第4話

真っ暗だった。

ただ光太郎に見えるのは真っ黒な空間だけで、それが実際に明かりのない部屋の中にいるのか意識の中だけに見える暗闇なのかその区別もつかなかった。


わずかにある夢から醒めかけたような意識で考えようとした。

今ある状況ってどんなだったっけ…


しかし状況を整理するどころか全く意識を集中させることができず、何を考えようとしてたんだっけ?となる有様で、光太郎の思考ははらはらとすべり落ちていく砂のように散るだけだった


一切の光がない世界の中で、光太郎はわずかにだが左腕のほうに痛みを感じた。

それはじんわりと、痛みという感覚を伴って自分の体の存在を示しているかのようだった。

その痛みで光太郎のぼんやりした意識は少しだけはっきりした。

何とか体の状態を確認したかったが、どこの部分も力を入れることができなかった。光太郎はじぶんの体がどうなったのか、まだ何も思い出せないでいる。


そんな中、光太郎は自分のからだの奥の方にぼやーっとした光を感じた。

体の奥が光るっていうのは随分とおかしな感覚だ。目で見えるわけではないので、ただそういう感覚があるだけだし、それが夢か現実のものなのか自分でもはっきりとはしなかった。


ところがこれはやっぱり夢かもしれないと光太郎は思い始める。

それは光を感じたところから声が聞こえてきたからだ。

「…う…には……ないことをした……」


それは耳で聞こえる音とは明らかに違っていた。

声は胸の中に、いやむしろ体全体に響いてくる感じで、次第にそれはよりはっきりと感じられるようになっていった。


それと同時に、光太郎の頭の中に光に包まれた猫のような動物が浮かびあがってくる!

いや!これは…あの時に道路にいた、猫の神様のような生き物!?

光太郎はようやく事故のあったその時のことを思い出した。そしてその時にいた、猫のような不思議な生き物のことも…。

(あの時の猫がいま話しかけてきているのか…?)


覚め切っていない意識でそこまでは考えられた。そして声を聞いた。

「ほんとうにすまないことをした…。わしはこちらの世界に来て、うっかり力を使い過ぎてしまって…それであのざまじゃ…」


こちらの世界というのは…?

光太郎は何とか知恵を振り絞ろうとしたが理解が追い付かなかった。


「それでな、おぬしには申し訳ないので、なんとかしてやりたい。わしは力を戻すために眠らなければならん。そこでおぬしのからだの中で眠らせてもらおう…」


声は続ける

「その間はわしの力を少しだけつかえるようにしておこう」


それだけ言うと声と同時に、姿を見せていた猫もすーっと消えていった。

そして光太郎の中にあった光も消えてった。部屋の電気が消されたみたいに、そこにはただ暗闇だけが広がる空間が残された。

光太郎はさっき聞いた言葉の意味をもう一度必死で考えようとした。

しかし、次第に意識は遠のいていき…やがて電源をおとしたようにフゥッと眠りにつくのだった。



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