第5話
光太郎は次の日の朝、目を覚ました。
あたりを見回すと、ぼんやりした頭でもそこが病室であることは分かった。
「確か…あの時……」
自分が道路にいた不思議な生き物を助けに飛び出したことは薄っすらと憶えている。
それにさっきの…猫の神様?のような存在との会話も。
「自分の中で寝るとか、力を貸すとか、言ってたっけ…」
おぼろげながら覚えてはいるが、それはどこか夢だったのではないかと思えるものだった。そうやって一人この出来事を思い返していると、巡回の看護師さんが入ってきた。
「ふっ、福宮さんっ!目を、覚ましたんですねっ!」
ベッドに体を起こして座っていた光太郎を見て、看護師さんが大きな声を出したのを見て、その驚きっぷりに光太郎もまた驚いた。
「どこか、具合の悪い所は?ありませんか?いま、今先生を呼んできますからね!待っててください」
そう言って慌てふためき病室を出て行った。
看護師が驚くのも無理はない。
光太郎が病院に運ばれてきて治療を受けた時、なんとか一命をとりとめたが、医師からはこのまま意識を取り戻さない可能性もあると説明された。
それに仮に意識が戻ったとしても、全身の打撲と数か所の骨折などで、元通りに体が動かせるようになるには最低でも6か月はかかるだろう、とのことだった。
それが、一晩たって、何事もなくむっくりと体を起こしていたのだから、さすがのベテラン看護師もぶったまげて平静ではいられなかったのだ。
光太郎はベッドから足を降ろそうとして体をまわしたが、その時に初めて、自分の体が治療のためのチューブやら計器やらに繋がれていることに気づいた。
コードや管が絡まないよう慎重にベッドから足を降ろして座ると、今度はさっきの看護師が担当の医師と思われる男性を連れて入ってきた。
やはり医師も、腰かけている光太郎を見て大いに驚いたが、冷静さを保とうと
「福宮さん、どこか、痛むところ、ありませんか?」
声をかけながら、光太郎に付けられた医療器具のモニターの数値などをつぶさにチェックした。
「あー、そうですね…寝過ぎたみたいでちょっと頭が痛いですね。あとお腹もすいてます。」
光太郎のとんちんかんな回答に医師は唖然とした。
腰椎を骨折したはずが普通に座っているし、折れたはずの右腕でぽりぽりと頭をかいている。一体どういうことなのか。
「ちょっと体をさわりますね。ふうん、ふむ…うん?……これは…」
光太郎の全身をさわり痛みの有無や腫れや骨折した箇所を確かめた医師だったが、すぎに看護師の方を向き
「きみ、すぐに検査の準備を。レントゲンに、それからCTも…」
「はい!」
光太郎は医師と看護師のやりとりをポカンと見ていたが、どうも自分の体に起こったこの不思議な出来事を理解しはじめていた。
昨日、大けがをしていた体があり得ない異常な回復を見せ医師たちを戸惑わせているのではないか?と。
普通ならそんなことはにわかに信じられない事ではあるが、光太郎にはひとつだけ心当たりがあった。
あの夢の中で猫の神様は「わしの力を使えるようにしておこう」確かそんな風に言っていた。それがどういうことか分からなかったが、もしかするとこの異常な回復もその力というものなのではないか、と。
ひと通り検査を終えた光太郎は、検査結果を見た医師から改めて説明を受けた。
医師は神妙な顔をしてこう言った
「信じられませんが、福宮さんの体は命の危険があるほどの重傷でした。ところが今朝の検査の結果で、ケガや骨折をしていた箇所はすべて完治していることが認められました。これについては何故このようなことが起きたのか、私たちには説明できませんが…とにかく、福宮さんの体は、ここに運ばれてくる前の状態にすでに戻っていると言えます。極めて…健康です」
これを聞いて光太郎は、あの猫の神様が力をくれたことは、本当に現実のことだったんだと考えずにはいられなかった。
それと同時に、こんなに良く寝れたのは久しぶりだなぁとのん気に思うのであった。
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