嫌」
私は首をふる。
「よし、じゃあこれだ」
ルニアは手に乗るくらいの何かを私に見せてきた。それには小さな石がついている。
これは竜魔石? 何をする道具なのかな?
「どうせ、死ぬつもりだったんだ。わたしたちに従え。そうすればお前は逃してやる」
いつも私に見せる優しい顔とは違う厳しい顔のルニア。騎士団団長だった彼女の本当の顔はこちらなのだろうか。
狼男はわかったと言い、私達に色々話してくれた。
彼はルニアの予想通り元婚約者ラヴェルの私兵だった。
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