三話 (この前に家で母親と会話パート作っても良いかもしれない)

ライングループを作ったものの、結局今日の朝までにグループで交わされた会話は飯野の雑なアニメスタンプだけだった。あいつ案外アニメに造詣深いんだったな。


朝、僕はあくび交じりにガラガラと教室のドアを開ける。

「あはよう…」


「おいーす」

「ちーす」


教室には男子組が集まっていた。


「ってかあはようってなんだよ」

人懐っこい飯野の笑み。


「いや寝ぼけてるだけだよ分かんだろ」


「怒んなって」

普段から関係性をちょろまかしているだろう声色。

岡田はというと挨拶の時も顔を合わせず勉強をしている。


「いやこいつ朝からつまんねえのよ。」


「いや僕らもさすがに勉強した方がいいって。」


「まあな。」


飯野は気さくでフレンドリーだ。

だが会話の流れを不快と断じると迷いなく会話を切る。


「…結局なんも話さんかったな。」


「ああライン?」


「んあっんあっ。」

居眠りの様にカクカクと首を縦に振る。

脈絡もなくおどけるのはいつもの飯野らしい。


「ああいうのは言い出しっぺの伊藤が引っ張ってもらわないと…」


「いや違うって!大庭だよ!引っ張っていかなきゃ!」

「それじゃモテんて、モテんよ!」


今日の飯野はテンションが高い。

前髪をわしゃわしゃと整えながら首を座らせないようにグネグネと体を動かす。

舐められてるのかな、これって。

…うまい対応も思いつかない。


「あっ、結局どうすんのあれ、文化祭。」


「それはぁ、ぼかぁ、わかりません。」

腑抜けたイントネーション。

岡田は尚も気にせず勉強を続けている。


「…。」


「「おはよー。」」

女子組が入ってきた。


「おいーす」

「ちーす」

「おはよう…。」


「え~てか結局全然話さんかったね」


「まあな。」


「でも急いで連絡しなきゃいけないんでしょ?岡田?」


岡田が少しだるそうに伊藤の方を向く。

「…俺はそう思ってるよ。やりたいんならね。」


「えー玲どうすんの?」


「やわからん」

「うーん…。」

飯野がわざとらしく腕を組み目を泳がせる。


「えみんなやりたくないの?文化祭。」


…伊藤と目が合った。


「大庭くんは?」


「あぁ…、うん。」

「まあみんなやりたくないわけじゃないんじゃない?」

「ねえ須藤さん。」


「あっ…うん。」

「まあね。出来たら良いよね。」

「とりあえずさ、話したいにしてもさ、話したい事の確認とかさ、できることはあるんじゃない?」

「伊藤さんもさ、話したい事あるなら言って貰わないと…。」


「まあねぇ~。うん、出し物の話だったよね。」


「そう、なにするんって話だった。」

飯野の加勢。

「何なら俺らでバンドする?」

「人数もピッタリじゃん。」

「俺ギター、(伊藤を指さして)ボーカル、(僕を指さして)ベース、

(岡田を指して)キーボード、(須藤を指さして)ドラム。」


「あっほんとだ出来んじゃん!?」

「今から練習すれば間に合…」


「時間ねえよ。」

岡田。が伊藤、ではなく机に向かって発声した。

「練習。」


…。


「…まあな。」

は?と言いかける伊藤さんを制止する飯野。


…別にそこまで悪い案だとも思わないんだが。

「まあ少人数でできる案としてはいい案だったよね。」


「大庭出来ねえっつってんだろ。」


「いや今日なんかあったん?」


「昨日でも明日でも同じこと言ってるわ。」


「そう。」

「お前やばいよ。」


「チッ」


岡野は目も合わせない。話を続けない訳にもいかない。

「…はあ~。」

「えでどうすんの。」


「お前も落ち着けって。」

膝を組んだままの飯野。


「いや怒ってないけど…」


「怖えって。」


「っつ…ふう~。」

「まあ簡単な曲選ぶとか…」


「…。」

「やりたくねえってよ。岡野が。」

諭す表情の飯野にはもう勝てない。


キーンコーンカーンコーン…

音もなくいつの間にか先生が教壇に来ていた。


「…席に着くように。」


「うーす…」

先生の声に飯野以外は声すら出さない。


その飯野は席に戻りながら伊藤に小声で話し掛けられている。

「今日残れる?」


「いや今日は無理だろ…」


「じゃあ明日か…」

「はあ。」


2人のやりきれない会話、

…に目を逸らしたら不意に須藤さんと見合わせた。


「…やっぱり急だったよね。」


「うん、急だった。」


須藤さんは軽く笑った。

僕も愛想笑いをした。

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