五話 光芒
繁華街とか三月ターミナルがある方は島の"表"。
そして今僕らがいるのは島の"裏"。こじんまりとした海水浴場がある。
男子組3人でここまで泳ぎに来た。4人が乗った軽自動車の運転手は僕の母。
8分程度ですぐ着くから前にも2、3回くらい泳ぎに来た事がある。
「ほらもう着くよ〜。」
「「お姉さん」、ありがとうございましたー。」
「あやだも〜。覚えててくれたの〜?」
「やめっちゃ印象残ってて…」
「え〜うれし〜。」
飯野が助手席で僕の母とそつなく会話している。
「おい着いたぞ。」
「うぃーす」
「うい」
「いや久しぶりに遊ぶんからさ、んなシケたツラすんなよ。」
「お前らこんな仲悪かったっけ?」
飯野は車から出ながら突き放す様に告げた。
顔も見せずに更衣所に向かう飯野を岡田と2人で追う。
「お母さん車で待ってるね。」
「うん、ありがと。」
…。
…島の表は数年前からちょくちょく観光の為に建築や補修が行われているが、
裏は全然だ。更衣所なんてモロに。
あざとく丸太で作られた更衣所。中ではもう飯野が上着を脱いでいた。
「お前ら確か幼馴染だったよな。」
「そん時もこんなだったん?」
飯野の目は僕に向いている。
「あいや…、仲良かったよね。」
「お互いの家で遊ぶくらいには。」
「…まあな、てか飯野俺ら喧嘩してねえよ。」
岡田が少し強く反論する。
「はは…。」
「じゃあ謝ろな。」
「いや喧嘩して…」
「こう言うのは形が重要なのよ。」
「…。」
「ごめん。」
…僕から先に謝った。
「正直なにで喧嘩したのか覚えてないけどごめん。」
「ったははっ…!」
岡田の笑顔。
「いや俺も覚えてねえわごめん。」
「大庭も着替えろよ。」
「あ、うん。」
確かにボタンに手を掛けてすらいなかった。
飯野は満面の笑みで肩を撫で下ろす。
「いや俺嬉しいよお。」
カマトトぶってふざけた声だが、本心からの安心も感じる。
「そんなにか?」
「いや俺メンヘラだからさ、」
「みんながギスギスしてんの耐えらんねえよ。」
「まあ確かに飯野はそういう所あるよな。」
岡野もすっかり緊張が晴れた顔をしている。
…車の中で僕の隣にいた時のしかめっ面は正直怖かった。
「はい俺着替え終わったから先行ってるわ。」
飯野は青色のビーチショーツを着ている。
「金玉見えてない?」
「見えてねえよ。」
「飯野お前それ前も同じこと言ってたよな。」
「はは、じゃな。」
「行ってらっしゃい〜。」
飯野に手を振る。
「じゃ。」
飯野はビーチへ駆けて行った。
あれおばさん水着着ないんすか、と母をいじりながら。
…ゴソゴソと男2人が服を着替える音。
…。
「…大庭はさ、なんと言うか気が効くよな。」
服に目を向けながら岡田が話しかける。
「何急に。どした。」
「俺たちの学年…というかクラスってあんま仲良くないだろ。」
「…まあねえ。」
「だから卒業記念旅行みたいなのもしないんじゃね、多分だけど。」
「えぇ〜したいよ。岡田はする気ないの?」
「俺今勉強で手一杯でんなの考えらんねえよ。」
「ああ頭いい大学行きたいんだっけ。」
「慶應な。」
「浪人するかもだけど卒業と一緒に島は出るよ。」
「でも飯野とか企画してくれるんじゃない?」
「飯野は瀬凪高校のやつらと今でもつるんでる。」
「行くとしたらあいつらとだろ。」
「伊藤は呼ぶかもな。」
「うーん、えで何でこの話してたんだっけ。」
「もう機会無いだろ。こういうこと話すの。」
「え〜まあそうね。」
「…ってか岡田って意外とロマンチック?はは。」
「親にもよく言われるよ。」
「あー、」
「本当は俺瀬凪高校に進学したくてってか出来たんだけどさ。ばあちゃんの介護でこっち来たの。」
「…インスタとかやってる?」
「アカウントは持ってるよ。」
「じゃあ流れてくるだろ、瀬凪高校とか、よくわからんけど東京の方の高校の奴らとか。」
「食らうね、あれは。」
「まあね、気持ちわかるよ。」
「んでカリカリしてもう高校3年だけどさ、なんかすまんな。」
「幼馴染だし同じ高校だからもっと遊べば良かったなって。」
「ええ〜岡田ってそう言うこと言うタイプ?」
「お前には言いやすいよ。」
「…そう、良かった。」
「嬉しいよ、僕も。」
「まほんとは言いたい事言って、勉強に集中したいだけだけどな。」
岡田はおどけて笑う。
「あはは、まあ勉強に集中するのが一番だよ。」
「俺行ってくるわ。」
「僕もすぐ行くよー。」
岡田もビーチの方へ行った。
…岡田、岡田雅史。
昔から勉強ができるやつで、学級委員もやって打ち上げの幹事はいつも彼だった。
さっぱりしていて人に踏み込まない節があるが、みんな彼を買っているから行事の時は輪の中心にいた。
勉強もスポーツもできる岡田。中学の時はインテリグループにいながら、しっかりアッパー系「クラスの人気者」の対応もこなす。
彼には陽キャとか陰キャみたいな分類ができないと思う。
しっかりしている。一言で言うと。
…将来的に幸せになるのはああ言うタイプなんだろうな。
僕も着替えを済ませ更衣所を出る。
「お待たせ〜。」
2人は泳ぐのが得意だから結構岸から離れた方まで行っている。
確かに懐かしいな。最近遊んでなかったからな。
…これで最後になるのか。なんか。感慨深いな。
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