二話 柔らかな日々
6人のクラスメイトで作った輪。
文化祭をどうやって実行するかの議論が始まる。
「…結局さ、前言ってた大庭の意見のが一番いいんじゃん?」
「伊藤のやりたい文化祭もそれが一番近いでしょ。」
飯野の意見。
小中でもムードメーカーだったのだろうな、という垢ぬけた見た目の好青年。
伊藤と付き合っている。
僕の意見というのは本島にある瀬凪高校の文化祭に混ぜて貰ってみる、というやつだ。
「…じゃあ僕の意見にするとして。」
「それでどうするよ。」
「まあもう文化祭も近いし、すぐ向こうの学校に連絡した方がいいよな」
「遅いと向こうも対応できないだろうし」
彼は岡田。眼鏡をかけていて背が高い。頭が良く瀬名高校に進学したかったらしいが祖母の介護の都合上三月高校に進学した。
フランクだが、いつもどこか心の壁を感じる。
幼なじみで昔は僕と仲が良かった。
「えじゃあそういうさ、電話できる人いる?」
「なんか。連絡~みたいな。」
伊藤さん。関わりがなくて彼女の事はよく知らない。
3年の6月になっていきなり三月高校でも文化祭がしたいと言い出した。
「えでもいきなり連絡ってするもんなの…?」
須藤さんが声を出す。小学校の頃は岡田も併せた3人でよくお互いの家に遊びに行ってたっけ。
中学から疎遠になった。
「ちょっとくらい予定立てた方が向こうにも伝えやすいと思う、かな…」
「…。」
会話が止まった。お互い目を合わせたり逸らしたり。
ぎこちない時間が流れる。
「確かに、須藤の言う通りだな…。」
岡田が気を利かせて中ば独り言のように話を続ける。
「実際さ、伊藤はどういう…出し物…とかさ、やろうとしてんの?」
「まあ今みんなで話し合いたいなーみたいな…」
「…。」
別に誰が孤立しているとかは無いクラスだったと思う。
だけどそれは仲良くするしかないからそうしていたんだと、
この状況を見ればふと思ってしまう。
…あぁ気まずい…僕も意見しないとな…
「…瀬凪高校のさ、友達の多いクラスにそれぞれ入れてもらう、みたいな」
いやさすがにキツイか…。
「うーん、結構ばらけてると思うよ、友達。」
須藤の助け舟。
「なんか意見出ない感じだしみんなさ、家で考えてくるのはどう?」
伊藤さんの顔は渋い。
「え~、まあ今決めたい感あるけど…」
「別に家帰って考える事でも無くない?」
「まあ伊藤さんの気持ちもわかるけど…」
「うーん…」
須藤さんも黙ってしまった。
…うんうんと唸ったり目を泳がせてみたり顎に手を当てたり。
みんな考える素振りを見せるが誰も意見は出さない。
「あ〜うーん…」
時計を見る。意味も無く。
…。
「うい。」
スッと飯野がみんなの輪の中にスマホをかざす。
「…グループ作ったら家帰ってもなんか話できるでしょ。」
いつの間にかライングループを用意する画面だ。
「…。」
無言で一人一人順番にグループへ参加する。
そういやまだ作ってなかったんだ。…ってみんな思ってるだろうな。
「よし、みんな入ったな。」
「じゃ伊藤帰ろな」
「あっうん」
伊藤と飯野がさっさと教室を出ていく。
「…俺も帰るわ、電気頼むわ。」
岡田も帰った。
ガラガラとドアを閉める音、
シーンと音のない音。
停滞した空気に馴染んでいたから、この急な展開にちょっと戸惑う。
横には同じ様に戸惑った須藤さんの顔。
「電気は…。」
「いいよ僕やるよ。」
生徒が少しでも放課後教室を使ったら、誰かが消灯に行くのがこの学校のルールだ。
「ありがと。」
「うん。」
鞄を持って教室を出る。
パチンと電気を消して、ピシャッとドアを閉める。
「…。」
「びっくりしたよね。」
須藤さんが僕に話しかける。
「えっ何が?」
「伊藤さんがさ、急に文化祭って言いだしたの。」
「あっああ~確かにね。びっくりしたよ。」
「まあねぇ、確かに味気ないよね。」
「なんもないままだと。」
「あっうん、まあね。」
「だけどさ、ちょっと…」
「…。」
「急、っていうかね。」
「あぁ。…確かにね~。」
「まあ岡田君とか勉強頑張ってるみたいだしね。」
「ね、ね。そうだよね。」
「うん。」
「…うん、はは。急ね。」
「はは…ね。」
「じゃまた明日ね。」
すぐに玄関に着く。
夕暮れも終わる薄暗い時間。
軽く手を振って背中になった須藤さんを見送る。
「…また明日。」
…。
…聞こえてなさそうだ、今のは。
今聞いた須藤さんの声とか、会話の間合いとか。
当然に僕の幼馴染だったころとは何もかもが違っていた。
職員室には誰もいなくて当然暗くて、消す必要があるのは廊下だけ。
一人で歩くと地味に長い。
「…はあ。」
誰もいないって知っているから、
僕はわざとらしくため息をした。
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