第3話
「ふふっ、新が万引き犯だなんてお似合いね」
陽花は先程までの不機嫌そうな顔は何処に行ったのか上品な笑顔を浮かべながら純白の廊下を歩く。
「うっさい。してねぇよ」
「あら、けどこころちゃんから、ヘルシー・メイトに涎垂らしながら近づいている変態がコンビニに居たらしいという情報が」
「誰が変態だ。ヘルシー・メイトは俺の命なんだよ!」
「はいはい随分としょうもない命ね。……で、今何してるの?」
陽花は立ち止まり新の方を向く。罰が悪くなって顔を横に逸らす。
「まさか、あれからまーだニート生活してたのかしら。恋ちゃんは?」
「知らん」
「追い返されたのね。可愛そう。あんなに可愛くて一途な子。そうそう居ないわよ。さっさと貰ってあげたら」
「ニートが貰えるか!?」
「あら、あの子の収入はそこら辺の会社員より高いわよ。立派なヒモに成れるわね」
「知ってるよ。だから嫌なんだ。てか、何でお前は金あるんだよ。可怪しいだろ!?」
「何馬鹿なこと言ってるのよ。私はあんたと違って戦闘馬鹿じゃないの。私の本業はあくまで研究。研究者は結構金が稼げるのよ」
「理不尽だ……」
陽花は目の前の白い扉に手をかざす。すると彼女の指紋と眼球をセンサーが認識してドアが開く。小さな研究室だった。隅っこに山のように銃が積まれている。陽花は無遠慮に入っていき、置いてあったコーヒーマシンを使い始める。新は不満そうな顔をしながらそこら辺にある椅子に座った。
「コーヒーは?」
「貰っとく」
「そう、確か無糖だったわよね」
慣れた手付きでコーヒを淹れていく。新は机の上に散らばっていた資料を見た。何故か育児関連の論文が多い。その中に一つ、嫌な単語があった。
「魔法少女」
「そっ」
歩いてきて新の目の前にコーヒーを置く。隣の席に座った。そこは向かいじゃないのか?
「これが今のお前の仕事か?」
「そうよ。魔法少女のためのデバイス。マジックロッドの研究が私の仕事。これでも質が良いって評判なのよ」
「マジックロッド?」
「あんたそんなことも知らないの。どんだけ引き籠もってたのよ?」
「……四年」
「はぁー、もう何も言わないわ。マジックロッドは昔の魔杖と本質的には一緒よ。魔法を操るためのデバイス」
「あー、てっことはあいつらが噂の魔法少女様か」
皮肉げな笑みを浮かべる。陽花はためを息をつく。
「そうよ。可愛い子達でしょ?」
「何処がだ。さっき銃口を突きつけられたとこだ」
「一瞬で嫌われるなんて天才ね。褒めてあげる」
「いらん!」
陽花が頭に伸ばした手を払う。
「……ねぇ、新はまだあの子のこと気にしてるの?」
「…………」
黙りこくった。陽花は心配そうに新を見る。
「流石にもう飲み込んだよ」
「そう……それなら安心だけど。ということで、そんな安心安全な貴方にお願いがあるのだけど」
「断る」
「残念、私はまだ何も言ってないわ。あの子達の先生になってほしいのよ」
「……やっぱ断って正解じゃねぇか! 誰が好き好んでガキの面倒見るんだよ。お前がやれ」
頭を軽く掻く。
「あのねぇ、私の忙しさは貴方のようなニートの比じゃないのよ。研究者に子どもたちの訓練してる暇は無いの。大丈夫、ちゃんと報酬は出すわよ。少なくともそこら辺の企業の新卒ぐらいの給料は出すわ」
「俺は魔法とは関わらないって決めたんだ」
唇を噛みしめる。陽花はその様子を見て大きくため息を付き眼鏡をあげる。
「じゃあ、明日の食事はどうするの?」
「そ、そんなもん」
「お金ないわよね? まさかあの水無瀬新様が犯罪者になったりしないわよね? なったら地獄まで追って処刑するわよ」
さっきまでの穏やかな表情を凍らせて陽花は新の顔を睨みつける。新は目を逸らす。
「四年間無職だった奴を一体何処の企業が引き取るのよ。前の職歴なんて悪評の的じゃない。できてアルバイトぐらいでしょ。またとないチャンスだと思うけど」
「俺だって分かってるよ、今のままじゃ駄目だってことぐらい」
右拳を強く握り締める。パサリと机の上に財布が落ちた。
「じゃあ、それ全部あげるわよ。クレカの番号も教えるから好きに引き出したら」
「……何いってんだお前」
「だって仕方ないでしょ。私、あんたを見捨てる気なんてサラサラ無いのよ」
陽花は穏やかな表情で新を見る。
「だから、使いたきゃ使いなさい。あんたがそれで良いって言うなら。……」
「いつまでだ」
顔をあげて陽花を見る。陽花は嬉しそうに微笑。
「一生」
「断る」
「冗談よ。そうねー、まずは半年ぐらいで良いんじゃないかしら。そしたらある程度の給料は合法的に出せると思うけど」
「…………」
「もう一押し……? なら今の私の研究結果を共有してあげるわ。世界中の研究者が望んで止まないものよ」
「何だよそれ?」
「魔術師の復活」
「…………本当なのか?」
「ええ、それが私の研究テーマ。魔力を失った魔術師を全盛期の状態に戻す。マジックロッドの作成もその一貫」
ガタリと席を立つ。
「半年、半年だけだ、俺があのガキどもの教師になってやる」
「うん、良いわね」
陽花は惚けたような表情で新を見て頷く。
「じゃあ、決まりね。期待してるわ、水無瀬新、先生」
花が開いたような笑顔を新に向けた。
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