第7話

「――模擬戦をやるぞ」

 新は教壇に立つなりそう宣言した。こころが首を傾げ、渚がいつも通りボケーとしている。黒は腕を組んで新を興味深げに見つめる。

「ルールは?」

「おっ、普段からやる気ない黒が乗り気だな」

 苦笑い。黒はふんと鼻を鳴らす。

「別に、いつものつまんない座学よりはマシだと思っただけよ」

「そりゃ良かった。三人しか居ないから――そうだな、とりあえず今日は一対一で二人だけ戦ってもらう。誰かやりたい奴いるか?」

 刹那のうちにこころが腕を挙げた。

「はいはいはい! こころが、こころがやります!」

「分かった分かった。他は?」

 黒がゆっくりと手を挙げる。渚はそんな二人を見て眠そうに欠伸をした。

「じゃあ、黒とこころで試合をしてもらう。渚は今日は見学だ」

「ふあーい」

 渚が瞼を擦り言った。


 実験施設のような正方形の巨大な部屋に二人の幼女が立っていた。漆黒の髪をはためかせながら、純白の装飾のない短機関銃を手に持った黒。こころはカチャカチャと巨大な刃の付いた銃剣を整備している。新はガラス越しの二人の姿を確認する。隣で渚がぼーと魔法少女たちを見ている。

「準備はいいか?」

 拡声器を使って二人に呼びかける。

「問題ない。速くやるわよ」

 黒は憮然と腕を組む。

「ふふん、負けないよ」

 こころはぴょんぴょんと飛び跳ねて体を慣らす。

「ルールは単純にいく。先に三発着弾させた方の勝ちだ。着弾して三秒間は一時的に攻撃を受け付けなくなるから気をつけるように。戦闘シミュレーション起動」

 手元にあるコンソールを陽花のマニュアル通りに押していく。施設が揺れる。ガラス越しに見える戦場が変動。山や都市の形を模した純白のオブジェクトが屹立する。黒とこころが同時に銃を握ったことを確認。

「始め!」

 合図とともに黒が一気に地を蹴った。身体能力を使うタイプか。黒は急斜面の山を駆け上り跳び上がる。宙に浮いた状態で姿勢を安定させ競技用の短機関銃型マジックロッドのトリガーを引く。閃光。弾丸がこころの小さな体に向かってばら撒かれる。こころは転がりながらビルの裏に間一髪隠れる。遮蔽物から銃身を突き出して発砲。燃えるような赤い魔力光が黒へと直進。黒は上手く空中で身を捻って回避、そのまま着地。

「少し回避が大げさだな」

 跳び上がったことは正解だったか? 空中に躍り出るのは不意はつけるが、どうしても不安定になってしまう。思考を他所に黒は斜面を下り疾走。こころへと肉薄する。

「逃げるが勝ち」

 こころは言うと黒から背を向けて走り出す。黒は逃すまいとトリガーを引く。こころは遮蔽物を上手く利用しながら弾丸の雨を防ぐ。曲がる瞬間、背後を振り向く。銃剣のトリガーを引いた。反撃を予想していなかったのか、黒の反応が遅れる。足で地面を削りながら急停止。頬をレーザー光線が掠れ小さなブーザー音が成る。

「こころちゃんが優勢?」

 渚は首を傾げながら言う。

「だろうな。黒は直情型すぎる。こころの方が立ち回りが上手い」

 話している間に黒は再びこころに飛びかかる。こころが放った射撃を近距離で横飛びしながら回避。眼前に躍り出る。

「ちょっ、はやっ!」

 たたらを踏んでいるこころに黒は至近距離で銃口を突きつける。こころは刃を反射的に一閃。黒はトリガーを引かない。銃身の上に足をかけて跳び上がった。宙返りしながらこころの背後を射撃。ブーザー音が鳴り響く。こころは無敵時間を利用して射撃。黒はバックステップをして銃撃を躱す。

「こころは慌てやすいな。さっきのは冷静に対処すれば逆にポイントを稼げた。黒の奇襲が上手いせいもあるが」

 こころは小さく息を吸う。淡く周囲が深紅色に輝いた。魔力の発現量を一時的に増やしたのか。こころは黒の周りを走り出す。黒は咄嗟に追い始めるが、遅い。こころの射撃で進行方向を塞がれて速度が上手く出ない。こころは上手く距離を取りながら着実に黒を追い詰めていく。

「チャックメイト」

 こころが両手で銃剣を持ってトリガーを引いた。エネルギーが銃口に収束し解放。巨大なレーザー光線が黒を貫いた。ブーザー音が鳴り響く。光線の後に、黒の姿がない。こころの横に黒が出現。こころは後ろに下がりながら連続して射撃。黒は顔を逸して間一髪で銃撃を避ける。そのまま肉薄して回し蹴り。こころは銃身で蹴りを受け止める。すかさずこころの頭部に銃口を突きつけた。こころは銃から突然手を離す。右拳を握る。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 裂帛の叫び声とともに拳が黒に迫る。黒は引き金を引くブーザー音が同時に鳴り響いた。黒は顔を伏せながら立っていた。こころは自慢げに鼻を鳴らす。

「勝者こころ――」

 声を掻き消すようにやかましいサイレンが鳴り響いた。不吉で不穏な聞き慣れた警報音。

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