六話 うまくいかないね 前

「あ゛あ゛~頭痛い。」

昨日僕らは海で遊んだ後、とりびゅーとというゲストハウスでたまっていた。

そこで、なんというか。

…。


「やっぱ気持ち悪いか?」

朝、教室で岡田と会話する。

「流石にお前ダメだったろ、あれは。飲み過ぎよ。」

どこか誇らしげな岡田の顔。


「初めてなんだから、あー、もっと控えめにしときゃ良かったわ。」

「岡田は慣れてんの?」


「まあな。」

「佐々木だけは気をつけとけよ。」


「ああ佐々木先生…。そう言うの厳しいんだっけ。」


「逆に気づかないフリする方がおかしいのよ。」


「え昨日飲んでたの?お酒?」

「…せめて大学生になってからにしなよ。」

少々引いてる様子の須藤さん。

僕らの会話に思わずスマホから顔を上げる。

「岡田に飲まされてもキッパリ断んなきゃダメだよー。」


「いや飲まされた訳とかじゃないよ…。」

「あーマジ気持ち悪い…。」


「岡田飲ませたの?」


「いやマジでちげえって。」

「あ、飯野は飲ませてたかもな。」


「大庭くんは大学入っても飲みサーとか入っちゃダメだね。」


「やでも楽しかったわ…。」


「あ逆に入る系?ふふ。」


「あやばいまじで吐きそう。」

「帰るわ。先生に言っといて。」


「俺送ろっか?」


「いや…大丈…うぷっ…!」


大庭の様子が流石におかしい、と岡田と須藤が椅子から立ち上がってわたわたしだす。

それを後目しりめに僕は急いで教室を出る。

ほんとに気持ち悪い、お父さんはこういう時吐けば治るって言ってたっけ。

ああー、吐くなら路肩だよな…。いや制服に飛び散ったら…


…。


…という間に結局吐かずに帰って来れた。

坂の上の僕の家。ちょっと築年数が経った家だからお父さんが色々と修繕の手配とかしていたっけ。

僕が7歳くらいの時にお父さんが仕事の関係で島を出て、それから家の補修を先延ばしにしたまんまでいる。

例えばレンガ風の壁の装飾なんかは端っこから剥がれてしまった。

雑草は僕も手伝って定期的に抜いているけどそれなりに広い庭はすこし荒れている。

僕も中学生の初め辺りまではよく友達を家に招いていた。


三つもある玄関の鍵を一つずつ開けていく…。


ガチャ。ガチャガチャ…ガチャ。


「あれ唯人どうしたの?」

居間でテレビを見ていた母が廊下に身を乗り出す。


「ごめんちょっと気持ち悪くなっちゃって今日早退した。」


「あ〜昨日のお酒でしょ。待っててね今薬出すから…。」

「先に自分の部屋行ってなさい。」


「ありがと…。ごめんね。」


階段を登って2階の僕の部屋…は少し散らかっている。

父のお古のアコギ、誕生日に買って貰ったドローン、映画館で買ったハリポタのDVD、ちょくちょく買ってる漫画数シリーズ…。

こう体調が悪い日に自分の部屋を見ると飽き性でまとまりの無い…、

ある意味では趣味が全く無いような、「不気味だ」と、そう感じてしまう。

母に甘やかされてきた歴史、でもあるのか。


いやそんな事どうでもいい、吐き気だ、吐き気。

横になったらまずいかな…。いよいよ吐く気がする…。


「はい薬、持ってきたよー。」

「まだ20はたちじゃないんだから飲み過ぎには注意しなねー。」


「ありがと、お母さん…。」


「はあい。」

「本当気をつけなねー、友達に飲まされたんじゃないかお母さん心配しちゃうよ。」


「いや大丈夫だから…。ちょっと寝かせて。」


「はいはい。」


ふう。もう寝るしか無いか。風呂から持ってきた桶をベット横にセットして…、


といきなりピーンポーン、と下からドアベルの音。

「唯人ぉ、お友達来てるよ。」

扉越し、廊下の下から声。

「お母さん出ちゃおっか。」


「えちょっと待って、誰?」

届くように声を張りあげる。


「女の子よー、ってえ莉奈ちゃん?雰囲気変わったわねー、可愛くなっちゃって。」


部屋を飛び出し階段を降りる。


「須藤さん何しに…、あ。」


制服のまま母と談笑している須藤さん。…がこっちを向いた。

あれ、彼女が背負っているバックがいつもと違う。


…というか僕のだ。その黒いのは。

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