第53話 そのお肉は誰のもの?

「なんでオレがエマちゃんやないねん」

「まあ、そういうな。あとでわたしの剣の特訓に付き合わせてやるから」

「なんでや……」


 ぶつぶつ言ってるスピアーと笑ってるルニアのペア。

 後ろから抱き抱えられて運ばれる私となんだかまた赤くなってるブレイドのペア。

 それぞれ竜が背中から羽を出して飛んでいる。人間の姿ならスピアーもブレイドみたいに変化出来ている。なぜ竜の姿になると小さな丸っこい竜になってしまうのか……。


「そろそろやろ?」

「あぁ、オゥニィーが見えた」


 スピアーとブレイドが空中で止まる。

 空からでもわかる大きなオゥニィーの姿。その視線の先に軽装備の鎧を纏った二足歩行の狼がいた。


「あれ?」

「そや。エマちゃん肉の匂いが染みついてるから近寄るの難しそうやな」


 ぐ、確かに狼の鼻だと遠くでもわかってしまうかもしれない。でも、今日はルニアだって食べてたから!


「エマ、パンチしないと人に戻すのって出来ないの?」


 ルニアに聞かれて考えてみる。そういえば、別に触る必要はないような?


「やってみる」


 瘴気を消すつもりで祈る。狼がもとに戻りますようにと。

 すると、狼の体毛がだんだん短くなって、顔も人のそれっぽくなってきた。

 そのまま戻るかと思っていたが、変化は途中でとまる。


「あ、あれ?」

「エマ、どうした? お腹すいたのか!?」


 いやいや、お腹はすいてないから。だからルニア、その手に構える骨付き肉はしまっておいてください。

 追加燃料のように用意された肉を横目に考える。


「もう少し近くに行ける?」


 触れた方が瘴気を消すイメージが出来るけれど、ここだと遠すぎる。そんな感覚があったのだ。


「あぶなくないか?」

「お、でもアイツ足が止まってるぞ」


 ルニアが肉をかじりながら狼を見ていた。待って、それ私のじゃなかったの?

 二本目があることを信じて私も狼男を見る。


「う、うぉぉぉぉぉぉぉおおぉ」


 突然、狼男が吠えた。

 どうしよう、失敗だったのだろうか。上空でその様子を見続けていると狼男は大きな岩に向かって頭突きを始めた。


「ヤバイ、スピアー行くぞ!」


 スピアーが狼男の上にたどり着くとルニアを投下する。


「とまれぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 頭から突進してきた狼男をルニアは掴み投げ飛ばした。それはもうきれいな軌跡を描いて優雅に宙を舞った。


 ◇


「うおぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁん」


 男泣きってこういうのを言うのかしら。狼男は地面に突っ伏して泣いている。


「あ、あの大丈夫ですか?」


 泣き続ける狼男に声をかける。一瞬だけ止んだと思ったらすぐ男泣きは再開した。

 がたいのいい男の人(半分もふもふ)が泣き続けるほどの何かがあったのだろうか。


「おい、お前も騎士団試験は合格したクチだろ? 何泣いてるんだ」


 ルニアがふぅとため息をつくと狼男は顔をあげ彼女の顔を見た。狼男の瞳に一瞬希望の光が灯ったがすぐに消えた。

 がっくりと項垂うなだれてまたおいおいと泣き出しそうになったので急いで私は話しかける。半分しか戻ってないけれど人の言葉がわかっているなら意思疎通はできるかな。


「あなたはいったい何をしにきたんですか? 瘴気に包まれてて危ないとわかっていたでしょうに」


 今度は私の顔を見て狼男は首を傾げる。じーっと見ながら少しずつ傾いていく。一度反対に傾いた後、ぼそりと話し出した。


「こんな姿じゃ国に戻れない……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る