七話 うまくいかないね 後

「調子大丈夫〜?」

僕の家の前、須藤さんが僕のカバンを背負って佇んでいる。


「あー、結構辛いわ。昨日海も冷たかったし風邪も引いてるかも。」

「でも楽しかったよ。思い出作れて。」


「とりびゅーと行ったんだっけ。私もたまに行くよ。」


「へー、何しに?」


「何しにって…。たまりに?はは。」


教室以外で須藤さんと話すのはやや気まずい。


「あの…須藤さんに風邪移しちゃうかもだから…。」


「いや大丈夫だよ。私他の人から風邪移されたことないんだ。」


「えっ…なにそれ、風邪引いたことないの?」


「風邪引いたことはあるよ~。」

「でも移されたことがないの、ほんとほんと。」


「あぁ…そう…?、そうなんだ。」

「…そう……学校戻らなくていいの?」


須藤さんがポッケからスマホを取り出す。

「あー…うーん…」

スマホに一瞬視線を落としてからこちらに向き直す。

「そうだね戻んなきゃ…お大事にね!」

「あっはいこれ。忘れてた。」


須藤さんは軽く笑いながら肩から手にバックのショルダーベルトを持ち、

…僕はバックを受け取る。当然軽くあたたかい。


「ありがとね。」


「うん、じゃあね。」


須藤さんは静かに歩いて家の前の坂を下りて、

…すぐに頭の先まで見えなくなった。


「唯人~。あれ須藤さん?」


玄関ドアを閉めて埃臭い廊下。


「いや…そうだったでしょ。」

「何が言いたいの?」


「いやいや、ずいぶん変わるもんね~って、可愛くなっちゃって。」

「唯人狙えんじゃないの?」


嘲笑とも思える下世話な笑み。


「ごめん体調悪いから。」

「部屋帰ってるわ。」


「あぁ、うん、うん。すぐ寝なね~。」


「はあ、うん。」


すぐに階段を上がって背中を向けた僕に母の長い声。

バタンと自室のドアを閉め、またため息をする。

須藤さんと話した後にすぐ母親と会話すると…色々考えてしまうな。


…ベットの上の僕のスマホが通知に光る。

須藤さんからだ。

”さっき会話切っちゃってごめんね~。”

三年前ライン交換時の雑スタンプの下の”今日”の下に白地の吹き出し。

”大丈夫だと思うけどなんかあったっけ。”

ほどなくして付く既読と笑顔のリアクションアイコン。

須藤さんは会話を切りたいのだろう。

…僕はすぐさま指で液晶を弾く。

”ごめんちょっとどういう事か聞きたい”

既読。

”岡田から帰ってきて~って。”

その分を見て、少し考える。文字を打つ。

”付き合ってたの?”

即座に既読。

十数秒。

”付き合ってるよ”

文字を打つ。

”知らんかった”

”多分飯野君とかも気づいてないよね”

既読。

”知ってるんじゃない?”

打つ。

”でも一緒に帰ったりはしてないよね”

既読

”最近は休みにたまに会うくらいだよ~。”

”もう学校着いた”

”お大事にどうぞ~。”


…最後の吹き出しに、さっきくれたのと同じようにリアクションアイコンを付ける。

知らなかった。二人はいつの間にか付き合っていたんだ。

クラスではそこまで仲良さそうでも…

いやあんまし知らないな。飯野としか話してないな。

休みの日もずっと家にいたしな。


…はあ。

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